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第18話 暴走とは

――ギルドの卓上は、ライナの暴走気味な仮説の数々でにぎやかになっていた。

みんなが笑いを収めきれない中、ライナは急に椅子から立ち上がり、勢いよく拳を握りしめた。


「ですからっ! これは放っておくわけにはいきません!」

目はぎらぎらと輝き、声は石壁に反響するほど。

「ぜひっ、ぜひ現地調査に同行させてください! 学術的観点からも、歴史的意義からも、これは一大事なのです!」


リュミナは思わず口を開けたまま、ぽかんとする。

「……え、そんなに? あんた研究室にこもるタイプじゃなかったの?」


「研究は現場でこそ活きるのです!」

ライナは机をばん!と叩き、さらに熱を帯びる。

「未知の飛行竜かもしれない存在が実際に飛んでいる――そんな千載一遇の機会を逃すなんて、学者の恥! いえ、人類の損失です!」


アドルフが眼鏡をくいと押し上げ、冷静に返す。

「……学者の恥はともかく、人類の損失は大げさだろう」


「大げさではありません!」

ライナは両手を広げ、ぐるぐる歩き回る。

「竜の進化系譜に新たな枝が加わるかもしれないのですよ!? 飛行能力、骨格構造、鱗の特性、魔力適性……ああっ、考えるだけで眠れない!」


周囲の冒険者たちからも、どっと笑いが起きる。

「研究者、熱すぎる!」

「おい、本気で連れてくのか?」

「いや、むしろ連れてったほうが面白そうだぞ」


シーナは腹を抱えて笑いながら、ライナの肩をばしんと叩いた。

「よし、わかった! そんなに言うなら、一緒に来るといい! ただし――あんた、戦闘でも役に立ってもらうからな!」


「も、もちろんです!」

ライナは胸を張り、剣の柄に手を添えた。

「今度こそ実地で証明してみせましょう!」


リュミナが苦笑し、アドルフは小さくため息をついた。

だがその顔は、わずかに楽しげでもあった。


――こうして、竜研究者ライナは〈風牙の牙〉と共に、黒い飛行生物の調査へと向かうことになった。


笑い声が一段落したあと。


「さて、熱が冷めないうちに行こうか」

シーナが立ち上がり、カウンター奥のギルド受付へ向かう。

ライナも急ぎ足でついていった。


受付嬢は帳簿を閉じ、顔を上げる。

「シーナさんたちですね。黒い飛行生物の件……正式に依頼を受けるということでよろしいですか?」


アドルフがうなずいた。

「調査、および危険なら討伐――その内容で間違いないな?」


「はい」

受付嬢は分厚い書類を広げ、簡潔に読み上げる。

「目撃報告は北方荒野〈ブルーリッジ峡谷〉周辺に集中しています。夕刻から夜にかけて黒い影が飛び、時折、家畜が襲われる事例もありました。ただ、被害はまだ軽微で、人命の喪失は確認されていません」


「ふむ……」

リュミナが頬をかき、少し首をかしげる。

「となると、本当に竜なのか怪しいね。大型の飛行獣かもしれない」


受付嬢は頷き、声を低めた。

「ただし、目撃者の中には“翼の幅が建物より大きかった”と証言する者もいて……。ワイバーンよりはるかに大きい可能性があるのです」


ライナは椅子から身を乗り出し、思わず口を挟んだ。

「翼幅が建物以上……! それは、古文献にある〈夜翔竜ナイトフライアー〉の記述と一致します! あるいは――」


「はいはい、研究者殿」

シーナが苦笑しつつ押さえ込む。

「続きは現場で調べてからな」


受付嬢は少し微笑んでから、依頼票を机に置いた。

「報酬は調査成功で金貨五枚、討伐成功で追加十枚。危険度は“準高位”に設定されています。くれぐれもお気をつけて」


アドルフが書類にサインし、シーナとリュミナも順に名前を記す。


最後にライナが緊張した面持ちで筆を取った。

胸を高鳴らせながら署名すると、彼は仲間のほうを振り向いた。


シーナがにやりと笑う。

「これで正式に同じ依頼の仲間だ。研究者殿、いや、ライナ覚悟はいいか?」


「もちろんです!」

ライナは雷のごとく勢いよく答えた。


――こうして一行は、黒き飛行生物の謎を解き明かすため、北方の荒野へ向かうこととなった

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