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目覚め


俺が目を覚ました時、俺の足元には輝く大きな魔法陣が広がっていた。


鈍く重い頭を抱えつつ、俺はゆっくりと体を起こす。視界はまだ霞んでいるが、魔法陣の光だけは、やけに鮮明だった。淡い蒼光が脈動しながら、床の紋様を這うように流れている。


魔法陣の中には、俺の他にも二人の人間がいた。

一方は黒髪の男、もう一方は金髪で誠実そうなイケメンだ。


肩を揺すってみると、一方の金髪男が目を覚ました。


「……う、ん……ここは……?」


低く穏やかな声が暗がりに響く。彼は瞳を瞬かせ、しばらくぼんやりと宙を見ていたが、すぐに状況を察したのか、軽く身を起こした。


「……君たちは……?」


「同じ魔法陣から出てきたってことは、運命共同体ってヤツじゃねぇ?」


俺が肩をすくめてそう言ったその時──


ギャギャッ!


狭い通路の奥から、濁った鳴き声と共に小型の魔物が這い出てきた。干からびた皮膚、細い肢体、眼だけがぎらついている。数は三体。連携を取るわけでもなく、飢えた野生そのままにこちらへ突進してくる。


「お、おい、まだ武器も──」


言い終わる前に、金髪の男が立ち上がった。


「……退いて」


冷静な一言と共に、一歩。


次の瞬間、ドゴッ!!


重厚な音と共に、先頭の魔物の顔面がへしゃげた。続く二体も、正確な間合いから繰り出される掌底と蹴撃によってあっという間に沈黙する。


「…………」


「…………」


一瞬の沈黙。


「…………っっかっけぇぇええ!!!???」


思わず声を上げたのは俺だ。いや、だって、いやだって!? いきなり素手で魔物を、しかもノーダメで三体撃破とか……!?


「おいおい!そんな身体能力持ってる人間初めて見たぞ!」


突然の有能なる人間の登場に俺は小躍りしながら勝手に感心していた。

彼が俺を怪訝そうな目で見ているのに気付いた時、俺は咳払いをして襟を正す。


「君は……魔物を見ても驚かないんですね」


「魔物だと?」


「あっ……その、魔物みたいな生物。不気味だと思わないんですか?」


「いきなり殴りかかったやつに言われても説得力がねぇよ」


俺がそう答えると、彼は矢鱈バツが悪そうに肩をすくめた。

けれど、特に気分を害したわけでもないらしい。


「ここは危険みたいだ。安全な場所へ行きましょう」


「おい、そこにまだ一人転がってるぞ」


「彼は俺が連れて行きますよ」


金髪男は軽々と黒髪の男を担ぎ上げ、汗一つ流さずに足を動かす。


「お前はここが何なのかわかってるのか?」


「分かりませんよ。それより、ここから出るか、助けてもらえる場所へ行くかのどちらかを進めましょう」


「おいおい判断早すぎねえ?」


俺が眉をひそめると、金髪の男は立ち止まり、ちらりとこちらを振り返った。


「……あなたがこのまま、ここで死ぬというなら、それも選択です」


まるでそれが自然なことであるかのように言ってのけたその声に、空気が一瞬張り詰めた。


「は……?死ぬだと?生死を司る神の手を持つこの俺が?」


「冗談を言っている場合ですか?」


返す言葉がない……いや、返したくないだけかもしれない。

だがそのとき、担がれていた黒髪の男が微かに呻いた。


「……ぅ……何だ……あんたら……」


「お目覚めか」


金髪男は自然に歩き出す。あまりに自然すぎて、こっちがアホみたいに立ち尽くしているのが余計に際立った。


「……あのなぁ……」


俺は舌打ちしてから、彼の背中に続いた。しぶしぶ、というよりも逃げ遅れたくない本能で足が動いた。


「……名前くらい教えてくれてもいいんじゃねえの」


「そうですね。失礼しました。ライアスです」


金髪の男──ライアスは振り向きもせずにそう名乗った。


「君、戦えるのか?」と金髪男が俺を見る。


その時俺の脳内に直感が走る。

《軍師を目指せ!然ればお前はこの食えないイケメンを跪かせて足ペロさせることができる……!》


「おう、俺は後ろで見て指示出す専門だ。指揮は得意なんだ、マジで」


黒髪の男はふぅ、と呆れたように息を吐いていたが、それを無視して俺は堂々と宣言した。


「俺こそがこのダンジョン攻略の鍵を握る──天才軍師様だッ!!その名も__」

「置いていきますよ」


そして心の中では既に、金髪イケメンの戦闘データをパーティ構成に組み込みながら──

ニヤついていたのである。ふふ……これ、勝ったな(確信)!!


ダンジョンの通路は狭く、天井も低い。けれどそんな環境でも、ライアスは躊躇なく進んだ。


「ギャァッ!!」

「キシャアアア……ッ!!」


左右の影から飛び出してくる魔物ども──細い手足に鋭い爪、牙、怨念みたいな気配。だがライアスは一瞥もくれず、拳ひとつで沈めていく。


ドッ

バギッ

ズガッッ


「……おい、今の魔物、顔が二枚あったんだが?」


「気にしなくていいです。弱い敵の形状を逐一記録するほど暇ではありません」


あまりに規格外な冷静さに、俺は黙るしかなかった。いやいやおかしいでしょ!?

そのすぐ後ろでは、先ほどまで担がれていた黒髪の男がいつの間に立っていた。そして──


「ふぅん、こうか?」


そう言いながら、どこからか拾った錆びた剣を軽々と振り、魔物の関節を正確に断ち切る。

さっきまで寝てたくせに、なんだその適応力!?

これにはいかにも成果主義者って雰囲気のライアスも興味津々なようで。


「……君、剣術の心得が?」


「いや、たぶん初めてだけど。見てたらだいたい分かった」


「へえ、名前は?」


「モース。まあよく分かっていないが、互いに頑張ろうってことで」


「お、おーい!あのな、俺も一応、パーティの一員ってことでいいわけじゃん? 俺の名前は──」


「危ない」


「へっ──?」


ドガッ!!!


突然飛びかかってきた魔物を、ライアスが肘打ちで殴り飛ばす。その破片がバラバラと俺に降り注いだ。


「……君は何もできないだろうけど、せめて武器くらいは持っていてください」


「うぐ……」


手渡されたのは、柄の欠けた錫杖のような何か。魔法の気配は皆無。装飾だけは立派だが、明らかに護身用というより荷物だ。


「いやこれ、絶対オシャレ枠の武器だろ!?音鳴らして魔物引き寄せるだけじゃん!!俺は寄せ餌か!?」


「あなたに実用性を求めていません。持ってるだけでいいです」


ライアスの言葉に、モースと名乗った黒髪の男までふっと笑った。

笑うな。お前さっきまで寝てただろ。


「……あの、俺、最強天才──」


「足元。段差」


「ありがとう……って、いでぇ?!!!」


ただの段差だったのに突き飛ばすな。


こんな調子で、三人のダンジョン探索は続いていく。

二人の化け物じみた才能と、一人の凡人の、名前すら定着しない奮闘が──今、始まった。

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