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将来の超絶最強軍師である俺が勇者を堕として最強の料理人を飼い犬にしてとにかく最強  作者: Os


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10/24

観測

さて──翌日の早朝。

悪人の朝は早い。

……だから、善人の俺もしゃーなしで生活リズムを合わせて、目当ての場所に来たわけだ。


今は、目標地域を見下ろせる崖の草むらで潜伏中。

ほんと、朝露で足元がびっしょびしょだぞコレ。

朝しか取れないキノコを取りに行くって名目ライアスから白蛇も借りて来たことだ。

万全の体制。


で、なぜ俺がここに張り込んでるかって?

昨日のシャトロの発言、思い出してみようか。


『……ああ。以前は不明な理由で輸送中に事故が起きて最悪だった。原因も分かっていない以上、安定性を優先して──

まずKの山脈を抜けて、W14を通って……』

これな。

一見するとただの暗号っぽいけど──俺の脳がピキーンと反応したのさ!!!


暗号に使われるのは、大抵マイナーだけど互いに共有してる文化の知識とか、意味のない文字の割り当てとかだよな。

で、俺がカル先生のとこで国の情勢を調べてたときに出てきたのが、

そう、東方文化。


この地方じゃタブー視されてる節もあるけど、シャトロの関係する商会の内装を見てみると、

ちらほらその文化の装飾があったんだよな。……これがシャトロの趣味なのか知らねえけど。


東方文化では、方角と色を結びつける習慣がある。

KとWが略字とすると、簡単に考えればBlack、それとWhiteだ。

BlueとBlackは頭文字を混同するためにBlackの略字はKとなっている。

黒は「北」、白は「西」ってな。

以前、ギルドの講習で地図通り進む方法を教えられた時のことだ。

街で実践するために地図をぶん回しながら


「西ってなんか黄色いイメージだよな。太陽が昇る方向だし。じゃあこっちが西だから向こうに進めばいいのか!?」


とキレ気味に嘘知識を披露してたら、無理やり付き合わせて連れて来てたシャトロが


「太陽が昇る方角は東だ。それに方角に色があるとしても西の色は白だ」


と答えてくれたことがある。

あの知識マウントからシャトロが東の文化をある程度理解してるのが分かったのもこの説を取った理由の一つだな。


つまりあの暗号を言い換えると──

「北の山を起点に、西方向の14を通る」ってことになる。


じゃあ「14」ってなんだ?って話だが、ここで俺はもう一つのピースを思い出す。


──シャトロが、商人たちと話してた時に使ってたボードゲームの盤。

彼はあれで遊んでたわけじゃない。

地図の代わりに使ってたんだ。


「7の検問所が最近警備体制を見直して〜」「35地点が〜」って話してる間、

無意識で駒を動かしてた。んで、その駒が止まったまま残されてた。

……俺はちゃんとメモした。天才だからな。


これはさっきの余談の続きなんだけど、

結局俺が「地図の読み方教えてくれ!!」って宿に押しかけたら、寝起きシャトロが死ぬほど嫌そうな顔で教えてくれたんだよな。そんで俺が「は?難し!!!」ってキレてたら

「まず区画を作って整理しろ。出来ないなら暗記しろ。それも出来ないのなら死ね」

って吐き捨てられつつ追い出されたことがある。


詰まるとこ、シャトロの思考パターンは一貫してて、構造を区画で正確に想像して話すタイプだ。

ってことは、あの「14」ってのも、盤上の区画そのままって可能性が大いにある。


で、地図だ。

ギルドに所蔵されてる高精度な地図を見れば、14がどこか、おおよそ当たりがつけられる。


北にある山脈──

あそこは、高い峰と深い森が連なる、通行困難エリア。

普通の輸送なら、通れるルートはそう多くない。


地下トンネル掘ったり、空でも飛んだり、そんなことでも出来なけりゃ使えるルートは三通り。

その中で、推測された14という数値が示せる場所に当てはまるルートは──


ただ一つ!!!!


そして俺は、その道をこうして見張っているわけだ。

……さあ、獲物は来るか?




