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将来の超絶最強軍師である俺が勇者を堕として最強の料理人を飼い犬にしてとにかく最強  作者: Os


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13/24

痕跡

さあ、いよいよ出立の日。



事前に手に入れた情報によれば、

シャトロ達の手下が乗った馬車は「BからRの25」を通るとのこと。



このBとRという記号だが──

以前と同様、文化的な文脈から“色=方角“を表すと考えると、

BはBlue=東、RはRed=南を示すと仮定できる。



つまり今回の指示は、東の或る地点から南へ25地点に向けて移動しろ──というわけだ。



シャトロが用いている区画整理法に従えば、

この「25」が指す地点の場所も、だいたい推測可能!


……平野地帯か。

今回のルートは身を隠して絡め手を使う俺にとってはちょっと危険だ。


……まったく、用心深い連中め。

明らかに俺が手を出しづらい場所を選びやがって。

え?当然だろって?どういうことだ?


でもでも!警戒されてるってことは、俺がそれだけ脅威ってことだよな!?


それと、念のために暗号が違うパターンも想定して、

いろいろ検証はしてみたんだけどさ?

候補に挙がったルートは、どれも山脈や崖に阻まれてて非現実的だった。


ただ、一つだけ気になったルートがあったんで、

昨日の飛行訓練の片手間、巨石の根元ぶっ壊して落石起こしといた!!


後続の馬車が気付いて道の状況を報告していれば、

当然その情報はシャトロの商会側も伝わってるはずだ。


準備も整ったし──


空間収納袋に必需品も無用の長物もまとめてぶち込み完了!


上手くいくといいけど!!


あとはちょっと──

乞食に行くか!




出かける連絡のために、すやすや安眠中のライアスの部屋に突撃!


「おはよーライオス! 俺今日も外で依頼受けてくるから!」


起き上がって金髪の髪をかきあげつつ、半目で俺を見やるライオス。


「……あ? 昨日の今日でまた無理をするつもりですか? その貧弱なステータスで?」


「なんか冷たくね!?」


「いきなり起こされたからだろ……はあ、まあいいです。どうせ二度寝なので。行くのなら今日もコイツを連れて行きなさい」


「……あっ、ライオス〜〜!!」


光の渦から現れた白蛇が俺の首元へするりと絡みつく。

頼む前に差し出してくれるとは……これって以心伝心ってやつ?


「それと……今日は多くの店の従業員が休日であり、ダンジョンの攻略の人員募集も多いので。俺も今日はモースと攻略に行って来ます」


「ん? ダンジョン攻略に行くのに、コイツを俺に貸していいのか?」


「……ああ、神の使いの象徴ともされる白蛇の使い魔ともなれば目立って仕方ないので、人と組む時には使いたくないんです。君が持って行ってくれるなら助かるので」


「……キュ!?!?」


おい、聞き手によっては不要宣言されたと捉えても不思議じゃねえだろ!!

お前に蛇の心はねえのか!?


「心配してくれたなら素直にそう言えって! あれだよな!?

白蛇が俺のお守りを任せられるくらいには信頼できるってことで寄越してくれたんだよな!?」


「……自分で“お守り”って言います? まあ、その通りですが。

それが優秀なのは、君もよく知っているでしょう……君に必要だろうから渡す口実を作っているのにわざわざ言わせるんです?」


もしかしてお前鈍感か?

まあいい! 白蛇くんもさっきからうねうね嬉しそうに俺の首元で締め付けてきて、

メンタルも無事回復したみたいだし!

俺も戦略物資を手に入れ……えー、頼れる仲間も出来たことだ!


……あ、でもそれ締めすぎじゃね!? ちょ、息が……息が……ッ!!








──やって来たぞ、馬車の通るであろう目標地点!


