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将来の超絶最強軍師である俺が勇者を堕として最強の料理人を飼い犬にしてとにかく最強  作者: Os


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ディーゼス



【転移】の魔法が解けた瞬間、天井が目前に迫った。

……せまっ!?思わず声が漏れる。これは部屋か?

周囲を見渡すが、転移魔法陣の気配はない。

つまりこの【青霧のペンデュラム】は、魔法陣ではなくスキルによって転移を実行してるのか。


部屋の扉を開けてみると、俺がここへ来たことを知っていたかのように、直ぐに使用人らしき人物が駆けてきた。


「お待ちしておりました。支配人からの命により、この国での生活の補佐をさせていただきます。イオと申します」


ふわりと棚引く絹のような白髪。優雅な礼……けど声が低めだから男……?

いや、見た目が完全に美少女なんだけど!?


「こちらが……羽虫様の身分証と衣装、そしてわずかですがディーゼス国内で使える通貨です」


イオはさらりと説明しながら、袋を手渡してくる。

半笑いで“羽虫様”呼ばわりすんのやめろ。しょうもない入れ知恵されやがって!!


「商会の中には自動両替機もあります。少額に限られますが、旅行者には充分でしょう」


渡された服は南国向けの小洒落た夏服って感じ。

観光する気でもないけど、派手に浮くよりマシか。

さすが人間慣れした大悪魔、気が利く。

で、国ごとに通貨は別。身分証を見る限り………文字は同じなのか。


「そちらの身分証にはちょっとした契約が必要なのですが、難しければ私が──」


「よし出来た」


「──失礼しました。

それと……羽虫様の持つ転移の魔道具は、先ほどの部屋か、中央国デランタにある商会本部の支配人室に転移先が初期設定されています。お帰りの際はお気をつけて」


転移したらいきなり目の前に素振りの練習してるメルライトが現れて即死したりするかもしれないってことか?

まあ、メルライトの方が俺に配慮すべきだから心配しなくても良いか。

実質ペンデュラムに込められた魔力の量を考えれば行き来も無制限みたいなものだ。

帰りの心配もしなくていいと。

新たに数箇所転移先を設定することも出来るらしいし、早いところ目的地について自由に動けるようになりたいな。

そういえば、イオの胸元についてるバッジってシャトロが胸元につけてたやつと一緒だ。

商会内の役職の印らしいんだよな、あれ。

……そういえばイオは俺の補佐とかなんとか言ってたな。


「イオさん、俺の頼みって聞いてもらえんの?」

「はい。私の当分の主業務は貴方に手を貸すことなので」

「じゃあ恋人になってもらえるか」

「いいですよ」





ってことで観光していくぞ!!

この国では「光の神」とマイナーな「火の神」を信仰しているらしく、巨大な火の神像のある教会が街のシンボル。

街には青々とした広葉樹、カラフルな屋根、真っ白な壁の家々が整然と並び、水を使ったオブジェもあちこちに。

兎も角、めちゃくちゃ綺麗!!


「外の国に閉じてるって聞いてたけど、観光資源は豊富そうだな」


「この首都近郊に資源が集中していますから。届出さえ出せば国外居住者でも比較的簡単に観光できます。ただし、正式な国交はないので基本は非公開です」


「別に不仲ってわけでもないのに?」


「……まあ、そういう事情です」


どうやらイオは、メルライトから“観光の補佐”を頼まれてるらしい。

うん、嘘じゃん。ただの監視じゃん!! でもまあ、使えるなら使おう。


「ところであれはなんだ?」


道の向こうからやって来た、地面から若干浮遊した小型の馬車のような物体。

牽引するものが無くても動いているのが不思議だ。魔道具の類のようだが……


「あれは都市モジュール。都市間移動の主流手段です」


「ふーん、あんなのが大量にあれば楽なんだろうけどデランタでは見たことないな。普及する上で問題があったのか?」


「遺跡から大量に発見されたアーティファクトの流用であり、現時点で再現不可能なので輸出もされていません」


なるほど、技術はあっても再現できない壁があるのか……ロマンあるよな!


