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第35話 スープとは

――森道。

霧はすこし晴れて、木漏れ日が斑に地面を照らしていた。

ライナは、差し出された木椀を手に取り、ため息をひとつ。


「……あいかわらず、火加減は無駄に完璧だな」


カリュドは胸を張る。

「当然よ!冒険者たるもの、剣の腕前と火加減は命だ!」


「……いや、並べるな」


「何を言う!焦がせば食えん、食えねば動けん、動けねば死ぬ!つまり火加減こそが剣技と同じくらい大事なのだ!」


ライナは木椀を口に運び、ひとくちすすってから眉をひそめる。

「……味付けが濃い。茸の旨味が死んでる」


「なにぃ!?ライナ、貴様、舌まで研究者になったか!?」


「事実を言ったまでだ」


横で聞いていた道案内の若者は、ぷるぷる震えながら思わず口を挟む。

「あ、あの……お二人とも、魔物や殺人の話してたはずですよね!? な、なんでスープの議論に……」


カリュドは豪快に笑った。

「心配無用!こういうときこそ落ち着くのだ!人殺しだろうが魔物だろうが、腹が減っては推理も剣も鈍る!」


「……説得力があるようでないのがすごいな」ライナは椀を置き、眉をひそめる。

「それに、さっきの茸……どこで採った」


「お?よくぞ聞いた!昨日、死んでいた大鹿に茸の群生があってな!」


「……」


ライナは無言で椀を突き返した。


「お、おい、待て待て! 煮沸はした!毒抜きもした!たぶん死にはせん!」


「……お前の“たぶん”ほど信用ならないものはない」


若者は椀を落としそうになり、悲鳴をあげる。

「ひぃぃぃぃ! し、死体から生えてたキノコですか!? 絶対やばい奴ですよ!」


カリュドはむしろ得意げに胸を叩く。

「だからこそ味が深いのだ!」


ライナは額を押さえ、深くため息をついた。

「……お前が生き延びてるのが一番の謎だ」


「はっはっはっ!運と火加減が神が俺に与えた技だからな!」


――緊張と脱力が同居する森道。

事件は依然として闇の中だったが、ライナの疲労はすでに増していた。


日が高くなり、霧はほとんど消えていた。


食事を終え、3人は、魔物の痕跡があった場所を目指す。

しばらくするとカリュドは足を止め、土を蹴りながら森を見渡した。

「……やっぱり竜や亜竜じゃねぇな。森の気配が“重くない”。」


ライナは片膝をつき、地面の草を観察する。

「確かに。」


「竜が出る森ってのはな、空気そのものが変わるんだ。獲物は減り、木々は音を潜め、風までよどむ。だがここは……」

カリュドは指を弾く。鳥の声、リスの走る音、獣の気配が返ってくる。


ライナも頷いた。

「餌となる獣の数はむしろ豊富だな。……竜種なら、まずこの状態はあり得ない」


「そういうこった。つまり正体は別物――せいぜい“でかい亜種獣”ってところだろうよ」


ライナは草むらに目をやる。

「だが足跡は奇妙だ。爪痕は深く大きいが、間隔が狭い。大型獣にしては歩幅が小さすぎる」


カリュドはにやりと笑った。

「つまり“見かけ倒し”ってわけだ。派手な爪痕を残してるが、体格は大したことねぇ」


若者はごくりと唾を飲む。

「で、でも……そんなの、どんな魔物なんですか……?」


ライナは少し考えてから口を開いた。

「候補は大型の鳥。」


カリュドは目を輝かせる。

「でかい鳥か!それは楽しみだな! 素材も肉も取り放題だぞ!」


「……すぐ食材扱いするな」

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