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将来の超絶最強軍師である俺が勇者を堕として最強の料理人を飼い犬にしてとにかく最強  作者: Os


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11/24

粛清



──【隠者の瞳】に映る映像は、静かに、けれど確実に動いていた。



今見ているのは……馬車に設置した印か。

仲間に説教しながら頭を抱えていた男が、今度は一人で馬車の中に入って通信機で話している。


焦燥に溢れる男の声。



「ジークさん!俺はどうしたら……どうしたら償えますか……?」

『ああ、いいよいいよ。僕がどうにかしておくから』

「…………だ、大丈夫なんですか?」


もっとブチギレるかと思ってた。

他人の命を背負うような契約を悪魔とする割には、案外立場に相応しい振る舞いってのが身についてる人間なのか?


『ただ、もう少し警備の基準を引き上げて欲しいかな。それ以外に君に求めたいことはない』

「じ、ジークさん……!」

『功績から、君の実力不足でないことは分かっているよ。運が悪かっただけだ。次回からは気をつけて』

「俺……一生ジークさんに着いていきます!!」


うわ……これ、部下の心を掌で転がすプロだ。

やべえ、なんか感心しそうになる……けど、冷静になれ俺。

この妙に整いすぎた流れ──何か匂う。


そしてその通りに、ジークの口調がすっと変わった。


『……ところで』


来た。


『今回悪かったのは君じゃなくて……人材リストを君に渡した奴が悪いよね?』


「え……?」


『君の人を見る目は正しい。でも、それは相対評価にすぎない。じゃあ、最初からリストの面子が、みんな僕たちの要する基準を満たしていなかったら?失敗するに決まってるじゃないか』


うわ、急カーブ過ぎんだろこの話題転換!?

こりゃただの「よしよし」じゃない。明らかに──追い詰めてる。


「え、えーと……と、言いますと?」


『君ももう気づいているんだろう?僕たちは蹴落とされようとしているんだ。

優秀な君の目を欺く方法で、依頼の失敗が仕組まれている。

僕たちを舐めた相手の正体を、君の口から教えてご覧よ』


「っ………!!も、もちろん俺もそう思っていたところです!!

俺にリストを渡したのは……シャトロ!!シャトロです!!」


……あーあ。

これ、完全に“言わされた”形だ。


ジークの誘導の仕方、最初から「答え」を決めていた。

まるで“自分の意志”で言わせたように仕立てている。

まじで……これ、手慣れてるな。


『よく出来ました。あとは、僕たちが知り得た事実を“大悪魔様”に伝えるだけだよ。

君には今後も期待しているからね。報告の庶務を終えたら、帰っておいで』


「はいっ………!!!……ジークさん……なんて素晴らしい……」


あー……これ、大丈夫か?

ジークの狙いが何なのかはまだはっきりしねぇけど……

シャトロにかかる火の粉が、確実に広がっていくのはわかった。


そのままシュリクは、今度は別の通信機を手に取り、

まるで使命に燃えるような顔で、次の相手と通話を始めた。


「大悪魔様、この度は誠に申し訳ありません。

心待ちになさっていた魔道具は、何者かの手によって強奪されてしまいました」


『……ふむ? それで?』


──女の声。

透き通っているのに、底に氷の刃が潜んでいる。

背筋にぴしりと冷たいものが走る。


「……ということで、我々は嵌められたのです!!

あの憎らしい男によって!!」


『ほう……それは面白いことを聞いたな。

狡猾で、私にだけ良い顔をする浅はかな男に、汚名を着せられようとしている。

──それは、お前にとっては“大事なこと”だろう』


「ご理解いただけて、恐縮でございます!!」


『ならば』


一拍置いて、くすりと笑う声。


『お前に、シャトロへの罰を与える権利をやろう。

たっぷり甚振って、痛めつけ、

私が与えた地位に胡座をかき──お前を顎で使った愚か者を、調教してこい』


──今、確かに言ったな。


報復、正式に許可された。


「っ………?!」


『何だ? 失敗した者に与えるにしては、何とも慈愛に満ちた施しだろう。不満か?』


「滅相もございません!! このシュリク、謹んで拝命いたします!!」


ふーん………………いやいやいや。

そうなる?