「あ、イオさん。俺あの店入りたい!!表にメニューがあるから見ていっても良いか?」


「良いですね。私もたまに行く店です。お金はそれぞれで払うことにしましょう」


──そうして、俺たちはその店に入った。


店員の男が出てきて、イオを見ると少し緊張した様子で言った。


「イオ様、お久しぶりです。そちらの方はご友人ですか? 身分証をお願いします」


「うん、彼は国外から来た友人だよ。今日初めての入国で──」


「違います。恋人です」


「こっ……!?」


──なぜかイオが白目でこっち見てきたけど、俺は笑顔を返した。


「なら先に言ってくれれば良かったのに!サービス付きでいきますよ!うちは生活に寄り添う店ですから!」


料理が次々に配される。

米の上に揚げ豆、和え野菜、肉を乗せたメイン。スパイスで煮込まれた付け合わせ。

果汁とフレークをかけたサラダ。

氷を砕いた粉に、練乳とジュースをかけた甘味。なるほど、悪くない。


「最後に、こちらデザートです!お二人でどうぞ!」


……一皿のデザートを見つめる俺たちに、店主の視線が突き刺さる。

期待に応えて、俺とイオはぎこちなくデザートを分け合った。


「うわあああ!一緒に食べてる!一緒に食べすぎ!?えっ!?もう入籍!?」


店主のテンションが限界突破したので、俺は微笑みながら「美味しいね、ダーリン」と言ってやった。


イオも顔を引き攣らせながら「入籍しましょう」と返してきた。


──会計を済ませると、店主がにこやかに言った。


「店主さん、普段よりも安いよ。良くしてもらえるのは嬉しいんだけど、ちゃんと正規の値段を……」


イオは居心地が悪そうにそう言うが、店主は気に留める気もないようだ。


「同じ地域に住んでる人間は家族みたいなもんだからさ。今後も彼と一緒でも、一人でもご贔屓に!」


「言っとくけど借りにはしないからね」


「貸しを作りたかったら契約書でも書かせるさ。さっさとこの値段で払え!」


閉鎖的な国とは思えないほどフレンドリーな店主に別れを告げて、

俺たちは店を出る。


店から少し離れた途端、イオはジト目で俺を見てきた。



「もしかして……私の立場を利用したかっただけなんですか?」


「まあまあ。気まずいなら、嘘じゃなくすればいいだけだろ?イオさんのこと、イオって呼ぶから、俺のことも“羽虫♡”って呼ぼうぜ!」


「本当にそれでいいんですか?」


「そうと決まれば次は婚約指輪だな。俺は魔法陣をこよなく愛する陣士。ここは魔法陣の陣の部分の概念で出来たエンゲージリングを」


「イオ!!」


突然、背中から強烈な衝撃を受けた。

ぐらつく視界の中、俺の身体は勢いよく宙を舞う。


──痛ぇ!?っていうか、何!?誰!?


振り向くと、右目に眼帯をした青髪の男がイオの肩を掴んでいた。

気候に見合わない厚手のシャツの上から更にローブを着ているのに、汗をかいている気配がない。

冷房の効いた部屋から転移でもしてきたのか?


「ヴィーゴ。私の客人に手を出すのはやめてくれ」


「いやいや!!なんか今口説かれてただろお前!?客人だろうがなんだろうが嫌なら嫌って言えよ!!」


「私のためを思っているのであれば、今お前が蹴り飛ばした羽虫さんを手伝う側に回って欲しいんだけど」


「羽虫ぃ……?」


軽いな……と思っていると、

ヴィーゴがゆっくり俺の方を向く。

その視線が、頭のてっぺんからつま先までを舐めるように這ったあと、ため息。


「……はぁ。何なんだテメェは」


ぶつぶつ言いながら近づいてくる。

俺は余裕の笑みで、差し出した手を掲げた。


「さあ手を取れ」


「手を差し出される側の台詞じゃねえって」


ヴィーゴは少し眉を顰めつつも乱雑に俺を起き上がらせた。

だがまだ納得してない顔。

手を払った後、鋭い目で俺とイオを見やる。


「イオの“客”ってことは商会関係か?……でも、お前みたいなアホ面が歓迎される立場とは思えねぇ」


「なるほど、そんなに気になるか? この天才軍師の思考が」


軽く服の砂を払う。……うわ、想像以上に土だらけ。


まあいい。このヴィーゴって男、イオが偉い立場って知ってても物怖じせず突っ込んでくるあたり、相当な立場なんだろうか。

何というか雰囲気が……イオの保護者?


