『シマと小野さんと、ねこプリン騒動』
「……またシマの写真か」
朝、開店前の《スロウ》。
カウンターでスマホを眺めながら、小野さんがつぶやいた。
SNSには、今日も「#シマ先輩」のタグで溢れる写真。
寝てるシマ、あくびしてるシマ、ラテアートの横に鎮座してるシマ。
「もう、シマに給料払わなきゃだめかな…」
そう言いつつも、目元はちょっと嬉しそう。
でも、その日の午後。
お客さんに「この店って猫カフェじゃないんですか?」と聞かれた瞬間、小野さんの顔がピクリと動いた。
その夜、小野さんは何やら厨房にこもってガチャガチャやっていた。
「ちょっとくらい……料理の腕、見せたってええやろ……」とブツブツ。
次の日。
《スロウ》のメニューに新しく貼り出された小さな札。
「数量限定・ねこプリン(おひげ付き)」
見た目は、丸っこいプリンの上に、ホイップで耳がちょこん。
チョコレートで描かれた目と鼻、そしてピンと伸びたチョコスティックのおひげ!
「これ、小野さん作ったんですか!?」
「めっちゃかわいい…写真撮っていいですか!?」
あっという間に「#ねこプリン」タグが広がり、まさかのシマ越えの勢いでバズり始める。
その日、カウンターの奥でシマがむくっと起き上がり、プリンの写真を見て首をかしげた。
小野さんが得意げに言う。
「どや、シマ。今度はこっちが主役やで」
シマはふわっとあくびをして、カウンターの上からひょいっとプリンの前に座り込む。
――その瞬間。
「ちょっ…!それはずるいって!あかんて、写真映えしすぎやろ!」
案の定、「#シマ先輩とねこプリン」で再び大バズり。
小野さんは頭を抱えつつも、笑いながらつぶやいた。
「結局、主役はあんたなんやな…でもええわ。うちの看板、ふたりでやってこうか」
カウンターには、シマとプリン。
どっちも、ほっとする甘さを持っていた。