◆2◆
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エヴリーヌの朝は早い。日が高く上る前に宮廷魔導師団へと出かけていく。しかもだ、送迎に師団長自らが馬車でポートリエ邸へとやってくる。
ジュリー・コルネイユは珍しい金色の瞳と真っすぐな銀髪の美丈夫である。伯爵家から師団長まで上り詰めた実力もさることながら、先王の御落胤との噂もある謎多き人物だ。学園に通っていた記録もなく、年齢すら不詳だ。エヴリーヌより頭一つばかり高い彼は、中性的で美しい。高身長で体格の良いマクシミリアンとは気質が異なる。
(ああいう男が好きなのか?)
この数日、目立たぬように外套で姿を覆い、こっそりとエヴリーヌの行動を追っている。
ポートリエ邸の扉が開くとコルネイユが先導し、彼に手を引かれたエヴリーヌが見て取れた。深緑の瞳を輝かせながら顔を見合わせ、時には笑い合ってさえもいる。マクシミリアンと居た時は、淑女の仮面を貼り付けていたのに。認めたくはないが、今の彼女が心からの笑顔だというのは明白だ。
今日も今日とて近い、近すぎる。仮にも婚約者が居る令嬢に、あの距離で近づくとは権力がある奴は傍若無人と言わざるを得ない。もう少し離れて歩けと遠くから呪詛のように呟く。
目の前にある樹木の枝を折りそうになるが、物音を立てては怪しまれると既の所で思いとどまる。そうこうするうちに二人が馬車へと乗り込んだ。豪奢で大きな馬車だというのに、コルネイユは先に座ったエヴリーヌの隣に陣取った。
(エヴリーヌからは断れないからと、いい気になってあんな事まで)
増々苛つくマクシミリアンを余所に、馬車は静かに滑り出していった。
◇
「オクタヴィアン殿下!」
挨拶もそこそこに第二王子の執務室へとやって来たマクシミリアンを、オクタヴィアンはちらりと見ただけですぐに手元の書類に視線を戻した。
「らしくないじゃないか、マックス。どうした」
「宮廷魔導師団に何か用事はありませんか。あれば私にお申しつけください。出来ればあちらに何日か通えるものを。コルネイユ殿は危険すぎる!」
動かしていた筆を止め、真っすぐマクシミリアンを見据えた。彼の嘆願に全てを把握した王子は、これは面白くなってきたなと小さく呟いた。その声はマクシミリアンは疎か、他の側近たちにも届いていないが。
「何故そう思う?ジュリー程の実力者は中々居ないぞ。二十四歳という若さで師団長になったのだからな。魔術で師と仰ぐには申し分ないだろう」
「そうかもしれませんが、明らかにエヴリーヌとの距離感がおかしい。近すぎるのです」
書類を整理していたジュストが手を動かしながらも、同調するように頷いた。
「確かに美しいと評判だからな。線は細いが、令嬢からの人気も高い。熱狂的な支持者が有志で応援隊なるものを作っていると聞いた事がある」
剣の手入れを続けていた、ルイの何気ない一言がマクシミリアンを地の底へと誘った。
「二人が一緒に訓練しているのを何度か見かけたが、エヴリーヌ嬢も始終笑顔だったぞ。案外ああいうのが好みだったりしてな」
「ルイ、お前。この莫迦っ」
ジュストが慌てても時すでに遅し。ふら付くマクシミリアンを椅子に座らせると、分厚い書類を手渡した。
「宮廷魔導師団の予算照会がある。かなりの量だから十日はかかるだろう。マックスに全てを任せても宜しいでしょうか、殿下」
「あぁ、構わない」
魂が抜けかけたマクシミリアンの瞳に輝きが戻る。
「お心遣い感謝いたします」
来た時と同様に慌ただしく退室するマクシミリアンの背中にオクタヴィアンが一言。
「そこまでジュリーを警戒しなくてもいいと思うぞ」
マクシミリアンは振り返ると、肩を落として頭を横に振る。
「エヴリーヌの偽りの無い笑顔を引き出したのは彼なんです。私にはできなかった」
礼をすると足早に立ち去って行った。
「ジュリーにしか引き出せない、ねぇ」
仕事に戻ったジュストとルイは、ふっと笑う主の姿を見る事は無かった。
◇
「オクタヴィアン殿下管轄、フォンテーヌ殿の代理で参ったマクシミリアン・プレオベールだ。担当に取次ぎを願いたい」
