『シマと小野さんと、あたたかい朝ごはん』
朝の光が少しずつ店内に差し込んで、商店街の静けさを包み込む。
《スロウ》の店内は、朝から温かいコーヒーの香りで満たされていた。
小野さんは、いつも通りの時間に店を開けて、今朝もコーヒーを淹れ始めている。
「おはようございます」
僕がカウンターに座ると、小野さんが少し笑顔を見せてコーヒーを差し出してくれた。
「おはよう。今日は早いんだね」
「なんだか、眠れなくて。ちょっと早く起きちゃっただけです」
「でも、良かったじゃない。朝ごはんに、いいものができたよ」
小野さんが軽く笑いながら、カウンターに並べたのは、ふわっと焼けたパンケーキだった。
「パンケーキ…!?」
驚いた僕の顔を見て、小野さんは楽しそうに言った。
「はい。シマと一緒に、今朝焼いたんだよ」
「シマが?」
振り向けば、シマがカウンターの隅で、誇らしげに足を組んで座っていた。
どうやら、彼女の見張り役として、焼き加減をチェックしていたらしい。
「ほんとに、ありがとうシマ」
僕がシマに微笑むと、シマは「ニャー」と嬉しそうに鳴き、まるで誇らしげに体を伸ばした。
パンケーキは、ふわっとした食感が特徴的で、ほんのり甘い香りが口の中に広がる。
口に入れた瞬間、温かさが体に染み込んでいく。
「うん、これなら、朝から元気が出そうだな」
「そうでしょ?」
小野さんが満足そうに言いながら、シマの頭を優しく撫でた。
「これ、シマのおかげだよ。お前、ほんとにいい仕事するな」
シマはうっとりと目を細め、「ニャ」と鳴いた。
「毎朝、こんな時間を過ごしていると、ほんとに幸せだなって感じるよ」
小野さんがそう言ったその瞬間、シマが「ニャー!」と大きな声をあげ、僕の足元にスリスリと寄ってきた。
「ありがとう、シマ」
僕が優しくシマの頭を撫でると、シマはまた満足そうに目を細めて、うっとりとした顔を見せてくれた。
こうして、今日も一日、ゆっくりと始まる。
小さなカフェで、ひとときの幸せな朝が流れていく。