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第8話 西とは

翌朝。

ライナは軽く肩に背負ったリュックを調整し、ターナルを出発した。

石畳の道が森へと続く。朝の冷気が頬を刺し、鳥の鳴き声が遠くから聞こえてくる。


人通りは少ない。村の外れを過ぎると、周囲は森と草原に変わる。

ライナは足取りを緩め、視界に広がる景色を観察しながら歩く。


「西……ルーナハルか」

低く呟く。


夜になり野営をし、簡単に食事を済ます。

ライナは噂を頭の中で整理する。

研究者としての思考は止まらない。


「黒い翼…、……鳴き声……

翼の色は恐らくメラニン色素の集中によるものだろう。暗色は夜間活動に適応した証か。

咆哮が人声のように聞こえたのは、音響構造の特殊化か、あるいは別種のコミュニケーション方法か……」


ライナは小さなノートを取り出し、短く走り書きをする。

「→鳴き声:共鳴・模倣説」

「→夜行性説強化」


「うむ……まずは現物を見てみないとその価値は計り知れん」

彼は笑みを浮かべ、毛布に包まった。


翌朝、小さな川を渡り、倒木を越え、草原を抜ける。

風が葉を揺らし、遠くで何かが鳴く。

ライナは足を止め、耳を澄ます。


「……あれは……?」

微かな低音。竜の咆哮に似ているが、はっきりしない。

ライナは眉をひそめる。


彼の頭の中で、先ほど聞いた噂が組み立てられる。

「黒翼+異音=未知種の竜、または亜竜種。それか、大型の鳥か。

だが夜明けの時間帯というのは興味深い。活動時間のパターンを知れば、遭遇確率は上がる……」


皮袋を背に、ライナは独り呟く。

「研究者ライナの仮説――これを現場で検証する。新種か否か、その答えは……西にある」


夕暮れが近づき、空は朱に染まり始めた。

ライナは長い道のりを歩き、森と草原を抜けていた。足元の草は踏みしだかれ、風は湿った匂いを運ぶ。


村はもう近い。だが、ライナは足を止めた。

その感覚は、単なる疲労や好奇心ではなかった――研究者の直感だった。


野営の準備をしていると、

「……何かがおかしい」

彼は低く呟き、耳を澄ます。


風に乗って、遠くから低く唸るような音が届く。

それは鳥の鳴き声とも獣の咆哮とも違う、奇妙で共鳴するような響き。

そして――さらに何か、空気の流れが変わった気配。


ライナは立ち上がり、周囲を見渡す。

視界の先、村へ続く小道の上空には、不自然な影が漂っていた。


「……あれは……翼か?」

影は静かに揺れ、夕陽に溶け込むように黒く伸びている。

翼膜のような形状が僅かに見え、尾のようなものも確認できる。


ライナの胸に、熱い血が駆け巡る。

研究者の本能が確信する。

「噂は……真実だ。これは――亜竜か、それ以上の未知種だ……!」


彼はノートを取り出し、急ぎ記す。

「→黒翼+異音=未知亜竜種。到着直前の遭遇確率高。即時調査必須。」


ライナは野営道具をリュックに詰め直し、深く息を吐く。

「よし……ここまで来た以上、後戻りはできん。全てはこの目で確かめる……研究者ライナ、出撃だ!」


足音を軽くし、彼は進む。

夕陽の残照が背中を染め、彼の影は長く伸びた。


――その視線の先、村の空に低く響く咆哮が再び鳴り渡った

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