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第9話 村とは

ライナは足早に村へ向かった。

森を抜け、石畳の道に足を踏み入れる。足音が静かに響き、村の入口へと続く。

空にはまだ薄暗さが残り、夕暮れの光が地面を朱色に染める。


村の入口には、普段より多くの人影があった。村人たちは足を止め、空を見上げ、互いに言葉を交わしている。ざわめきは細く、しかし確かな緊張を含んでいた。


「また聞こえたぞ」

「昨日も見た。黒い影だ」

「昼にも声がしたらしい」


村の声は波のように広がり、情報がすでに共有されていることを示していた。

ライナは眉をひそめ、軽く息を吐く。

「……村全体が、この事象を認知している」

その声は、研究者としての低く確信に満ちた呟きだった。


ライナは背中のリュックを整え、村の入口を跨ぐ。

その瞬間、村の空気が変わった。ざわめきがわずかに強まり、視線がライナへ向けられる。冒険者然とした出で立ちと、決然とした歩みが彼の存在を際立たせた。


広場に足を踏み入れると、人々が小さな群れを作り、空を見上げながら話し合っている。

ライナは足を止め、その光景を観察する。人々の表情には恐怖と好奇心が入り混じっていた。


「皆さん。先ほどの影と鳴き声について、これまでに何度も目撃や情報が出ていると伺いました。少しお話を聞かせていただけますか?」

彼の声は落ち着いているが、どこか引き込む力があった。


中年の男が顔を上げる。

「ええ、数日前から騒ぎになってます。昼間にも見えたし、昨夜も丘から聞こえたんです。黒い影と低い鳴き声……何度もです」


老婆も杖を突きながら口を開く。

「竜のような、鳥のような影じゃった。姿ははっきりしないが、恐ろしく大きかった……。村中で噂になっておる」


ライナは素早くノートを取り出し、記録する。


→村状況:複数回目撃報告あり。

→時間帯:昼〜夕刻〜夜間。

→形状:翼状影、黒色。

→鳴き声:低く共鳴、竜類似。


視線を巡らせ、ライナは村人たちの反応を観察する。声の抑え方、視線の動き、身振り。情報共有による緊張感が村全体に漂っている。


「……なるほど。村の記録と証言は揃った。これは確かに、調査に値する案件だ」

ライナはノートを閉じ、背中のリュックを締め直す。


村の奥から再び低い咆哮が響く。

それは村全体を包み込み、緊張の波を再び広げた。


ライナは深く息を吐く。

「……よし。次は現場だ」


彼は村人の間を抜け、村外れへと足を進めた

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