ま、焦っても仕方ないしな。

でもただ待ってるだけってのも芸がないから、俺は監視を悪魔に任せることにした。

空からなら視界も広いし、向こうの気配もいち早く察知できる。

……悪魔に頼むのって、割とアリだよな。俺天才。


で、その間に俺は『罠』の仕込みだ。

ちょうど合間だったんで、白蛇に頼んで道の上に膝くらいの高さの土壁を立ててもらった。

簡単なバリケードってわけ。


この辺りには凶暴な魔物は出ない。

ちょっと離れてても大丈夫だろう。

俺は高くて安全なこの場所でぬくぬく──

……してるつもりだったんだけど、普通に寒いんですけど?早朝の霧やべえ。


しばらくして、白蛇が作業を終えて戻ってきたタイミングで、悪魔から報告が入る。


「……数台ノ馬車。魔物化シタ異形ノ馬……外見ハ偽装シテイル……」


普通の馬車に見えるけど、実際は魔獣の牽く馬車ってことね?

こっちに向かってるってんなら、ほぼビンゴってことだな。


遠目に確認できる。

どうやら、あの土壁に気づいたらしく、御者が減速を始めている。


──来たな。


ここで!!俺のッ!!

はじめての!!中級魔法の陣紙お披露目ターーーイム!!!!


高級な材料こそが力!!!

以前獲った銀鷲の魔石に加え、生薬と高めの希少素材!

命を削って使う時が来たぞ!


「深淵を覗かなば狂気へ惹かれん──【睡郷陣】!!」

ズゥン、と足元の空気が揺れる。

馬車を覆う空間が、ふっと柔らかく歪んだ。


地面に刻んだ陣が光を帯び、直接ステータスに干渉する歪んだ魔力に覆われる。

俺の中級魔法が、ようやく……完成した。


……俺、ついに一人前の魔術師っぽくない!?いや陣士!?


──魔化した馬が、バタリと倒れ込んだ。

車輪が軋み、馬車が揺れる音。

……そのまま、沈黙。


中からは何の動きもない。

……よし、睡郷陣はちゃんと効いてるな。


この魔法の継続時間は、個人差はあれど数十分は保つはず。

ぐずぐずしてる時間はない、行くぞ。


馬車にそっと近づき、まずは【魔道具鑑定】を発動。


感覚が研ぎ澄まされる。

あらゆる魔力の流れが視えるような、そんな感覚。

……よし。監視用の魔道具はない。

護衛や商人たちが身につけている魔道具にも、特に危険な反応は──なし。

馬も魔獣って聞いたけどちゃんと術に掛かったみたいだな。


なら、次だ。

貨物と書類を漁っていく!!


荷台から引っ張り出した帳簿や取引書類をざっと確認。

……うん、探してる情報は特に載ってないな。

取引の記録には禁止級の素材や、採取禁止の希少なものが混ざってるけど──

ま、それは俺の管轄じゃないしな?


ついでに、悪魔に頼んで馬車内部の連中の悪魔との契約を片っ端から書き写してもらう。

ほんと悪魔便利。持つべきものは人外の友。

つってもここの奴らは単なる“足”のようで契約者は少ないみたいだけど。

──で、問題は荷台の奥の箱だ。


そろ〜っと開けてみると……


「……おっ!? これは……!?!?」


俺の目がキラッキラに光るのも仕方ない。

だってさ、まさに魔道具の宝箱状態!!!

物色していって持っていけそうなものを厳選する。

そして見つけた最たる宝がこれだ!!!


【隠者の瞳】

賢者エルベスが残した、古代の希少な遺物魔道具。

透明な“瞳”の印を任意の場所に設置でき、そこから視覚・聴覚・位置情報を取得可能。


隠密行動の最強アイテム。

現代の技術じゃ複製も解析もできない代物。

こんなのが普通に輸送されていいわけないだろってツッコミはさておき、もうヤバい。即欲しい。


その他にも【結界術師のイヤーカフ】、【風霊のマフラー】、見栄えの良い様々な品々……


細かく便利そうな魔道具が数点。

全部拝借!!ありがとねッ!!


