表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

居眠りのあと

カフェオレを飲み終える前に、僕は軽く目を閉じた。

昼下がりの喫茶店は、まるで時間が止まったみたいに静かで、シマの低い喉の音が心地よく響いていた。


「……寝た?」


「寝てないです。たぶん」


小野さんはカウンターの奥でコーヒー豆を挽いていた。

豆の香りと音のリズムが、なんだかラジオよりも落ち着く。


「彼女さん、心配性なの?」

「はい。でも、ちゃんと理由があるんです」


「聞こうか?」

「……聞いてくれます?」


僕は、ポツリポツリと話した。

前に倒れたことがあったこと。無理して頑張ってたら、突然意識が遠のいたこと。

それを見た彼女が、どれだけ慌てて、どれだけ怒ったか。

そして、今もことあるごとに「ちゃんと休んで」と言ってくること。


「なるほど。それで今日は、嘘ついて出てきた、と」


僕はうなずく。シマがまた、目を細めて「ニャ」と鳴いた。

もう怒られるのは確定らしい。


「でもな、」


小野さんは言った。


「たまには、ちょっとだけ“嘘”も必要なんよ。自分に、って意味で」


「……どういうことですか?」


「“大丈夫”って嘘ついて、自分に休む言い訳作る日もあっていいってこと。ほら、ここまで歩いて来て、ちゃんと一杯飲んで、猫と喋って、もう少し休んでから帰る——それで、今日一日はなんとかなるやろ?」


僕は、空になったカップを見つめる。

そこに残った、ほんのりとした温もり。

体の奥にあるムカムカが、少しずつ静かになっていく気がした。


「……また、来てもいいですか?」


「彼女さんに怒られない範囲でな」


「はい、次は正直に言って来ます」


シマが「ニャ」と鳴いた。


今度は、それが「それならいいね」って言ってるように聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