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第6話 報告とは

朝日が村を照らす頃、ライナはゆっくりと目を開けた。

 頭が重い。胃が重い。口の中には酒と肉の匂いが混ざって残っている。

 そして何より――視界の端で気づく異変。


「……カリュドが……いない……?」


 昨夜の焚火の騒ぎは夢だったのか? 酒のせいで記憶が薄れていく中、ライナは重い頭を抱えながら起き上がる。


 どうやらカリュドは、何事もなかったかのように旅立ったらしい。


 ライナはため息をつく。

「……まあ、またどこかで会えるだろう。同志……じゃねぇ、相棒よ……」


 血まみれの革鎧と破れた服のまま、ライナは村を後にし、旅の拠点であるターナル街へ戻ることにした。

 その足取りは、まだ酒と昨夜の宴の余韻でフラフラしていた。


ターナル街のギルドは今日も賑やかだった。

討伐依頼の報告は、冒険者にとって日常の儀式。だが、ライナの報告は少し変わっていた。


 ギルド受付で、ライナは依頼書と共に血まみれの鱗片、尾の一部、そしてリュックからノートを取り出す。

「ワイバーン討伐、完了しました!」


受付嬢は書類に目を通し、眉をひそめる。

「えっと……ワイバーン討伐の証、これだけですか?」


ライナは肩をすくめる。

「……正直、切り刻んじゃったんだ。研究のために」


受付嬢は絶句。

「……討伐の証を切り刻むって……報酬ゼロですね」


ライナは笑いながら頭をかく。

「そうだな……報酬はゼロ。でもな、俺は得たぞ! 貴重な研究データと、村人の安全、そして何より……ワイバーンの肉と宴の記憶だ!」


周囲の冒険者たちは笑い出す。

「それ、報酬に入りますか?」

「お前、完全に趣味で戦ってるな」


ライナは得意げに頷く。

「趣味こそ最高の報酬だ! 俺の脳内評価では、プライスレスだ!」


受付嬢はため息をつきながらも書類に判を押す。

「……じゃあ、報告書には“研究成功”って書きます。もう二度と討伐の証を切り刻まないでください。」


 ライナはギルドの広間の真ん中で、腕組みしながら熱弁を振るう。

その様子は酔っぱらい科学者そのものだった。


「まず、翼の骨格比率だ。翼の長さは体長の1.8倍で、骨の密度は通常の竜種より14%低い……つまり、飛翔能力は高いが持久力はやや劣る。これはワイバーンが短距離襲撃に特化している証拠だ!」


 聞いていた若い冒険者が小声で呟く。

「……すげぇけど何言ってるか半分も分からない」


「次だ! 尾だ! 尾の長さは体長の約四割、尾先には複合毒袋が存在する! この毒は神経麻痺性と組織壊死性の二重構造で、触れた肉体を数分で機能停止に追い込む! 研究者としては宝のようなサンプルだ!」


 ライナは小さな瓶を掲げる。中には濃い黒褐色の液体が揺れていた。

「これは“竜毒第六号”と名付けよう。いや、まだ論文段階だが……!」


 ギルド受付嬢が苦笑しながら言う。

「……全部、専門用語過ぎて誰も追いついてないです」


 ライナは笑いながら頷く。

「そうだ、それが竜学の面白さだ! そして最後に言う……ワイバーンの鱗は厚さ12ミリ。鉄より強靭でありながら、軽量化されている。防具研究にも応用できる。つまり……俺は未来の竜防具技術を握ったのだ!」


周囲から笑いと拍手が起きる。

誰かが冗談めかして言った。

「お前、報酬ゼロなのに」


ライナは得意げに酒瓶を掲げる。

「報酬は研究結果、それこそが報酬だ!」


 受付嬢は苦笑しながら判を押す。


そして街を去るライナ


 その日の夕方、ライナは背中に鱗片入りの皮袋を背負い、ターナル街を歩く。

 二日酔いの頭を揺らしながら呟く。


「……次こそは強くて美しい本物の竜に会う……ヴァスラフよ、待っててくれ……」


 街の雑踏の中、ライナの声は風に消えていった。


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