マジでそうなるの???


「ジークさんに選ばれた俺だから、こんな“特別な任務”が与えられたんだ……!ああ、ついに俺も、大悪魔様の目に……!」


しかも、命令された時には圧倒されてた割に随分ノってやがる。

はあ、完全にシャトロに報復許可が下りちまった。

悪魔に気に入られるのも考えもんだな……いや、うん、さすがに可哀想だろこれは。


シャトロがあの商会に帰ってきた瞬間から、すでに地雷が敷かれてるってことじゃん。

あいつに非なんて……俺と関わったこと以外にあいつが失敗した点はないけど!

いやそれはむしろシャトロにとっては人生最大の幸福なのでは?

ってそんな話してる場合じゃねえ!


……俺は、別にあいつを助けたいわけじゃねえ。

ただ、こういう理不尽な構図はムカつくってだけ。

そ、遊び半分でやるだけだから勘違いするなよ。


「…………よし」


膝の上にいた白猫を撫でて、俺はゆっくりと立ち上がる。


「このシュリクってやつの位置……ここから、そう遠くねぇな」


足元でじゃれていた猫が、不思議そうに見上げてくる。


「猫にモテてるってことは、たぶん俺……正義側だよな?……知らねえけど!!」


そう。完全に正義を動機にした交渉のため……

──ちょっかい、かけてやるとしようか。






俺は、シュリクが『制裁』の準備を整えている間に、

彼の隠れ家──閑静な裏路地に佇む、荒廃した建物の裏へと回っていた。


仮面を被る。

魔道具屋で買った安物のそれに、中級魔法の陣紙で幻覚魔法を掛けて支配印の偽装を施す。


──よし、準備完了。


「やあ、シュリク! 身内なる俺の同志よ!!」


「っ!? だ、誰だ!!」


当然の反応だ。

自分しかいないはずの隠れ家。しかもこの場所で、

小綺麗な格好とやけに明るい雰囲気で現れた“俺”の登場──

彼の心臓が今頃、過労死の危機にあるのは間違いない。


「驚かせた? 俺は君の仲間……知らないか?

大悪魔様のお気に入り、『エイト』っていうんだけど。」


一応人間の設定なのに文献にあった過去の悪魔の名前を持ってきてしまったが、即興なので仕方ない。

仮面の下で笑みを浮かべつつ、

少し外見と色を改変した“指輪”を見せつける。


「は?それは……下級悪魔の……いや、中級? いや、聞いた色とは違うし……ま、まさか……!?」


……おっ、来たな?


「上級悪魔の従属印!?」


「ふん、まあ似たようなもんだよ。

けど、それより大事なのは──俺の“格”じゃない。

これを受け取ってほしい」


俺は、手製の“それ”を投げ渡す。

おそろしく雑に見えるが、これはちゃんと狙い通りの導線だ。


「これは一体……?」


「【天罰の指輪】っていうんだ。知ってるか?」


「天罰……」


「悪魔は、契約者の苦しみや憎しみを養分にして生きてる。

俺達の仕える大悪魔様にとって商売の利益は重要であり、無闇に俺たちを苦しめはしない。

しかし、本音は?

当然、悪魔である以上常に娯楽と苦悶を求めていらっしゃる」


「それは……思ったことはあるが……

お前、結局俺に何をさせたい……!?」


「君の“救済”さ。

君が職務を果たして、さらに彼女に大量の養分を捧げたとしたら──?

当然、“お気に入り“確定だろ?」


言葉の合間に、わざと間を取る。


「さて。

この過酷な世界で、他の奴よりも群を抜いて人の苦しみを生み出すには?」


にやりと笑って、言ってやる。


「この《天罰の指輪》が答えだよ。

人の感じうるあらゆる痛みを──そして幻覚と恐怖を与える、最大効率の搾取装置だ」


「使い方も簡単。たった一言──」


「誰が騙されるか!!

そんな甘言、信じられるかっ!!」


反射的に叫んだな。いいぞいいぞ、そう来なくっちゃ。


「……俺は本気だぜ?

