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第24話 熊とは

周りを軽く調査をし、森を出て村へ戻る道すがら。


黒熊を一刀両断した直後の沈黙は、ようやく破られた。


「……おい」アドルフが重い口を開く。

「ライナ、お前……今まで隠してただろ」


ライナはきょとんとした顔で首を傾げる。

「え? 何をです?」

「何をって……あんな熊を真っ二つにしておいて、“研究が優先”だと? 普通の学者は熊に勝てないから!」


シーナが笑いを堪えきれず、腹を抱えた。

「ははっ! やっと喋ったな、アドルフ! さっきまで口あんぐりして固まってたじゃねぇか!」

「う、うるさい! あれは驚きすぎて声が出なかっただけだ!」


リュミナはまだ信じられないようにライナを見つめ、ぽつりと呟いた。

「……でも、あの魔導剣の一閃、すごく綺麗だったわ。まるで……掃除みたいにスパッと」


「掃除ですか」ライナは小さく笑い、ノートを閉じた。

「まぁ、魔物退治も生活の延長ですから。ゴミは早めに処理するに越したことはありません」


三人「…………」


妙に実用的な例えに、誰も突っ込む言葉が見つからなかった。


――村に戻ると、村人たちが慌てて駆け寄ってくる。

「みんな無事か!?」

「その血は……!?」


シーナが胸を張って答えようとした瞬間――ライナが先に一歩前に出る。

「魔物化した熊がいましたが、処理済みです。これでしばらくは川辺も安全でしょう」


「処理済みって……」

村人は目を丸くし、シーナたちは一斉にずっこけた。


「おいライナ! 倒したんだからもっとこう、“俺たちの勝利だ!”って言えよ!」

「……無駄に誇張しても研究には意味がありませんので」

「いや研究じゃなくて! 村人相手なんだから!」


結局、シーナが「俺たちが仕留めた!」と胸を張り、ライナは横で真顔でノートを取り続けていた。


――その夜。

武具を鍛冶屋に預け、リュミナは弓の弦を張り替え、アドルフは杖を磨く。

シーナは飯を頬張りながら豪快に笑う。


ライナだけは机に向かい、羽根ペンを走らせていた。

「魔力反応あり、四枚翅の昆虫、黒熊型魔物との交戦記録……ふむ」


「おいライナ! ちゃんと肉食え!」

「食べながらでも書けますので」

「絶対こぼすだろ! ……あーっ、やっぱりインクにスープがっ!」


小さな騒ぎと笑い声が、村の夜を賑わせていた。


調査と戦いの幕開けは、こうして少し騒がしく始まったのだった。


――翌朝。


まだ朝靄が残る村を出発し、四人は再び森へ足を踏み入れた。

昨日の戦いの影響か、森は妙に静まり返っている。鳥の声も少なく、風のざわめきだけが耳に届いた。


ライナは地図代わりのノートを片手に、苔や樹皮を観察しながら進む。

「やはり、ここを北東に折れるのが最適でしょう」

「おい……昨日も思ったが、お前の“最適”ってのは信用していいのか?」アドルフが眉をひそめる。

「もちろんです。学術的には」

「“学術的”……昨日は熊と真っ二つの学術だったけどな」シーナが吹き出す。


リュミナは苦笑しながら弓を構えたまま辺りを見渡す。

「まぁ、ライナの見立てで進めば、何かしら“珍しい”ものにぶつかるのは確かね」


そんな軽口を交わしながら森を抜けると――急に視界が開けた。


広がっていたのは、緑の草が一面に茂る小高い丘。

朝の光が差し込み、露に濡れた草花が宝石のようにきらめいている。

遠くでは川が蛇行し、森を切り裂くように白く流れていた。


「……おお」シーナが感嘆の声を漏らす。

「ここまで開けてるとはな。野営地には最適だ」

「ええ、それに見晴らしがいい。観察にも好都合です」ライナは目を細め、丘の斜面を登り始めた。


丘の上に立つと、彼は手をかざして遠方を眺める。

「……あそこです」

指さした先には、森のさらに奥、淡く光を反射する何かが見えた。


「おいおい、まさか熊が、とか言わないだろうな?」アドルフが顔をしかめる。

「いえ、もっと大きいものです。あれは――」


ライナの口元に、わずかな笑みが浮かんだ。


――次なる調査対象が、確かにそこにあった。

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