第5話 宴とは
夜になっても村の広場は賑やかだった。
焚火の周囲には、酒とワイバーン肉を囲む村人たちの輪ができている。
子供たちは大声で笑い、酒を飲む大人たちは「これは旨い」と言い合い、老婆は「こんな夜は久しぶりだ」と目を細めた。
その中心にいるのは、羽根付き帽子を斜めにかぶったカリュドだ。
両手で大鍋を抱え、満面の笑みで宣言する。
「同志よ! これはただの食事ではない! これは文化であり、科学であり、冒険だ! 竜肉の歴史を創る夜だ!」
村人たちは鍋の中身に恐る恐る視線を送る。
「……何入ってるんだ?」
「なんか毒っぽい匂いがするけど……」
ライナは血まみれの革鎧姿で、焚火のそばに座り込み、酒瓶を傾けていた。
「……俺はこういうの、嫌いじゃないな……」
と言いながら一杯飲み干す。
酔いが回ったのか、ライナは突然大声で語り始める。
「聞け、聞けぇぇぇぇ! 竜というものはな、ただの怪物じゃない! 骨格比率、鱗の硬度、筋肉の密度……それらは全て進化の証明だ! 竜の爪には数千年の歴史が詰まっておる!」
村人たちは笑いながら耳を傾ける。
「……お前、何言ってんだ?」
「よくわからんが凄そうだな」
ライナは酔った手で胸を叩く。
「ワイバーンだってな、竜の亜種だ! だが竜とは違う。翼の比率、尾の長さ、毒性……研究対象としては極上だ! 私はこの身を賭して……いや、酒を賭してそれを証明する!」
周囲の村人たちは笑いと驚きでざわめく。
老婆が顎に手を当てて呟く。
「……酒で賭すとか……どんだけ好きなの、この人」
ライナは大声で頷く。
「そうだ! 酒と竜肉こそが冒険者の心の糧だ! 我々は酒と共に歴史を切り開くのだ!」
カリュドは大笑いし、焚火の炎を煽る。
「同志よ! 君の語りは酒場で語られるべき歴史だ! そしてそれを聞きながら食べる竜肉……これぞ究極の宴ではないか!」
ライナはグラスを掲げ、酔っぱらった顔で応じる。
「ならば乾杯だ! 竜の歴史に! そして竜肉に!」
村人たちは笑い声をあげ、グラスを掲げる。
「乾杯!」
「竜肉ばんざい!」
カリュドはそのまま勢いづき、焚火を背に大声で宣言する。
「同志たちよ! 私は決断した! 明日からこの村を“竜肉文化村”にする!」
村人たちはざわめき、笑いながらも戸惑う。
「……竜肉文化村って何だよ!」
「また変なこと言ってるぞ」
ライナは酒瓶を握りしめ、少しよろめきながら立ち上がる。
「……俺も賛成だ。いや、賛成だ! 竜肉は文化だ。宴だ。研究だ。そして……酒と竜肉は人生だ!」
カリュドは歓声を上げ、焚火に向かって鍋を高く掲げた。
「そうだ! 同志よ! 我らは竜肉と共に歩むのだ!」
村人たちは笑い声と拍手で応じる。
子供たちは走り寄り、鍋の香りに手を伸ばす。
「僕も食べたい!」
「もっとちょうだい!」
カリュドは子供たちに笑顔で肉を取り分ける。
「よしよし、これぞ竜肉文化の証明だ!」
その間もライナは酒瓶を片手に、村人の方へ向かって酔っぱらいウンチクを続ける。
「竜はただの怪物じゃない……あいつらは文化だ……文明だ……歴史そのものだ……そしてな、竜の骨は酒のように熟成する……いや、酒よりも深い……!」
村人たちは笑いと呆れで首を振る。
「……もう何言ってるか分からんぞ」
「でも楽しそうだな」
ライナは酔った笑みを浮かべ、グラスを掲げる。
「同志よ……竜と酒に乾杯だ……!」
カリュドは笑い、焚火を揺らしながら応える。
「乾杯だ! 同志!」
そうして夜は更けて行った。