というのも、今回君が輸送してた魔道具は、

“俺のために”彼女が手配したものだったからな」


「な、何……?」


「たとえば、ほんの一例だけど……これに見覚えは?」


取り出したのは──馬車から失敬した“戦利品”

【炎素硝子のティーカップ】。


同じシリーズのティーポットとセットでひとつだけ、あの箱に入っていた宝物。

美しい金細工、光を閉じ込めたような硝子の輝き。

芸術品であり、魔道具でもある──まさに唯一無二の逸品。


「そ、それは……まさか、それ、今朝俺たちから──!?」


「勘違いするなよ。

君たちが集めたティーセットは、もともと“俺に合わせるために”調達を手配されていたんだ。

大悪魔様がそうしたいと願ったからな。

セットなのにカップがひとつだけって──おかしいと思わなかったか?」


「は、はぁ!?言われてみれば……でもいや、……そういう仕様では……ないのか?」


「芸術品の価値も知らねぇ奴が、作品を語るなよ。

俺と大悪魔様の“関係”にまで疑いを掛ける気か?」


その瞬間。

仮面の効果──【威圧】を発動させる。


「っ………!!」


“狂役者の仮面”。

本来は魔物への威嚇が主目的の地味な道具。

だが、今この場においては完璧だ。


「あんたの意思なんて関係ないんだよ。社会の波に揉まれる経験すら出来なかったような“雑魚”に成り上がれる機会を善意で与えようとしてるのに、どうしてまた地獄への道を歩もうとする?」


「はっ……お前、馬鹿にしてるだけだろ」


「どうしてそう思うんだ?」


俺の天才の格と“選ばれし者”の威は、面白いほどにシュリクに響いているようだ。


「……はあ、あんたどうしてそんなに頑張ろうとしてるわけ?一つ教えると……俺はお前の光だ。俺は媚び“だけ“でこの指輪も、寵愛を受ける立ち位置も、こうしてお前を踏み潰すことが許される力も得たわけだ」


大ぶりに手を広げながら、俺はシュリクのそばに近付いて肩を組む。


「俺も昔はお前みたいに、愚鈍で、間抜けで、何の取り柄もない人の揚げ足取りが大好きなしょうもない男だったさ。でも今の俺とお前が違う部分は一つだけ。寄生主を自分で選んだことだ」


「お前さ、今も思ってるんだろ。俺のような立ち位置は、本当は自分の方が相応しいんじゃないかって……ジークの隣にも立てる、俺の立場が」


……シュリクの息が止まった気配がした。


「……お前みたいに軽率に他人を馬鹿にするクズには分からないだろ」

「俺には背負ってるもんがあるんだよ。そんな空虚な栄誉で這い上がったら、これまでの俺の小さな評価のために死んだ奴らが浮かばれねえ」


「そうやって寄生先を間違えたからそんな非効率な生き方をする必要があったんだろ?」


「……あ?」


そこで一拍置き、

胸に手を当て、少しだけ仮面の視線を下げる。


「……俺は、本当に“大悪魔様”を喜ばせたいだけなんだ。

君もそうだろ?

だから──俺たちの“想い”は一緒さ」


語尾をやや下げて、温度を変える。


「君がもしここで手を抜けば、

その“災難”は君の大好きなジークくんにだって……降り注ぐかもしれない」


「お前はそれで俺をどうにか出来るとでも?」


「でも簡単だろ?それとも何だ?そのまま切り捨てられるのをただ待つだけなのか?」


「黙れよ」


「すっげぇ簡単なのに?」


「……」


「上手くやるんだよ。指輪をつけて一言詠唱すればいいだけだ。

それと──」


俺は、ぽんと彼の肩に手を置いた。


「──見ているからな」


……振り払われる気配はない。

よし。ここまでやれば十分だ。


踵を返し、仮面を静かに外す。


俺の口元が、ゆっくりと綻んだ。


──この程度で上手くいくか?


いや、


何言ってんだよ、これが最高の悪役の退場の仕方じゃねえか!!




さて、シュリクくんが奇行に走り出さないか監視しつつ、シャトロの商会に置いた瞳から少しだけ確認。

ふむ……シャトロは冒険から帰ってきた後なのか戦闘時と装備を変えていないな?