おっと、置き土産も忘れずに。

早速手に入れた【隠者の瞳】の印を、馬車の天井裏にそっと設置。

透明な印だから見えねえな……と思いつつ魔道具を起動すると、しっかりと馬車の天井から見た景色と聴覚がリンクするのが確認できた。

これで今後の追跡・諜報も簡単になる。


「……あばよ、天才軍師に目をつけられた不幸な商人ども……!」


でも魔物に喰われたとか聞いたら、俺も寝覚め悪いしな。

近場に市販の魔物除けをばら撒いてやる。


さて、ライアスに言ってた通り、

朝方限定のキノコの採取でもしに行くか。



作業を終えた後、瞳から反応があった。


すぐに接続を開いてみると、そこには想像以上の地獄絵図が広がっていた。


「今回一番大切な道具がなくなってるじゃねえか!!? どうすんだよ!!」

「護衛の魔術師は何をしていた!!」

「中級の精神魔法を使う適性を持っている人物なんてそもそも殆どいません!単なる催眠煙などの薬なら我々に耐性があります!精神防壁をかける理由も通常は……」

「黙れッ!! その適当な態度でどれだけの迷惑被ってんだ!! あれを一つ手に入れるのに何人犠牲になったと思ってんだ!!!」


これは……

想像以上に絶望してんな。


まあ、今回の品揃え見る限り、“上”への献上品だろうしな。

あの辺境と言っても差し障りない街のどこにそんな貴人がいるんだよって感じだけど。

……あー、まあいるんだろうけど。


となると、シャトロがどんな顔して帰って来るか、ちょっと見ものだな。


……よし、帰ったらシャトロの商会にも【隠者の瞳】の印、付けておくか。


仲間に出所を聞かれると面倒だから、今朝買っておいた小型の空間収納袋に全アイテム突っ込んでと。

魔道具って一括収納できるからマジ助かる。もう少しデカいのが欲しいけど、まあおいおいだな。


モースの作り置きしてた携帯食をかじって、元気補充!

爽快な気分で帰っちゃうか。うーんこんなに動いても元気なんて流石天才最強軍師!!





「ただいまー!ハニー!」


「おかえり、ハニー」


「わーいわーい」


「両方ハニーっておかしいだろ」


モースとの和やかなやりとりにツッコミ入れてきたライアスの脇腹をつつく。

今朝取ったキノコをもちもち食べつつも俺はモースが作ってくれてたレモネードを一口。

……は〜〜〜、冷たっ!!うめっ!!

長距離歩いた後の冷たい飲み物って、なんでこんなに五臓六腑に染みるんだろ。


「ライアスもありがとな、白蛇貸してくれて」


「問題ありません。俺たちはこの後、ダンジョンに行く予定ですが──君も来ますか?」


「行く!!行きたい!!」


久々の仲間との戦闘……!!

この街に来てからというもの、陣紙の勉強とストーキングで手一杯だった。

一応使える魔法も増えたし、一度大物も相手にした。

でもやっぱり実戦経験はこいつらの方が圧倒的に多いし、とっくに俺の倒した【銀鷲】級の敵も正当な手段で倒せるようになったらしい。


そろそろ俺も、ステータス的に成長して【無能】を卒業するべき時だ。


「俺も、そろそろモースみたいに職業手に入れたいな〜。そういやライアスは?もう職業あるの?」


「俺は今【戦士】だ」


「ああああぁあああああ!!!」


「急に叫ぶな!料理中だから危ねえんだよ!!」


置いてかれてる自覚、急に来た。

……そりゃそうか。まあ当然か。


でも俺だって!

机上の理論だけはめちゃ強いよ!!!


「てか“戦士”って、前は《剣士》が候補って言ってなかったか?」


「ああ、行動によって変わるようですよ。俺は剣も魔法も、ダンジョンで拾った武器も使いますから」


「はえ〜……。じゃあ、次の職業って?」


「《近似職業:剣魔闘士》と出てますね」


「なにそれかっけえぇぇぇぇぇ!!!」

剣も魔も闘もって!厨二要素フル盛り!?

厨二要素もこのイケメンの前では全部見栄えの良い装飾具だけどなマジで!!