この広大な平野には巨木がぽつぽつと点在していて、思ったより低木も多い。

おかげで隠れるにはそこまで困らなそうだ。助かるな。

今日は風の強い日らしいから、丁度木々のさざめきで姿も視認し難いはず。


早めにこの場所に来て、あらかじめ平野の数本の高木に【隠者の瞳】の印を設置しておいた。

あんまり数を置きすぎると、情報量が膨大になって処理がめんどいから、今回は最低限だけ。


悪魔……あいつは今も商人の情報収集中。

俺のほうは馬車の動きを見逃さないよう、意識を張り巡らせている。


……しかしなあ、あいつみたいに透明化できればもっとやりようがあるんだけどな。


けど残念ながら、透明化は悪魔の固有特性らしい。

人間の俺がやるには上級魔法陣の補助が必要と判明。マジかよ……。


まあいい、ここは天才軍師の天才的采配でどうにかするしかない。


今回は魔法を中心に攻めていくか?

そんなことを考えながら、木にもたれかかって白蛇と戯れていると……


──【隠者の瞳】に変化。視界の一部に、微かな揺れを感じた。


「お、来たな? 少し離れた地点か」


そう呟いてから【風霊のマフラー】を首に巻き、魔力の翼を展開する。

ふわりと浮かび上がり──


「……ん?

なんか昨日より体が重いな?」


翼の色も、昨日の鮮やかな風色と違って燻んだ暗いトーンになってる。


ああ、なるほど。

昨日とは場所が違うから、風霊たちからの好感度がリセットされたってことか。


なら──ここはちょっと、演出を盛るか。


「やっと見つけたぞ……あいつら……」


声を張る。周囲に誰もいないのをいいことに、全力でやる。




「俺の妻と子供と夫が誘拐されてから数十年──」

「積年の思いを抱え、なおも戦火の中を生き抜いてきた……!」


「だがついに──あの時の悪党どもの居場所を突き止めた!」

「今日こそはその願いを果たす日ッ!!」


「俺は、お前たちの思いを背負って、この復讐劇を遂げる!!」




──よし、彩度が上がった。翼がさっきよりも明るく、風の反応もなめらかだ。


精霊には属性ごとに好みの性質や振る舞いがあるらしいが……

風霊たちは、悲劇と正義のドラマに弱いらしいな?

かわいいやつらめ。


さて、じゃあ俺はその『復讐劇』を遂げに行って来るよ、精霊ちゃんたち!

軽やかに浮かび上がって、颯爽と空を翔ける。




──とはいえ、未だに他人がどんな探知手段を持ってるか分からないからな。

油断せず、遠方から迂回して慎重に接近だ。


さて、馬車の様子は……

今回も複数台か。なるほど、また広範囲に働きかける魔法が必要になりそうだ。


……ん?

あいつら、わざと高木や低木の多い場所を避けて進んでないか?

潜伏の可能性がある地形を警戒してるのか。ずいぶん真面目な連中だな。


だが俺の矢鱈と優秀な【魔道具鑑定】は、遠方からでも簡単な魔道具の情報くらいサクッと読めるんだよな!

さーて、今回は何が積まれてるかな〜?

天才軍師がこの世に存在してくれたご褒美として、いいブツが来てくれてると嬉しいんだが。


……お、きたきた。


【風魔術のスクロール】、【重力魔法の杖】、それに──【中級悪魔の従属印】か。


戦闘系の魔道具ばかりじゃねーか。

なるほど、暗号を変更する手間を省いた代わりに、物量で警戒を補ってきたってわけか。

人材も資源もあり余ってるのか?



──にしても、【中級悪魔の従属印】、だと?



ちょっと待てよ。

聞いてた話じゃ、俺以外に悪魔を従えてるやつはいないって言ってなかったか?

この短期間であの“大悪魔”とやらが新たに悪魔の使い手を増やしたのか?


しかも中級悪魔……!

強さで言えば、下級がC、上級がSなら──中級はBか、あるいはAランクってとこだよな。


げえ……前に倒したBランクの【銀鷲】ですら、

白蛇の力と、相手の軽率な特攻がなかったら俺じゃ無理だったろ。


なのに今回は──

魔道具を山ほど抱えた連中に、中級悪魔付きの新顔まで追加?