「軍師ねぇ?どこのだよ。うちの国と戦争でもしたいのか?」


「とんでもない。俺は契約魔法、それに並び悪魔の研究者だ。

この国に【悪魔の門】が存在するって話を聞いて、視察に来たってわけさ」


簡潔かつ信用できそうな情報だけを出しておく。

この国は外からの情報に閉ざされてるとはいえ、契約魔法や【悪魔の門】についての逸話くらいは知られてる。

それこそ、この間メルライトとの交渉時に話したようなのが。


「確かにこの国では契約魔法の研究が盛んだが、研究者はお前みたいなのに簡単に口を開く連中じゃねえぞ。それに悪魔の門なんてオカルト扱いだ。鑑定では確かに【悪魔の門】って出るけどそれ以上何もわからない。つまり何もないってことだ。だから……」


「なるほど、行きたい場所があったんですか。それならヴィーゴの持っている都市モジュールを使うのが良さそうですね」


「貸すなんて言ってねえっつの!!」


ここでイオからの援護が入る。意外とこの人もノリが良いんだよな。

つか都市モジュールって貴重なもんなのに個人が所有してるもんなのか?

それともヴィーゴが特別ってことか。


「大体俺はこの後祭りの手伝いをしなきゃなんねえんだ。そんなことしてる時間は無い」


そう言って踵を返そうとするヴィーゴ。

だがイオは軽く頷いて、さらなる一撃をぶつけてきた。


「その祭りというのはジェミニ領の“白天祭”のこと?なら【悪魔の門】もその地にあるから余計都合が良いね」


ジェミニ領ってのはズバリ【ジーク・ジェミニ】が治める領地のことだな。

そう、都合が良い。


「祭り!?実は俺祭事と文化の研究もしているんだ!俺とイオの婚約決定がした上に未知の祭りにも巡り会えて目当てのものへの足まで手に入るなんてツキが回ってきてんな!!まさかお前も俺の運命か?」


俺が無難に合いの手を入れると──ヴィーゴの怒りが限界突破。


「誰と誰が婚約だ!?足呼ばわりすんな!だから運ばねえって!!」


そこで、俺はふと横を見る。

イオは涼しい顔をして、まっすぐこちらを見ていた。


「私の純情な愛とひたむきな想いを引き裂くために、天才軍師さんを蹴り飛ばしたの?酷い。こんな酷い人と関わっている私はもう死ぬしかない……ってイオが言ってるぞ」


「え?あ、はい。羽虫さんの言うとおりですね」


「はあああ!?……運べばいいんだろ!?

ていうか、なんでイオが“羽虫”って呼ぶんだよ!テメェ何したんだよ!!」


なるほど、凄まじい力関係みたいだ。

イオも思ったより協力的だし、ヴィーゴも結構ツッコミしてくれるし。

いいじゃんこの流れ!!

きっとここまでのことも計算済みだったんだよな?メルライト。

マジで気が効くよお前!!




「ほら、さっさと乗れ」


ヴィーゴの持つ都市モジュールに乗り込む。

内部は四人席で、見た目に反して割と中は快適だ。


「俺の目的地の途中に悪魔の門があるから、テメェは途中で下車しろ。一人で。イオは俺と行く」


「羽虫様はこの地のことを知らない。彼が死んだら私の責任だ」


「だから羽虫って何だ……?」


俺は二人の会話の流し聞きしつつ、イオに貰った観光ガイドブックを読む。

窓の外を眺めてみると、馬車よりも少し速い程度の速度で進んでいることが分かった。

外から見た時には窓なんて見当たらなかったけど、幻影魔法か何かか?

地面から浮遊して動いているので振動も殆どない。


「なあ、このまま空飛べたりしないのか」


「都市モジュールの動力は地に根付いた火の精霊だ。古代に都市モジュールを制作した賢者との契約に則り、火の精霊だけは現代に至ってまでその力を貸してくれた」


そう言った後、ヴィーゴは俺を一瞥して肩をすくめた。


「だが、一属性の精霊だけでこの金属の塊を浮かせて走らせるのには相当な力が要るはずだ。これ以上求められる筈がないっての」


なるほど、火の精霊に敬意を持っているのか。


「不躾なことを言ったな。にしてもここからジェミニ領まで何分かかるんだ?」


「四時間程度。爆速なら二時間ちょい」


「四時間か。暇だな。そうだイオ、恋バナしようぜ。実は俺ヴィーゴくんのこと気になっててさ」


「ヴィーゴも羽虫様のことを慕っていると風の噂で聞きました」


「やっぱり運命?」


ヴィーゴの額に筋が浮かんだような気がする。

彼は計器を確認しながらガチャガチャと操作を始めた。


「なんだテメェら。爆速で行きたい?なら爆速で行くぞ」


ヴィーゴがそう言いながらレバーを引くと、次第に加速し始める機体。

外を流れる景色は先ほどの何倍もの速度で移り変わってゆく。

こんな速度を制御出来るのだろうか。


「自動運行機能もつけるか」


自動運行機能!?少しの過失が命取りになる繊細な速度じゃないのか!?