王宮内の西に位置する宮廷魔導師団へと赴き、入口で声を掛けた。眼鏡を掛けた小柄な受付嬢が書き物の手を止め此方を向いた。
「その件に関しましては副師団長が対応させていただきます。現在、師団長室に居りますので、ご案内いたしますね」
師団長と聞いて今朝のエヴリーヌとコルネイルを思い出す。こちらへどうぞと促され令嬢の後に続いた。
「プレオベール様…では貴方が噂の…」
まじまじとマクシミリアンの顔を観察すると、「漸くですか」とやっとの事で聞き取れるほどの呟きを漏らした。
元来、令嬢達から秋波を送られてきたマクシミリアンではあるが、全く異なる好奇な視線を向けられたのは初めてで思わずたじろいでしまう。
(漸く…?どういう意味なんだ)
そうこうするうちに一つの扉の前で足を止めた。中からは笑い声が聞こえていたが、令嬢は戸を叩く。
「ご歓談中失礼いたします。副師団長にお客様をお連れいたしました。予算照会の為、オクタヴィアン殿下の代理であるプレオベール様がいらっしゃいました」
中から副師団長が顔を出す。
「これはプレオベール殿、アンリ・バルテルです。わざわざ足をお運びいただき恐縮です。成程、今日はフォンテーヌ殿ではないのですね。どうぞお入りください」
「えぇ、彼の代理で参りました。宜しく頼み…」
挨拶を交わしながら入室した先にエヴリーヌを見つけ、言葉が出て来なくなる。やはりと言った感じで隣にはコルネイユが居り、二人は肩が触れ合うほど近かった。
「なっ…!」
慌てたマクシミリアンを尻目に、口角を上げながらコルネイユはエヴリーヌの肩に手を回した。
「あぁ、お客様かい。アンリ、ここを使うといいよ。私達は外で訓練してくるからさ。エヴィ、行こう」
「はい、ジュリー様」
(エヴィだと?愛称で呼んでいるのか、私だって敬称付きの名前呼びしかした事が無いのだぞ。ふざけるな!エヴリーヌもエヴリーヌだ、そんな事を許してどうする。だからエヴリーヌに男を引き合わせたくなかったんだ。それに何故こちらを見てくれないのだ。あぁ、もう!)
エヴリーヌから目が離せないマクシミリアンに対して、エヴリーヌは淑女然といった笑顔で「ごゆっくり」と言い残しコルネイユと共に部屋を後にした。
片や天下の魔導師団長を名前と愛称で呼び合う仲なのに。まるで赤の他人だと突き放されたようで、マクシミリアンは愕然とした。縋るように目で追った彼女の後ろ姿を見て、更なる衝撃が走る。
贈ってから欠かすことなく使ってくれていた紅玉の髪飾りが、彼女の髪から外されていたのに気づいたからだ。
全てを投げ出し二人の後を追いたかったが、「さぁ、始めましょうか」とバルテルに腕をがっちりと掴まれてしまい、その日の就業時間を全てそこで過ごす羽目となったのだった。
◇◇◇
「マックス、昨日はどうだった。何か進展はあったのか?」
次の日、今日も宮廷魔導師団に出向かなければならないマクシミリアンは、その前にオクタヴィアンの執務室で昨日の報告をしていた。
「予算照会に関しては順調です。当初の予定より二・三日は早まるかと」
「そっちは問題ないかな。エヴリーヌ嬢はどうだった、会えたのか?」
「それが…」
膝から崩れ落ちそうになるマクシミリアンを慣れた手つきでルイが椅子に座らせた。
………
「そんな事があったのか。何も進んでいないどころか大きく後退しているな」
改めて現実を突き付けられたマクシミリアンは俯いたまま肩を落とした。
「ジュリーは誰でも愛称で呼ぶ、アイツの癖みたいなものだから気にするだけ損というもの。大方、エヴリーヌ嬢も断れなかっただけだろう。だが記念とも言える装飾品を付けなくなったのは引っかかるな」
推理をするかのようにオクタヴィアンが顎に手を当て考え込む。
「その髪飾りはどんなものだったのだ?」
「マダム・エレーヌで用意した金の髪飾りです」
「成程、悪くない選択だな。意匠は?」
「高品質の黄金に、これ位の丸い紅玉が付いていて」
マクシミリアンは親指と人差し指で石の大きさを現した。一般的な胡桃の大きさを優に超えるそれに一同言葉を失った。
「今時そんなの誰が付けるんだ?母君、いや祖母君ですら付けないんじゃないか」
