第12話 報告とは
ライナは静かに森を抜け、村へ戻った。
夕暮れ時、まだざわめきの残る広場に姿を見せると、村人たちの視線が一斉に集まる。
「どうだった、冒険者殿……竜なのか?」
年配の男が声を震わせて尋ねる。
ライナは肩からリュックを下ろし、淡々と答えた。
「竜でも亜竜でもない。あれは《デルガントカゲ》という大型のトカゲだ。翼に見えたのは皮膜。鳴き声は共鳴器官によるものだろう」
ざわり、と村人たちが顔を見合わせる。
「では……襲っては来ないのか?」
若い猟師が恐る恐る尋ねる。
ライナは一拍置いて、はっきりと告げた。
「心配はいらない。あれは繁殖期に入っている。卵を守ることが最優先で、人里にわざわざ攻めてくる理由はない。繁殖が終われば――自然と山奥へ引いていくだろう」
村人たちの肩から一斉に力が抜け、安堵の息が広場に満ちた。
「……そうか、じゃあ、騒ぎ立てることはないんだな」
「竜じゃなかったのか……」
ライナは頷き、ノートを閉じて背に戻す。
「むしろ近づかないことが肝要だ。下手に刺激すれば逆に危険だからな。おとなしくしていれば、自然の営みは静かに終わる」
村の長老が前に出て、深々と頭を下げた。
「……安心した。ありがとう、研究者殿。これで村も落ち着ける」
ライナは軽く手を振り、どこか研究者らしい無頓着さで答える。
「礼は不要だ。私は真実を記録しただけだよ」
――村の空気は、先ほどまでの緊張とは打って変わり、穏やかさを取り戻しつつあった。