俺の心配を他所に、ヴィーゴは席を此方へと回転させてニヤリと笑う。


「なあ自称天才軍師とやら。俺はあんたがここに来た目的について疑問を持ってんだよ」


「ここに来た目的か?」


ガツッ


「……今の音は?」


「ああ、轢いたな」


「何を?」


「つまり俺が聞きたいのはお前みたいな奴が本気で研究とか悪魔への関心とかあんのかよってこった」


ヴィーゴは自身の空間収納袋からミニテーブルを取り出して席の合間に設置すると、“討論用議題集”と書かれた本をバン!!と叩きつけた。更に過去の悪魔についての論文やマニアックな魔術式についてのコラムまで。


「つまり……図書館デートがお好みってことか?」


俺が首を傾げると、ヴィーゴは舌打ちをして腕組みをした。


「あんたをイオの側に置ける人間なのか判別するため、知識を試させろってことだ!!詰まるところ俺と魔術討論をしろ!!」


「良いぜ!俺の苦手な分野は聖魔法だ!!」


「そりゃ残念、俺の得意分野は聖魔法だ!!ぶっ潰してやる!!」






「つまり、一般的に聖魔法が用いられていることが予算的な問題を生じると初めに提示した筈なのに、多重構造結界を用いる施設について予算余剰と説明していることに違和感があって……」


「クソッ……アホのくせに……いい感じの単語抜き出すのだけは上手い……」


「ヴィーゴ、負け惜しみはやめなよ。それじゃあここで降りましょう」


俺はイオに手を引かれて都市モジュールから降りる。

降ろされたのは木々に覆われた山間の道。

視線を上げれば小さな湖を臨むことが出来る。そして……


「あの場所です。湖畔の開けた場所に見える扉が【悪魔の門】です。

観光や調査の為に開発された道があるので見に行きましょうか」


導かれるがままに階段を下り、【悪魔の門】の前に立つ。

いくらオカルト扱いとはいえ、こんなに無防備で良いものかと思うが……

これでも十数年前まではかなり厳重な保護と警戒が敷かれていたらしい。その痕跡が見当たらないんだが。


「数年前までは近くに中級魔法を無効化する魔道具が設置されていましたが、何度も盗難に遭ったので撤廃されましたね」


でもこの【悪魔の門】を盗もうとする奴はいないのか。

そりゃそうか。3mくらいあるし。


【魔道具鑑定】でも見てみるか。


【千年決闘の門】

大悪魔メルライトが創造した固有結界『千年決闘』に通ずる門。一定の戦意を抱いた者のみが入場を許される。現在門の入り口はメルライトの意思によって閉じられている。


……ここまで見れたとしても“オカルト”で割り切られるもんか?

まあ良い、門の位置を知れただけで十分だからな。


「……もう観察は済んだんですか?ずっと虚空を見つめているみたいですが」


「次来るときに迷わないようによくこの門の姿を記憶しておこうと思ってな」


「門だけを見ても意味がないのでは?」


そうして暫く歩いていたのだが、先程からイオが何かしらの魔道具を確認している。

あれは……時計みたいなものか?地域全体で時間感覚が鈍いデランタではあまり見ることがなかった。


「ここから暫く歩くと、ジェミニ領を巡回する大型のモジュールが運行しています。1日に2巡するのですが、そろそろ駅に着くみたいですね。乗っていきましょう」


そうして標識だけの立っている駅に着き、やってきた大型車両に乗り込む。

運賃は無料。

そこには身なりの貧しい人々が数人乗っているだけだった。


「姉さん方、あんたら観光客か?」


一人の中年の女性がイオへ話しかける。

イオは姉さん呼びされて少し気まずそうだったので俺の方から話しかけることにしよう。


「俺は今日この国に来たばっかなんですよ。彼はその案内役ですね。イコンから来たんですよ」


「お……男?あんたも?」


髪の長さだけで人を判断してんのか?