ルイが歯に衣着せぬ物言いでその場を凍り付かせた。
「何故、紅玉を選んだのですか?」
ルイの頭をはたきつつ、話を促すようにジュストが問いかける。
「…流行りと聞いたんだ。紅玉も意匠もこれがいいと…」
最早捨てられて雨に濡れそぼった子犬のように見えるマクシミリアンの前に、ジュストは一冊の本を開いて差し出した。
「一体誰にそんな嘘を吹き込まれたんだか。今、若い令嬢の間で流行っているのは小粒ながらも質の良い宝石と、こうした植物の形を取り入れた意匠のものです。あぁ、婚約者が居るのであれば、宝石は婚約者の瞳や髪の色を取り入れるのが常識です」
金や白金でできた百合や雛菊と、その中心に控えめな宝石があしらわれた繊細な意匠の宝飾品が描かれた本から目が離せなかった。
「だからな、お前が選んだのは古い!重い!その上、婚約者とは認めないって遠まわしに言ってたようなもんだ」
盾の手入れをしているルイは此方を見る事も無いのに、適格に急所を突いてきた。
「マダム・エレーヌを訪れた時に迷いに迷っていたら、居合わせたギマール前伯爵夫人が教えてくれた」
「ギマール前伯爵夫人?!あの化石のような婆さんか」
「ルイ、幾ら勝手知ったる仲だとしても殿下の御前だ。すこしは礼儀を弁えろ」
ジュストに背中を勢いよく叩かれて「ってぇ」と悪態を吐きながら鎧の手入れに移るルイ。
「そりゃぁ外されて当然だな。今まで付けてくれてたのが奇跡みたいなもんだ。大体、本人に直接好きな物聞きゃいいだろうが」
「それが出来たら苦労はしない」
消え入りそうな小さな声で反論するマクシミリアン。
「…そうだ、花を贈った事もあったんだろう?」
何とかマクシミリアンの良い所を探すようにジュストが話題を変えた。
「あぁ、花ならいつも赤のレーヌロジーヌを」
「あんな派手な薔薇をエヴリーヌ嬢が好きだと言ったのか?まぁ、この調子じゃ聞かずに勝手に送り付けたんだろうけどな」
図星過ぎてぐうの音も出ない。髪飾り同様に人から聞いた人気の花を選んだのだから。学園で子息同士が婚約者に贈る花は何が良いというのを小耳にはさんだので、先ほどの髪飾りよりは辛うじて若い令嬢の流行りに近いとは思う。だがエヴリーヌの好みなのかと言われれば自信が無い。
あぁ、本当に私はエヴリーヌの事を何も知らないんだな。
「マックス、今日は宮廷魔導師団での仕事の合間にエヴリーヌ嬢を昼食に誘え。当然ジュリーも付いて来るだろうが、そこは婚約者としての特権を使うんだ。第二王子としてお前に命令を与える。心して取り組む様に。行け!」
「御意」
足早に出ていくマクシミリアンの後ろ姿を、何とも言えない表情で見送った。
◇
朝から雨だった。まるで私の心中を表しているかのように、どんよりと昏い空が広がっていた。
副師団長バルテル殿との仕事が、今日は殊更手に付かない。
何故なら少し離れた所にある師団長の執務机では、新しい魔力の練り方についてコルネイユ殿とエヴリーヌがあれこれ楽しそうに意見を交わしているからだ。
雨だから室内で作業すると聞いて、視界の中にエヴリーヌを入れておけると喜んだのだが、これはこれで衝撃を食らってしまうとは。
「おはようございます。本日もこちらでお仕事なのですね」
エヴリーヌの方から声を掛けてくれた時は思わず頬が緩んだが、後から来たコルネイユ殿とのやり取りと比べれば先ほどのは見かけた事のある人に投げかける程度の挨拶だと嫌でも分かる。
そして案の定、二人は椅子を横に並べて肩を寄せ合い話し込む。
エヴリーヌは真剣そのもの。机に広げた魔導書から目を離さず、自身の考えを述べる。だが隣のコルネイユ殿は違う。明らかに私を挑発してくるのだ。時折此方を見ては、優越感に浸った視線を寄越す。やたらとエヴリーヌに触っているのが我慢し難い。頭を撫でたり、肩を抱いたり、手を握ったり。
(エヴリーヌには私と言う婚約者がいるんだぞ?分かっているくせにベタベタ触って、エヴリーヌが汚れてしまう!エヴリーヌもエヴリーヌだ、そんな事を許してどうする。だからエヴリーヌから男を引き離してきたというのに。あぁ、もう!)
