第38話 事件とは
――ロステル村・広場。
調査を終え、昼を過ぎた頃、ライナは落ち着いた足取りで村へ帰ってきた。
村人たちが自然と輪を作り、好奇と安堵の入り混じった視線で彼を見つめる。
ライナは背負い袋を整え、低く声を発した。
「謎の魔物の正体は、スタグライドオウルである。本来の生息域は北方だが、今回は何らかの理由で南へ出現した。研究上の異常点も確認できた。これにて調査は終了する」
村人の一人、トーヴァンは大きく息を吐き、ほっと胸を撫でる。
「ふぅ……疲れました……」
ライナは淡々と背負い袋を担ぎ直す。
「……帰る。以上だ」
その時、村長がどこからともなく現れ、手を組みながら近づいてくる。
「お疲れさまでした。で、殺人事件の方はどうするのですか?」
ライナは一瞬視線を止めた。
「…………」
トーヴァンが小声で不安そうに口を開く。
「え……? ライナさん、帰っちゃうんですか?」
ライナは背を向け、淡々と答える。
「魔物の正体は突き止めた。事件は……誰かに任せるべきだ」
トーヴァンの顔色が真っ青になる。
「えぇぇぇ!? それって、事件放置ってことじゃないですか!?」
彼は大きくため息をつき、頭を抱える。
「いやぁぁぁ……俺、村一番の心配性なのに! これは心臓に悪いですって!」
ライナはため息を返す。
「はぁ……早く研究を進めたいのに。では、村人を全員集めてください」
昼過ぎ、村長の号令が村中に響く。
村人たちが広場に集まると、ライナは魔導剣を抜き、静かに前に立った。
「今から皆さんにこの剣を向ける。最近王都で発見された魔法だ。私の質問にもし嘘偽りがあった者は、この剣で真っ二つにされる」
村人たちは悲鳴をあげる者、怯える者、逆にドンと構える者などさまざまだが、広場は緊張感で満ちた。
ライナは一人ずつ剣を向ける。
「汝、人の道を外してはいないか?」
剣を向けられた初老の村人は恐る恐る答える。
「は、外しておりません」
ライナは淡々と次の村人へ向け剣を振るう。
その瞬間、並んでいた若い男が突然走り出し、ライナの下へ膝をついた。
「待ってください!言います!俺です、俺がやったんです!」
ライナは声を張る。
「彼を取り押さえなさい!」
若い男は魔物騒動に乗じて、自らの犯行を魔物のせいにしようとしていたと告白する。
ライナは剣を納め、小さく呟く。
「魔物以上に、人間というものは恐ろしい」
トーヴァンは目を丸くし、驚きと興奮で言った。
「すごい魔法ですね! 剣だけで真実が見抜けるなんて!」
ライナは肩をすくめ、淡々と答える。
「はったりだ」
村人たちからざわめきが起こり、ロステル村の広場は奇妙な空気に包まれた。