第2話 研究とは
漆黒の影が、夕陽を裂いた。
ワイバーン――竜の亜種。翼を広げれば馬車二台分、鋭い爪と毒を含む尾を持ち、牛や馬を好んで食らう恐怖の怪物。
村人たちは山を下り、討伐依頼を出した。
そして――研究のために、いや、竜に近づくために、ライナがやってきた。
「いた……! 本物だ! 翼の骨格比率は……尾の長さは体長の四割……あぁ、最高だ!」
感激のあまり涙を流しながら、ノートを広げて羽ばたきを数え始める。
――ドォン!
突然、火球が吐き出され、ライナのノートが一瞬で燃え尽きた。
「俺のメモォォォ!!」
崖の上からワイバーンが急降下してくる。
大地が揺れ、土煙が舞った。
ライナは腰の魔導剣を引き抜き、吠える。
「観察終了! 次は実験だ――雷装ッ!」
剣身に雷が走り、青白い閃光が山肌を照らす。
ワイバーンの爪と刃が激突し、火花が飛んだ。
ライナは押し込まれながらも、目を輝かせる。
「くっ……やっぱり筋力は竜種の特徴そのまま! 脚力、推定二トン級! すごい、記録したかったぁぁぁ!」
ワイバーンが翼で吹き飛ばす。
ライナは転がり、岩に背中をぶつける。
「……げふっ……でもまだ! 次は毒尾の分析だ!」
尾が閃き、石を砕く。
ライナはぎりぎりで転がり避け、剣に炎をまとわせた。
「炎装ッ! さあどうだ! 火炎と火炎のぶつかり合い! 竜の耐性はどこまで――」
――ドォオオオッ!!
ワイバーンの火炎と、剣から走った炎がぶつかり合い、爆発が起こる。
衝撃で吹き飛ばされたライナは地面に叩きつけられ、顔を煤まみれにしながら叫んだ。
「すっげぇぇぇぇ! でもノートが無いぃぃぃ!」
ワイバーンが追撃の爪を振り下ろす。
間一髪、ライナは剣で受け止め、歯を食いしばる。
「ははっ……強いな! でも――ここで倒さなきゃ研究もできない!」
彼は深呼吸し、魔力を全身に巡らせた。
剣が雷と炎を同時に纏い、轟音を上げる。
「――複合装、雷炎斬ッ!!」
閃光と爆炎が山を切り裂き、ワイバーンの翼を焼き裂いた。
絶叫と共に、漆黒の巨体が崖下へと叩き落ちる。
土煙が晴れる。
ライナは肩で息をしながら、剣を杖代わりに立ち上がった。
「……はぁ……はぁ……これだ……これが竜の力……」
満身創痍。革鎧は吹き飛び、服は破れ、髪は焦げ、ノートは灰。
だが、彼の目は輝いていた。
「次は……本物の竜に……会わなきゃ……!」
その執念は、かつて黄金の竜に出会ったあの日から、ひと時も消えてはいなかった。
こうしてライナの研究と冒険の旅は、ようやく始まったのだった――。