でも俺も靴の色で人の区別つけたりするからな。


「ともかく、あんたらみたいな連中はすぐ狙われるから気をつけな。

ここらの領土は領主が無茶やったせいで、貧富の差も酷くなってて荒廃してる。

金持ちも正気じゃない。祭りが近いせいで活気があるように見えるけど……」


「なるほど。俺、治安悪いとこ慣れてないから、気をつけるわ」


俺がにこにこ相槌を打ってると、不意に手を掴まれた。


触るな。


「ほら、こんな働いたことなさそうな手……目をつけられるに決まってる」


「働き者ではあると思うけどな」


女性と雑談を交わしている間、イオは隣で静かに本を読んでいた。

タイトルは──『リンゴ粉砕法 握力〜80kg編〜』。……ほぅ、80kgあるのか。

真剣に本の文字に目を滑らせるその姿はインテリ美少女そのもの。

可愛いな。



そうしてジークの治める領地に着いた。ああ、正確にはジークの父親が治めてる領地?

何でもいいか。

先程まで話していた女性にローブのポケットへ手を突っ込まれそうになったのを叩き落としつつ下車する。

ここは建物はあっても殆ど人通りがないのか。


「この先を少しいけば人の多い場所ですが…………【天穿】!!」


横並びになって歩いていると、不意にイオが俺の頭上に落ちてきたものを殴り飛ばした。

物凄い勢いで彼方へ飛んでいったのが不安だが、一体何だったんだ?

落ちてくる寸前頭上で「あれならいけるって」なんて声が聞こえてきたが。


「見苦しいところをお見せしましたね。私もよく見えなかったのですが、それなりに重量があったことは確かです。しばらくお待ちください」


イオは物体が落ちてきた住宅の扉を蹴り壊して平然と中へ入っていった。


「“監誓者“だ!!この住居に居るすべての人物の契約を確認させてもらう!!」


暫くして一度悲鳴が聞こえたが、帰ってきたらイオは平然としていた。

その後に続き、泣きながらも“足が勝手に動いている”様子で男が何処かへ向かって行った。


「あまり詳しくは説明できませんが、貴方に故意に危害を加えようとしたので契約違反と判断され、制度上……易しい言い方に変えますが、【犯罪者】となりました。私はその【犯罪者】を取り締まる身分です」


「なるほど、格好いいな。じゃあもしかして、俺が最初に身分証を登録する時させられた契約ってのもその制度に俺を組み込むためか?」


「……得られるもののほうが多いんですよ?」


「分かってるって。俺は犯罪行為なんて前前世は一度もしたことがないから気にしてない」


進むにつれて人通りが多くなってきた。

既に祭りに向けた装飾やポスターなどが町の中に散見される。


「領内に限った祭りですから、まだそこまでの賑わいはありませんが…… 数日後には賑やかになりますよ。まずは羽虫様の転移先に設定する場所を探しましょう」


「やっぱり高い場所が良いな。見通しが良くて」


「頭まで羽虫だからですか?あ、いえ、すみません。

この地域はさほど信仰が盛んではないので、あの教会の高台は人がほとんど来なくてちょうどいいですよ」


なんだその意味分からない失言は!?

教会の外付け階段を登って屋上の高台へ。

街の様子が一望できる良い場所だけど、本当に誰も来ないのか?


「ああ、あれが領主の館か?あのデカい屋敷」


「そうですね。見に行きたいのであれば私が執りなしましょうか?領主と会うことは難しいですが、観光客の見学については寛容です」


「マジ?じゃあ見たい!!」


「既にアポを取ってあります。行きましょう」


「イオ……」



そして到着した領主の館。

現在の領主はジークの父親で、基本ここにいるらしい。

息子のジークは内政担当で各地を回っているとか。

まあ彼はジークへ仕事を回すための中継なんだろうな。


特に絢爛でも質素でもない館の中。しかし、多くの結界や防御魔法を発動する魔道具が設置されている。

その後、書斎や会議室、庭など一通り館を見て行き、館を出る。


「あー面白かった!!なんか質の良いインテリアばっかで爆笑しかけたわ」


「他に面白味のあるものもありませんし、お帰りになりますか?」


「そうしようかな。つか俺一人だけ帰って、イオに転移石みたいな帰る手段があるのか?」


「ご心配なく。次にいらす時の話をしましょう。基本的に羽虫様が国内に入ると大抵の位置は感知できますが、もし迅速な助けが必要な場合はイコンの商会までいらしてください」


常に居場所を把握されるってこと?

