表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/54

第32話 道程とは

――ターナルを出てから、1ヶ月。


ライナはひとり旅を続け、村や街を渡り歩きながら竜にまつわる噂や記録を収集していた。

だが、手に入る情報の多くは断片的で、竜そのものを直接目撃した者はいない。


「……また伝承か。」


小さな山間の村・ロステル。

宿の一室で、ライナは聞き取った話をノートに書き留める。

村人が語ったのは「影が山を横切った」という曖昧な証言。

だが、影の正体は巨大鳥かもしれず、断定には程遠い。


「だが……飛翔する“影”の報告は捨ておけない。」


ライナは資料を重ね合わせ、地図の上に印を記していった。

すると、不思議なことに気づく。

――点と点が、ひとつの線を描き始めていたのだ。


「……北東へ、流れている?」


地図に浮かび上がる軌跡は、まるで竜が渡りをしているかのように、一定の方向性を持っていた。


ちょうどその時、宿の下からにぎやかな声が聞こえた。

旅の商人たちが、山道で荷車を襲った「巨大な翼を持つ生き物」の噂を話している。

それは偶然にも、ライナが地図で線を引いた先――次の目的地にあたる地方だった。


「……確かめる価値はある。」


ライナは静かに荷をまとめ、蝋燭の火を吹き消した。

窓の外には満天の星。

そのひとつひとつが、彼の進む道を指し示しているように輝いていた。


翌朝。


ライナは村を発ち、北東へと歩みを進める。

竜の痕跡を追うその旅路は、やがてただの噂ではない、確かな“存在”へと近づいていくのだった。


北東の山岳地帯へと続く街道。


ライナは乾いた風に外套を揺らしながら歩を進めていた。

目指すのは小さな村――エルダ村。

旅商人の噂に出てきた「巨大な翼を持つ生物」が現れたのは、その近辺の山だという。


「……竜の可能性は低い。」

独り言のように、ライナは呟く。

実際、報告にあった特徴は曖昧で、亜竜種の魔物や大型の猛禽であっても不思議ではなかった。

だが、研究者として少しでも手がかりがあるのなら、見逃すわけにはいかない。


やがて、山の谷間に点在する畑と、石造りの家々が視界に入った。

それが目的地――エルダ村だった。

夕暮れが迫り、村の周囲には橙色の光が差し込み、煙突からは夕餉の煙が漂っている。


ライナは広場の井戸端で水を汲んでいた中年の村人に声をかけた。


「旅の者かい? この村に何の用だ?」

「調査だ。最近、このあたりで“巨大な翼を持つ影”を見た者がいると聞いた。」


男の顔色が僅かに変わった。

「……ああ、あれか。俺も見たわけじゃねえが、山の方から風を切る音と、低い鳴き声が聞こえた。村じゃ“黒翼の魔”って呼んでるが……正体は誰にもわからん。」


「姿を直接見た者は?」

「一人、山で薪を集めてた若い衆がな。だが恐怖で混乱してて、翼の形もはっきりしねえ。ただ――“羽ばたきで木々が揺れた”って話だ。」


ライナはその言葉に眉をひそめ、ノートに書き込んだ。

もし本当なら、並の魔物や鳥では説明がつかない。


「その若者に会いたい。案内はできるか?」

「明日の朝なら……。だが、あんた、本気で確かめに行くつもりか?」

「当然だ。真偽を確かめなければ、研究は進まない。」


村人は呆れたように首を振りつつも、明日の約束を承知してくれた。


夜。


ライナは古びた宿屋の一室にて、机に地図を広げた。

地形からすれば、目撃場所は険しい渓谷の入り口付近。

そこは風が強く、飛翔する生物にとっては格好の環境だった。


窓の外には月が浮かび、冷たい光が紙の上を照らしていた。

ライナは深く息をつき、ペンを置いた。


「明日、確かめる。」


その瞳は、研究者の好奇と執念に燃えていた。


こうして、ライナは“黒翼の影”を追うべく、翌日の調査に備えるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