でもその方がいいな。問題なし。さあシュリクくんが商会へ近づいてゆくぞ。


「おいシャトロ、いるか!」


「……ああ?何だお前?見覚えがないが」


「見覚えがない!ならこれから嫌でも顔を覚えることになるだろうよ!!」


「……!」


シュリクは近くにいたスツールで本を読んでいたシャトロへ近づいて胸ぐらを掴み、醜悪な笑みを浮かべる。


「大悪魔様からの勅令で、俺はお前を躾ける権利を得た。無駄な抵抗はよせよ」


「……俺は何も聞いていないが」


「哀れな野郎だ!」


シュリクは片手を振りかぶってシャトロを殴ろうとしたが、シャトロは身を逸らした後にそのままシュリクの伸ばした腕を取って払い腰を入れる。

特殊能力や魔法に長けてないだけで技能はあるよなシャトロも。

地面に簡単に叩きつけられたシュリクには目を見開いて驚愕するが、再度起きあがろうとするも……シャトロは既に、足の甲でその胸元を押さえつけていた。


「おい、ふざけるな。話が通ってねえっつーの。いきなり手を出してくるって……お前、何様のつもりだ?」


「っぐ……が……だ、大悪魔様の……」


「“大悪魔様の命令”ねぇ。なら、その命令書なり契約なり、見せてみろよ」


シャトロの声は低く、そして冷静だった。

怒ってはいるが、冷静さを欠くほどではない。むしろ、抑えきれない面倒くささの方が勝っているような調子だ。

騒ぎを聞きつけて護衛が数人寄ってくるが、正直純粋な対人術で言えばシャトロが一番に見える。

一目に晒され、ただでさえ緊張で赤かったシュリクの耳は更に赤くなる。



「そ、そんなもんは……口頭で……っ!」


「証拠もなく、俺に手を出そうってのか?」


「黙れ!!お前のような低俗で無能な男のせいで俺も!俺の部下たちも!皆不条理に蹴落とされた!」


「いきなりアポも無しにやって来て人に殴りかかる野蛮人の方がよっぽど無能で低俗。そんな常識の欠片もない犬野郎共が出世できますか?っつー話。ほら、世間様的にもそうらしいぞ」


周囲の護衛の失笑気味の表情を顎で示しつつ、足に力を込めるシャトロ。ぐっと呻くシュリク。


その場面を見て、俺は思わず笑ってしまった。


──いや〜〜〜シャトロくん、結構つえ〜〜〜!!

ライアスやモースのせいであんま意識出来てなかったけどさ、違った強さっての?


地道な訓練と実戦経験がある人間ってのは、一朝一夕の“お許し”だけで躾けられる相手じゃないんだよね〜って、ほんとそういうところ好きだ!!


「っ……!!貴様、あの方を誑かしただけでなく……勅令を受けたこの俺の意思に逆らうつもりか、貴様……!!」


一方こちら。

じゃあシュリクくん。もう限界か?

どうやらそろそろ、“切り札”を切る時間が来たらしい。


「この卑怯な男が!!──【消えろ】!【消えろ】!!」


叫ぶと同時に、あの《天罰の指輪》が光を放つ。

悍ましい気配を纏った魔力が、シャトロを飲み込む──


──ことはない。


「なっ…………っ」


シャトロの腰に刺された剣が、まばゆく輝いたその瞬間。

魔力は光の障壁にぶつかって軌道を変え、そのままシュリク自身へと跳ね返る。

あー!!ほらほら出たよこれ!!これこそがシャトロの高潔な精神の現れです!!

邪悪な術を反射する光の壁まで生み出してしまうシャトロの神聖度!!皆さんも推しちゃうでしょう!!

なーんてな。


「……まじかよ、何だ今の……」


シャトロが呆然とする顔も、なかなか良い画だ。


で……言っておくがな。

天罰の指輪なんて、存在しねーよ。


俺が勝手に作った、自作魔道具だ。

正確には悪魔の作れる魔術を付与した指輪を改造したんだが。

付与したのは、下級悪魔が扱う【死の囁き】。

本来は成功率が激低で、普通の人間相手には通じないレベルの微妙魔法──なんだけどな。


俺の悪魔に対する熱心な聞き込みと悪魔語解析、応用の結果!!