「プレオベール殿、手が止まっていますよ。…仕方ありませんね、少し早いですが昼食にいたしましょうか。準備をさせます」
昼はエヴリーヌと一緒に、そう伝えようとしたがコルネイユ殿に遮られた。
「あぁ、アンリ。私達も一緒に頂くよ」
嫌な奴だとは思っていたが、思いもよらぬ援護に少しだけ師団長殿を見直した。
◇
「エヴィと私の皿は、いつものように少な目で、アンリ宜しく!」
「えぇ、承知しております」
葡萄酒のソースと比べると裏ごしした野菜の方が好きとか、肉より魚派だとか、私達の嗜好は似ているよねとコルネイユ殿はエヴリーヌと笑い合う。
食事の時も二人は隣で席も近い。しかもエヴリーヌの正面はバルテル殿。私と言えばエヴリーヌの斜向かい、しかも遠めだ。明らかに仕組まれてると言っていいだろう。
話し掛けようとしても必ずコルネイユ殿が邪魔をする。まぁ茶々を入れられなくても、エヴリーヌは此方を見ようともしない。
「エヴィ、もうお腹一杯かな?」
慣れた手つきでエヴリーヌの口を自身の布巾で拭き取った。
「ジュリー様、子ども扱いしないでくださいとあれほど」
「いいじゃない、減るものではないんだし。私からしたらエヴィは可愛い教え子だから子どもみたいなものさ。あぁ、プレオベール殿、何か言いかけてましたがどうしました?」
「…いえ、なんでもありません」
やはりコイツは嫌な奴だ。
◇
「ジュリーがねぇ、なかなか手強いな」
あくる日の朝、オクタヴィアンの執務室にて、昨日の出来事を報告した。
「殿下、面白がってますよね。俺もですけど」
剣の手入れをしながら、悪びれもせずにニカっと歯を見せるルイ。
「お二人とも、手加減してあげてください。そろそろマクシミリアンが消えて無くなります」
マクシミリアンに椅子を勧めて、温かな紅茶を差し出すジュストは気配りが凄い。こんな男だったらエヴリーヌとの仲も拗れる事は無かったのだろうなと、半ば自嘲気味に乾いた笑いを漏らす。
「そもそもポートリエ家に直接行って侯爵と会って話し合いはしたんだよな?それとも門前払いか?」
マクシミリアンは思わず立ち上がった。その拍子にガタンと椅子が音を立てた。
「おいおい、この様子だと行って無いぞ。これで殿下の側近や次期宰相補佐とか務まるのか?」
片手剣を鞘に納めるとルイは首を竦めた。
「居ても立っても居られなくなって、早朝にポートリエ邸に着いてしまって。そうしたら丁度エヴリーヌがコルネイユ殿と出てきたので、慌てて後をつけたから」
「付きまといギリギリの行為だな、それ」
からからと笑うルイを視線で諫めながら、ジュストは首を傾げた。
「しかし不可解だ。最近のエヴリーヌ嬢は余りにもマクシミリアンに対してよそよそしくはないか?彼女は誰にでも分け隔てなく接する聖女の様だったじゃないか。書類を持って行った時もそうだ、あの日は顔を合わせた時間も短かく気に留めてなかったが。だが昨日は共に昼食まで摂っているというのに、何というかまるで他人のようではないか?」
「そうなんだ、初めは態と目を合わせてくれないのかと思ったんだが、そもそも視界に入らないというか、まるで興味が無いようで…」
自分で言っていて悲しくなってきたマクシミリアンは頭を抱えてしまった。
「何か変わった事はないのか?些細な事でも構わない。突如として魔力を得た以外でだ」
「あーー!」
いきなり大声を上げたマクシミリアンに三者三様に反応する。