「モースは?」


「俺?《天恵の料理人》!なんかよくわからんけど、いい感じ〜!」


「お前らほんと上位種って感じだよな……」


「なんですか、人を魔物みたいに」


「ライアス、魔物差別はいけないぞ」


「うるさいですね。それで、君は?」


えっ、俺?

どうせ将来天才軍師になると思って最近職業欄は確認してなかったけどな?

……しかし、行動によって変わるのならすでに天も俺の才能の片鱗を見ていることだろう!


通知もなしにサイレントで職業が変わっていることがあるかもしれない。

もしくは《近似職業》の乱に燦然と輝く【天才軍師】の文字があることも十分に考えられる。



えー、どうしよっかな〜〜〜〜

でもまあ、ここで俺の凄さを見せつけとくのも悪くない。

ということで


いざ──ステータス、オープン!!


──【職業】無能

《近似職業:堕落した寄生虫》


「……死ね」


……誰に言ったのかって?

俺かもしれない。もしくはステータスを管理する天の神かもしれない。 


「うわ、これはまた火力の高い。あ、あんたが寄生虫とか思ってるわけじゃないよ?」

「ふむ……君と堕落とは縁がないように見えますが」


と、背後からステータスを覗いた二人によるフォローの言葉。痛いような温かいような。でも俺は立ち上がるぞ!!ここから神の目を覚まさせてやるッ!!


「よぉぉぉし……まずは廃仏毀釈からだッ!!」


「落ち着いてください。ここに仏教は存在しません」


「仏教ってなんだ?」


「……ん?」


とにかく、今回のダンジョン探索で一旗上げてこの異常な偏った不公平なレッテルを剥がして最強軍師としての格を見せつけてやる!!

ふっ、心が燃え上がると体も熱って来た。

これも俺の本気の片鱗!!

心が熱い。いやマジで熱い。なんか体も火照って──


「……ん?なんか熱……っ……」


ガシャーーーンッ!!


倒れた。派手に。ガチで。


視界がグルグル回って、最後に見たのは、焦ったライアスが俺を抱き起こす姿と、モースが何かを叫ぶ姿。

……なんだよ、いきなり。魔力切れでもないのに……。

そのまま、世界がブラックアウトした。


次に目を覚ました時、そばにはカル先生の姿があった。

「やあ。君中毒で倒れたんだよ。君、レモネードと夜天茸を一緒に食べただろ?その組み合わせはねえ、アルコールが効きすぎる上に自分の魔力でも酔っちゃうから駄目なんだよ」

「カル先生って医者だったんですか?」

「んー?医者の真似事?別に医者を定義づける資格なんかはないからね」

「そう聞くと急に医者に恐怖を感じる!!」

「ともかく、茸の効用を打ち消す抗体と魔力の過剰反応を抑制する薬を打ち込んでおいたからね。すぐに帰ってもいいけど危ないから静かにしていなさい」


「じゃあ、お言葉に甘えて……。あの、治療費とかって──」


「んー、要らないよ。普通なら君の月給が吹き飛ぶ額請求されるだろうけど、僕は別に医者として競争するほど商売してないし」


「せんせ〜〜!!天使!?じゃあちょっと本でも──」


その時、再び【隠者の瞳】で動きを感知した。

……そろそろあの馬車が街に着く頃か?


「本を読もうと思ったけど野良猫と遊びたいから帰らせていただきます!!」


「野良猫と遊ぶなら仕方ないねえ」


そして、研究室を飛び出した俺は、路地裏で日向ぼっこ中の猫たちと遭遇。

やたらと集ってくる猫共。

【悪因悪果】の特性のせいで好感度下がりやすいはずなんだけどな。



まあいい、唐突に倒れてダンジョンでレベリング計画もお釈迦になったし丁度良いタイミングだ。

適当な場所に腰掛け、俺は懐から取り出した魔道具に、意識を込める。


【隠者の瞳】──発動。


さあ見せてくれ、次のチャンスを!!

神による“無能”という評価から脱却し、俺が“天才軍師”を証明出来る舞台をッ!!!



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