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第36話 野営とは

太陽は傾きはじめ、森の影が長く伸びていた。鳥の鳴き声も減り、虫の声が代わりに響き出す。


「……そろそろ日が暮れるな」

ライナが周囲を見渡すと、カリュドはもう落ちていた枝を集めていた。


「おう、今日はここで野営だ。火を起こして、茸スープ第二弾だ!」


トーヴァンは慌てて両手を振る。

「ちょ、ちょっと待ってください! 俺、野営を手伝うなんて聞いてないですよ!? 案内役だけだって……」


カリュドは笑いながら枯れ枝を肩に担ぐ。

「はっはっは!なら今からひとりで山を下りればいい。……この森を夜通し歩いてな!」


「ひ、ひとりで!? よ、夜の森を!? む、無理です!!」

トーヴァンの顔は一瞬で真っ青になる。


「じゃあ野営準備だ!火打ち石は俺がやるから、お前は水汲みだな!」


「ひぃぃ……やります!やりますからぁ!」


ライナは無言で野営の場所を選び、石を並べて簡易の炉を作りながら呟いた。

「……脅迫で人を動かすな」


カリュドは胸を張る。

「何を言う!人間は、恐怖と食欲で最もよく働くんだ!」


「……お前の言葉を聞くと、文明そのものが不安になる」


「はっはっは!文明なんざ腹を満たすための工夫だ!」


ライナは焚き火用の木を置きながら、深い溜息をついた。

「……この男といると、緊張感と疲労が二倍になる」


そんな会話をよそに、トーヴァンは慣れない手つきで鍋を洗いに小川へ向かう。

背中を見送りながら、ライナの眉間にふと影がよぎった。


――森の外れ、野営準備の最中。


ライナは手際よく石を並べ、枝を組んで風の通りを調整していた。

ふと、指先を止めて、周囲の気配に耳を澄ませる。


――羽ばたき。

だが、それは小鳥の軽い羽音ではなく、空気そのものを押しのけるような重い響きだった。


ライナは反射的に顔を上げる。

森の上空、夕陽を背に、大型の影が横切った。大きな翼、そして伸びた尾羽――


「……あれは――スタグライドオウルだ」


声は低く、しかし確信を帯びていた。


「す、すた……何ですかそれ!?」

トーヴァンが半ばしゃがみ込みながら空を見上げる。


ライナは淡々と答える。

「巨大梟の一種だ。翼長は四メートルを超える個体もいる。特異なのは飛び方――羽ばたくのではなく、滑空を主にして獲物を狩る。……“空を走る梟”とも呼ばれている」


カリュドは目を輝かせ、にやりと笑った。

「ほぉぉ、でかい鳥! やっぱり俺の勘は当たってたな!ライナ、あれは美味いのか?」


「……知らん」


「未知の肉か!ますます楽しみじゃねぇか!」


トーヴァンは青ざめて、今にも泣きそうだ。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! そんなのが頭上を飛んでるのに野営して平気なんですか!? 俺、ぜったい食べられますって!」


ライナは冷静に首を振る。

「大丈夫だ。スタグライドオウルは無闇に人を襲わない。奴らが狙うのは、鹿や猪のような四足獣だ。だが……」


「だが?」


ライナの目が細くなる。

「この森でそんな大型の捕食者が観察されるのは稀だ。痕跡も、死体も残っていなかったはずだ。……つまり、これは最近になって棲みついた個体だ」


カリュドは顎に手を当てて唸る。

「なるほど……じゃあ、“謎の魔物”の正体がそいつって可能性もあるわけか」


ライナは黙って空を見上げた。

翼を広げて闇に溶けるように消えていく巨影――。

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