いや、さすがに正面から突っ込むのは無理だな。

前回、あれほどまでに損害を被ったとなれば──

今回はさすがに、精神系の魔法やへの結界くらいは張ってくるだろう。




となれば……

魔法メインのプランは撤回。うん、まずは“足止め”からだな。


俺は道に砂利と同じ色に偽装した粉を撒いておく。

先に言っておくが、別に毒でもじゃないし、環境にも優しい。俺は優しい。


……さて、そろそろ来るか。


俺はこの日のために用意しておいた、青いローブを羽織り直す。

顔が隠れるように、ゆっくりとフードを被って──

そして、再び“狂役者の仮面”を装着。


よし、準備は万端。

此方に近づいて来た御者は俺の姿を見たようで馬を速度を落とそうとしているようだが……

悪いな!!





「──風よ、気高き舞をもって我が標へと駆けろ。【風旋陣】!!」


中級風魔法、展開!!

途端に、地面から巻き起こる激しい風!


俺の足元に撒いておいた粉末と風が混ざり合い、小規模ながらも視界を奪う灰色の嵐が生まれた。

車体と窓に無数の傷が刻まれ、御者が悲鳴を上げる。



馬車はバランスを崩して横向きに止まり──

煙と風の残滓の中から、数人の護衛が姿を現した。


ガタイの良い剣士に、数人の魔術師。


「おい! あの翼……あいつ、うちから盗まれた魔道具を使ってるぞ!?」


「落ち着け。あれはただの盗人だ。翼の効果には期待するな」


──よく言うぜ。天才の俺が正当に手に入れた物だってのに。


ま、罵倒はご挨拶みたいなもんだ。問題は──ここから。


「うちの商会をカモだと思ったんだろうが、バカが。イルミ! さっさと悪魔を出せ!」


馬車の中から出てきたのは、どこか人生諦めたような顔の青年だった。

指には、俺の赤とは違う、青い印章の指輪が光っている。


「……なんで俺なんだよほんとに……【中級悪魔召喚】」



イルミと呼ばれた青年の足元に魔法陣が展開され、暗い煙と共に現れる悪魔。


その形状は下級よりも人に近く、その瞳は爛々と深紅に輝いている。


その髪は星が宿っているかのような輝きを見せ、赤いスーツと相俟って随分目立つ容姿である。




「よお、初出陣だな。何の用だ?」




おお、下級悪魔よりも言葉がちゃんと流暢だ。




「仮面を被った、あの青いローブの男を捕まえろ」




「……少々俺には役不足のような気もするぜ?」




「いいからやれ」








──あー、舐められてる。これは完全にナメられてる。




まあ、俺がDランクの魔物にも劣る貧弱一般人だってのは、事実なんだけどさ!