この【死の囁き】の上位魔法【死の宣告】と構造がほぼ同じだって分かってさ。

不要な制約文を削除して組み直したら、成功率、バカみてえに跳ね上がった。


しかも今回は条件が揃いすぎてた。


悪魔語は語義以外に複雑な感情もその詠唱の強度を高める言語。

大悪魔の命令、俺の“脅し”、上位存在への恐怖、シャトロへの劣等感、追い詰められた焦り──

精神状態、最悪。感情、激烈。

……暗黒魔法の通りが良くなるには、十分すぎる。


そんで結果、シャトロの聖剣に跳ね返されている。

この聖剣の性能っていうのがこれだよ。


【ウィルニアの聖剣】

聖女ウィルニアが地の神から賜った聖剣。地の精霊との約束が刻まれている。本来の力の大部分は失われ、堕落の状態に近い。

魔法耐性の増幅、幸運の補正を行う。暗黒属性に対する完全免疫を付与し、中級以下の暗黒属性の魔法を反射する。

現在シャトロが保有する。


そりゃあ、跳ね返るだろって感じだ。結局低級の暗黒魔法だし。

一回見てみたかったんだよな。これが発動するシーン。

それにしても、

暗黒属性ってのは、“神様”にめっぽう弱いみたいだな。


で──


そのあと。


「……俺も今日は疲れてんだ。勝手に一人で死ぬのは構わないけど、もうちょい静かにやってくれ……」


シャトロは愚痴りつつ、呆れた顔で護衛にシュリクの死体を運ばせていた。

処理の手配でも始めたらしい。さすが、仕事は早いなあ……。


で、しばらくして。

応接間に戻ってきたシャトロの通信機が鳴る。


あれ?

相手は──あの大悪魔じゃん。


なに? 部下の死を察知したのか?それとも報復の追撃でも来るのか?と思ってたら──


『や〜あ、シャトロ!!今頃、一人馬鹿を斬った頃かい?』


……えっ、なにその軽いノリ!?!?


威圧感どこ行った!?

てっきり尋問かと思ったのに、フランクに雑談する雰囲気しかねえ!!


「……何を言っているんですか?確かに馬鹿一人来ましたが、勝手に暗黒魔法を発動して死にましたよ?」


『ん〜〜?暗黒魔法ぅ?あー、そう言えば君“聖剣“持ってたねえ……

……とにかく君に怪我がないようで良かったよ!!』



何故か聖剣の話になった途端2トーンくらい声音が低くなったけど。

悪魔って神が嫌いなのか?

最近シャトロは地の神の祝福も獲得してんのによくその態度で付き合ってんな。


『ともかく……どうだい?シャトロ、粛清のお祝いにうちに来ないか?』


「遠慮します」


……シャトロ、即答。

にしても大悪魔様、甘々ボイスで通信口からハート飛ばしてたな。


──あー、これ。

最初からシャトロを害する気なんてなかったんだな。


粛清ついでに、当て馬一人送り込んだってだけの話かよ。

なーんだ!?こっちは真剣に頭使ってたのに!

あーでも、どうせ殺される命にちょっかい出しただけなら俺の罪ってほぼ無いようなもんだよな?

シャトロに関する問題はあくまでサブミッションだし?


うん、ちょっとだけ得した気分だな。


『なーんて、流したりしないよ?』


通信越しの声が、また少しだけ甘くなる。


『だって今、君たちの中に“悪魔を操る指輪”を持ってる人はいないはずでしょ。

なのに、基本的に悪魔間でしか流通していない暗黒魔法を、明らかに人間の意思によって行使してたなんて──妙じゃないかい?』


……おっと。

この話の〆にしては、なかなかの爆弾投げてくるじゃんか。


『君らに渡した指輪が、その人物に盗まれた可能性がある。確認しときなよ、シャトロ』


シャトロは通信機を睨むように見てから、静かに答える。


「……ああ、そう言えばこの男も指輪を着けていたんですが。

見たことのない形状をしていて、効用も分かりません。

ただ……粗雑な作りです」


──おい。

人の処女作に対してなんて評価だそれ!?!?!?