俺の人権は?


「分かった。じゃあそれじゃあまたな!」


そしてデランタの商会へ転移を発動した。





「お前は一体何をしているんだ、昨日から」


「あ、メルライト様こんばんは」


「こんばんは、ではないだろう。昨日から何なんだ、全く何かが進んでいるようには見えない。まさか私を観光するために欺いたわけではないよな?」


俺がそんな卑劣なことをする人間に見えるのか?

呆れた大悪魔だな。


「ジークの領地へ転移先を設定し、館内の構造を把握し、町の様子を伺ってきたんです。初日の昼にすることとしては十分ではないですか?」


「不必要な悠長さがあるように見えるがな。あまりにも私を退屈させると……分かっているな?」


俺は恭しく礼をしてその場を立ち去ろうとした。

しかし、メルライトは再び俺を呼び止める。


「それと、ヴィーゴには近づくな。あいつは悪魔を忌み嫌っている。私がお前を監視しているのにも若干気付いていたから、確信を持った瞬間お前を殺すぞ」


「やっぱりメルライト様俺のことずっと監視してたんですね?計画ならしているので大丈夫ですよ」



帰り道はモースの友人が経営しているとかいうパン屋に寄ってみた。

今朝モースが作ってたパンと似たものが新商品として並んでいたので買っておく。

これ美味かった。


宿へ戻ると、何やらモースとライアスが雑談をしているようだった。


「ただいま。何の話?」


「ああ、おかえり。ライアスがさ、この間職業昇格したばかりなのにまた昇格したんだよ!」


その言葉に、俺はフクロウ並みに首を傾げた。

……………ん?ライアスが《戦士》になったのって数日前の話だよな?


「何になったんだ?」


「…………【魔術師】です」


魔術師……?戦士から魔術師?


「最近ライアス魔法縛りで敵倒してるんだろ?まあ軒並みステータス高いから行けんだろうけど相変わらずチートだよな」


モースは面白そうにしているが、ライアスは若干居心地悪そうだ。

まあ魔法は面白いから一度手を出すと突き詰めたい気持ちも分かる。

なので俺もライアスの前に立ち、その肩に手を置く。


「ライアス、お前も今日から魔法陣を描こうぜ」


「いえ結構です。多分、そこまで囃し立てられるものでもない筈ですから。俺はこの世界に来た当時から満遍なくスキルをある訓練をしているので……剣士の熟練度と魔術師の熟練度の僅かな違いが入れ替わった結果だと思います」


「でもライアスって武道も剣術も結構レベル高いじゃん。やっぱすげーんだよコイツ!」


もう片方の肩をモースがべしべし叩いて褒めるが、やはりライアスは浮かない顔だ。

一つのことを突き詰めたい気持ちと色々やりたい気持ちが二律背反してんのか?

俺は未だに職業が一ミリも変わる気配がなくて悩むことすら馬鹿だって世界に言われてるような気がしてんだけど。


「別に普通の生活してれば職業を他人に見せることなんてないし気にしなくていいんじゃねえか?」


「……ふぅ、それも確かです。気を遣わせましたね。ありがとうございます二人とも」


そう言ってライアスは自室へと戻っていった。大丈夫か、やたら低い声だったぞ今の。

その様子を見届けると、モースは小声で俺に話しかけてくる。

なんだよ、距離近ぇな。


「ライアスが何で悩んでるのかは知らないけど、アイツって誰がどう見ても凄いんだぜ?本当。実はもう冒険者ランクもC行ってるし、周りのベテランからも『早すぎだろ』って噂されてた」


モース……お前ライアスのこと好きなんだな。

俺もそんなお前のことが好きだ。


「そういえばモースも今朝【減速領域】とかいうスキル使ってたじゃん。お前も結構面白い成長してるんじゃねえの?」


「ん?そうだな、基本スキルはデバフ系で、作った料理でバフ取れるって感じ。お前は?」


「天才軍師って肩書きが武器かな」


「それってつまり何も」


そうして雑談を終え、俺は自分の部屋へ戻る。

領主の館からパクってきた歴史書をめくりつつ、今後の計画を脳裏で組み立てる。

さて、次はどこから手をつけようか!

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