で完全に舐められているわけではない。


相手も口ではああ言ってはいるが、俺のステータスが見えているわけではない。


ある程度上手く立ち回れば相手の攻撃も牽制に留まる可能性もある。




「またグチグチ言われる前に終わらせてやるよ、主人。【黒棘】」




「うわ、あっぶなっ!?」




地面から漆黒の棘がいくつも生え、螺旋を描きながら俺を貫こうとしてきた。




俺は即座に飛び退く──


けど、避けたのはほとんど風霊たちのおかげ。


羽が一瞬震えて、俺の身体を軽く押してくれた。




「……助けがなけりゃ今ごろ腕に穴空いてたな。マジで」





分かってはいたことだが、長期戦は分が悪い。


俺の俊敏ステータスに避け芸を期待する方が間違ってる。




俺の目標は“損害”を与えて引き上げること。




「お、人如きが俺と同じ翼を持つとは烏滸がましいもんだね」


「あれは風霊の力を借りて魔力の翼を作る魔道具の力だ」


「へー……なんか見覚えあるけど……つーかアイツ中級魔法ごときで魔法陣使ってね?」


「無駄口を叩いてる暇あるのか」


「はいはい。まずはあの忌まわしい翼から潰していくか。【石燕】!!」


軽いイルミとのやり取りの後に、悪魔は動き始める。


鋭い石の刃が悪魔の周囲に無数に浮かび上がり、此方に刃を向けて飛来する。


直撃は避けられない。だが──追尾弾ではないな。なら、やれる。





後方にばら撒いておいた粉。


これを再利用するように魔法陣を少し改良し──再び発動。




「【風旋陣】!!」




「なっ……!?」




付与魔法陣で作っておいた陣紙を、詠唱を省略して展開する。


本来の威力や効率は落ちるが……精霊達の助けも借りた瞬間的な風圧は威力も十分。


巻き起こった風が、粉と砂利を巻き上げ、石の刃も交えて嵐のように襲いかかる。




「……!!お前ら隠れろ!!」


「ぐあぁああああ!? な、何だ、目がっ!?」


「いてぇええええ!!」




これは翠嵐藤という花の実を粉末にした粉だ。


──翠嵐藤の粉に含まれる成分は、皮膚と粘膜に強烈な刺激を与える。


さらに、魔力の集中を乱す効用もあるんだってさ。多少だけど。




悪魔も同じ被害を受けるかは気になってたけど……必死に目を押さえてるあたり、案外人間と変わらんらしい。


翠嵐藤の粉と石の刃が降り注ぐ中、結界を使える奴ら以外は馬車を風避けにして凌ぐしかない。


「おいお前ら!!この風をどうにかしろ!!」


そう叫ぶ悪魔の声がこだまする。

……あ、そうだ。


「おい!!重力魔法の杖を持ってるお前!!杖を使えば粉塵の勢いが弱まるぞ!!」


俺が声を張り上げると、【重力魔法の杖】を持っていた魔導士は必死に詠唱を始めた。


「……おい!!更に密度を高めてどうすんだよ!!アイツ……クソ野郎め……」




うん。まあ確かに風速は下がるけど、空気の密度が上がるのはよろしくないぞ?


中級悪魔くんは気づいてるみたいだけど。


黒い眼球に浮かぶ赤い瞳があからさまな殺意を以て俺に向けられている。

視線だけで体を貫かれそうだ。






さて……そろそろ決着つけたいな。



馬車に空いた穴から白蛇がひょこっと現れ、口に書類ホルダーを咥えて戻ってきた。




「えらいぞえらいぞ、お前は俺が将来軍を持った時の副官候補だな〜」




なでなでしつつ、ホルダーの中身を確認。


──東国の商人との取引リストか。まあ重要っぽいけど、今はいい。


問題は、この状況をどう締めるかだ。




悪魔くんは他の奴らよりダメージ少なめで、もう目を開けて俺を睨んでる。


そして、俺の持っていたホルダーを見て舌打ちをする。


そんでイルミとか言うやつ……いつの間に取り出したのかガスマスクのような道具をつけて被害は軽かったようだ。

備えあれば憂いなしっていうけど、俺もそこまで備えないぞ。



「っ……おい、イルミ!!あれは盗られても平気なのか?」


「無理だが。何で盗られてるの?お前何してた?」


「……悪かったな。じゃあ今すぐ挽回してやるよ。魔石を寄越せ」


「いいけど、何故かいい感じしないな」


なんだその適当さは?!ずっと感じてたけどお前ら仲良し?!



「……きたな、切り札。」



結局イルミから魔石を受け取った悪魔がそれを嚙み砕き、悪魔語で詠唱を始めた。

巨大な魔法陣が展開……あれは上級魔法陣だな。


「【黒刃舞】!!」



周囲が暗く染まり、俺の周囲に黒い膜のようなものが形成される。


それはゆっくりと太い針のように変形し──俺を取り囲む。




「死ねぇ!!」




暗黒の針が、一斉に俺へと向かって突撃してくる……!!








……が、




神の力に、暗黒属性は相性最悪!!


白蛇がフードの中から展開した聖なる波動が、その針に触れた瞬間──




「……消えねぇのかよ!?」




一部はかき消えたが、完全には無効化されなかった!




「【結界】!!」




慌ててイヤーカフ型の魔道具を起動。


防御特化の【結界術師のイヤーカフ】はこれも前の馬車襲撃の戦利品!!




「って……!!げ、まあ……許容範囲か?」




一粒多少腕に直撃したが……まあ滅茶苦茶に衝撃を感じたくらいで無傷だ。血は垂れてきてるけど。


……正直自分の紙耐久値を舐めていたかもしれねえ。


あんなに小粒だったのにクソいてえな。え、大丈夫か?


これ後で袖捲くったらショック死しそうな惨状になってないか?