手作りなんですけど!?!?しかもこの俺がこの土壇場で削り出した唯一無二の……ッ!!

それによく見ると内側に小さなピースマークが彫ってあって可愛い!!


『ふむ、それは解析に回そう。此方へ送っておいてくれ』


淡々と指示を出しつつも、明らかに“それ”には興味津々な大悪魔様。

俺という存在が気になったか?気になっても仕方ないが残念!!

ちなみにあの指輪はあくまで悪魔の生成したブツの改造品であり、俺の魔力によって構成されているものではないのでそうそう足がつくこともない。

本当はもうそこかしこに天才の痕跡をばら撒いてやりたいんだけどな!!天才軍師万歳。


『それと、現在指輪の探索に回している人員は全て解散させてくれ。

代わりに、今回奪われた物品が市場に流れていないか調査を始めろ。

私にとって重要な魔道具が含まれているからな──』


……と、ここで間が……


『任せたぞ、シャトロ♡』


ハート付いてるーーーーー!!!

語尾に明らかに、しれっと、完全に、ハートマーク付いてたよね!?ね!!??

えっ俺に向けて?いやばちくそシャトロの名前呼んでたわ。


さて。

これってつまり──


あの時、ジークがシュリクくんに『シャトロに責任転嫁しとけ~』って感じで囁いたのも、

この展開を見越しての布石だったってことか?


だとしたら、

ジークはどんだけ忠誠心のある上司想いな忠犬部下なんだよ!!



やってることは真っ黒なはずなのに、組織内の人間関係が清潔感にあふれてるってどういうこと?

契約・拷問・粛清・ハートマーク付きの指示を飛ばしつつ、

めちゃくちゃ上司と部下の絆……

裏稼業者も捨てたもんじゃねえってこと?!

みんなも目指そう、地獄のホワイト職場。

ああ、みんな楽しくやれよ!!元気でな!!!じゃあ俺は帰る!!

──そんな脳内での茶番劇を上映していたその時。


今度は、シャトロの通信機が鳴った。

相手は……ジークくん。


『やあ、シャトロ。その……上の方からは叱られなかった?

一応ね、僕の失態だからシャトロに当たらないでって打診しておいたんだけど……』


おおお……ジークくん……!!

めちゃくちゃ大嘘だけど、演技力が高すぎて逆に推せる……!!


「……ああ、問題なかった。少しトラブルはあったが、

あの規模の失態を犯したにしては、咎めは殆どなかった。

──お前のおかげかもな」


『……あ……そっか。

はは……良かった。やっぱりシャトロってずるいよね』


「あ?」


『ずるいくらい欠点がないよ!』


「……褒めてんのか?それ」


なんつー虚無な台詞!?

──いやこれ、絶対ジークくん納得してねぇ!!

普通にシャトロに痛い目見てほしかっただけかもしんねー!!


声の裏にある黒さ、俺は聞き逃さなかったぞ!?

普通に“シャトロが痛い目見るの楽しみにしてた”可能性大だからな!?


だがそんなのを読み取ってか、シャトロはすぐに語調を改める。


「ジーク、一刻も早く挽回する必要がある。

お前の方でも、これ以上いかなる外部からの影響にも対応できるようにしておけ」


「うん、分かったよ。

──明後日は確か、“BからRの25”あたりから行くのは?あそこなら見通しも良いし」


「……ああ」


おっっっっ……!!?

今また、さりげなく挟まれたその暗号ッ!!

分かってる、分かってるぞ!?行くしかねえんだろ!?

もう来てくださいって言われたような気すらしてきた!!


もう決まった。

この天才軍師の俺が、この商会の財政も人事も、

果てには人間関係まで全部思いのままにしてやる……!!!


そして……

今なお膨らみ続ける知り合いへの借金、全額返済してやるからな。


よし、次の目標はこれだ!!

倫理観を持った天才の小さな目標!

やっぱり天才ってのは、堅実に、着実に、正当に──駒を進めていくもんなんだ!!

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