「まだまだ戦えそうだな、マックス」
「他にも何か思いだしたのでしょうね」
「ついにおかしくなったか、っるせぇ」
わなわなと震えながら、両手で髪を掻き乱した。
「少し前に倒れたと知らせがあり、見舞いの花を贈った。数日後に意識が戻ったと聞き、取り急ぎ手紙を」
「つまり見舞いにも行って無い…と」
流石のオクタヴィアンも額に手を当て呆れている。
「その時に愛想尽かされたんだな」
「ルイ、話をややこしくするなら黙っていてください」
いつものルイとジュストの軽口も、この時ばかりはマクシミリアンに重く伸し掛かる。
「諦めるのはまだ早いですよ、マクシミリアン。倒れたのを境にエヴリーヌ嬢は魔力を得て、貴方への態度も変わったと考えると辻褄が合う」
はっと此方を見たマクシミリアンの顔には一縷の望みが浮かんでいた。
「そう、鍵はポートリエ侯爵家にあるはずだ。土下座してでも侯爵に会うのです。エヴリーヌ嬢と話がしたいと。貴方たち二人は圧倒的に会話が足りなすぎる」
「分かった、行って来る」
力強く頷き駆け抜けていった。
「侯爵へマックスが訪ねる事を伝えておいてくれ、私の署名でね」
「殿下もお優しいですね」
「そうでもない、この状況を楽しんでいるしね」
ハハっと笑うオクタヴィアンに全くですとルイも笑顔で賛同する。そんな二人に呆れ溜息を吐くジュストだった。
◇
「エヴリーヌ、魔法はどうだい?熱心なのもいいが、詰め込み過ぎてないかい?」
家族四人で朝食を食べながらポートリエ侯爵が心配そうに眉尻を下げた。
「いえ、毎日がとても楽しいのです。お父様やお母様、お兄様やポートリエ家を支えてくれる皆の事を思い出せないのは心苦しいのですが」
「急がないでいい、いつか思い出すはずさ。例え忘れたままだとしても、これから思い出を沢山作っていけば良いのだから」
「えぇ、そうですよ。今までの事は貴女の分まで私達が覚えていますからね」
主菜を口に運びながらシャルルが自分の事のように得意気に笑った。
「騎士団の方まで我が妹の噂が広まっているぞ。画期的な魔法を編み出したらしいね。今までは両極にある魔法同士は重ね掛け出来ないのが常識だったが、エヴリーヌの手法を使えば可能になったって。魔導師達の魔力消費を抑えられ、時間も短縮。前衛で戦う騎士も防御と攻撃どちらの援護も付与できる。魔獣との戦い方も変わるだろう、王国の士気が上がったと評判だ」
「宮廷魔導師団の方と意見を出し合ってそこまで辿り着けたのであって、私だけがという訳ではありません。それでもどなたかのお力になれたなら嬉しいです。もっと色々試してみたい事があって、ジュリー様と試行錯誤できるなんて、畏れ多くもありますが充実した日々を過ごさせていただいております」
「そうか、コルネイユ殿にお願いして良かった。改めて礼をしておかねばな」
「ありがとうございます、是非そうしてください」
家族団らんの時間を満喫していたその時、家令が足早にやって来て、侯爵に文を差し出した。
「旦那様、オクタヴィアン殿下より早馬が」
第二王子の紋章が型押しされたそれの封を手早く開け、中身を確認する。
「招かれざる客が来るぞ」
幾らかも経たぬうちに来客の旨を知らせる従者がやって来た。
「構わん、いくらでも待たせておけ。さぁ、皆。ゆっくり準備にとりかかろうか」
全3話です。次で最後なので最後までみていただけたら嬉しいです!