「な……なんだ?何が起きた……ただの人間がそんな芸当できるわけねえだろ?!」



おー、白蛇の存在が見えてないのか。目の前の光景に混乱しているな。

……まあ、ここは向こうに希望を見せないためにも平然とした顔で続けよう!!

混乱する悪魔を横目に、俺は最後の一手を発動する。



「爆ぜよ魔力の灯火よ、【火球】」




現れたのは、小さな火球。


周囲に舞ってるのは可燃性の粉。しかも空気は重力魔法のせいで密度が高い。




──つまり、どうなるかというと。







「……ッ、【魔力障壁】!!」






ボンッ!!!!!










火球が点火され、周囲は一気に灼熱の地獄と化す。


燃えた翠嵐藤からは、今度は刺激性のある煙が発生する。

視界が開けた先には、相手方が地獄のように呻いている様子が見えた。




……良い眺めだな。


俺の“天才的采配”の成果と言えるだろう。


──と、余裕をかましていたら、渦に乗った粉が俺に直撃。




「は!?げほっ…! ごほっ、ごほっ!!?」


「キュッ!?」




白蛇が心配したかのような声を出すので撫でておく。


それにしても……喉が焼けているようだ。声が出ない。


詠唱すら出来ないじゃないか!誰だ俺をこんなに虐めるのは!?




そこへ追い打ち、とどろく低い詠唱。






「──【水衝波】!」






敵の中級悪魔が応急で水魔法を展開し、火勢と粉塵を一気に押し流す。


炎と煙こそ収まったが、視界の向こうに見えるのはボロボロになった馬車と、ところどころ焼けた痕跡のある護衛たち。イルミとかいう奴は悪魔が護っていたのか傷が浅いが。


そして、半身を焦がしながらも立ち上がる悪魔。




「……”魔法陣に頼る雑魚”の分際で……」


「……おい、もういいから帰ろうぜ」


「よくねえよ!!アイツの首を持って帰らねえとお前まで危ねえだろうが!!」




悪魔は実力至上主義らしいしさ、


確かに魔法陣なんて魔力の無い雑魚くらいしか使う理由ねえけど……


それが怒ったときに出る一番の煽り文句なの嫌だな?!



「って、んなこと言ってる場合じゃねえな……」


背後にゆらゆら揺れる、漆黒の殺意。


肌にヒビが入り、その下には黒い何かが蠢いている。


どう見ても次は本気で来る気だ。






一方こちらは、喉が潰れて魔法詠唱不能。


このまま正面で殴り合ったらまずい。


──となれば、取るべき手は一つ。




撤退だ!!




当然、悪魔は追ってくる。


ただし、あれは速さ重視のタイプじゃない。


あのイルミとかいう青年を大事にしているようだから、長い間気絶者まみれの場所に一人で放置も出来ないだろうし、俺の方が機動力はある。風霊もまだ動いてくれる。


とはいえ……魔力もそろそろ底を尽きる。逃げ切るには距離と、隠れ場所が要る。




(……悪魔が近づけない場所……)




教会? いや、こんな平野に都合よく建ってるはずがない。




……そうだ! 東側にある森の奥!


あそこに、低ランクのダンジョンがあるはずだ!




ダンジョンは“天の神”と“地の神”の力が交わることで形成された場所。


魔物の巣窟ではあるが、その入口だけは神気を帯びている──


つまり、悪魔の類は近寄りづらいってわけだ!




「よし……行くぞ!」




そう決めるや否や、俺は進路を東へ切り替える。




……とはいえ、まだ油断はできない。


今回使った魔法陣には、自分の魔力を歪ませる効果を付けてある。


だから俺自身を直接追うのは難しいはずだ。


でも──




魔力の翼が残した精霊たちの残滓は、風に乗って地続きに繋がってる。


あれを辿られたら、あっという間に追いつかれる。




はあ……まあ、これくらいの緊張感も天才軍士の物語には欠かせないよな!!




俺は焼けた地を蹴って走り出した。


一枚の魔力を込めた紙を残して。

ほんの置き土産だ。



白蛇がフードの中でキュッと鳴く。



頼むぜ、風霊達もあと少しだけ踏ん張れ──!

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