097話 ジジイへの恩返し
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内心では尾行がバレているのではないかと不安になっているが、意外にもこちらに気付く様子はないレインズ。
淡々と人気の少ない路地を進んで行く。
こんな場所にどんな用事があるのだろうか。
迷う様子が一切ない事から慣れた道のりなのは確かだ。
狭い路地を抜けた先に一軒の古びた小屋の様な建物が見える。
レインズは小屋の中へと入っていった。
どうやら目的の場所はここだったようだ。
私達も小屋に近付いて中の様子を観察する。
「おい、ジジイ。まだくたばってないよな」
「人の事をジジイと呼ぶなと何度言えば分かる。ゴホォッゴホ・・・」
「無理すんなよ、ジジイ。ただでさえ、体悪いんだから。今日も飯作ってやるからそれまで寝とけ。って言っても、卵粥だけどな」
「またそれか。もうすぐ死ぬかもしれんと言うのに毎日粥ばかりとは悲しいな」
「縁起でもないかと言うなクソジジイ。ちゃんと食って明日も明後日も生きてもらわないと困るぜ。まだ教わらないといけない事あるんだからよ」
「クソを付けるなぁ!ゴホォッ!!!」
「だから騒ぐなっての!」
これがレインズの居場所なのだとすぐに分かった。
何度か会った時には見た事のないくらい柔らかい表情をしている。
それくらい大切な存在なのだろう。
口ではどれだけキツイ事を言おうとも、溢れ出す気遣いが印象をガラリと変える。
この光景を見るまでは、仲間を狙った事が許せなかった。
それは勿論今も変わらない。
変わらないが、もしも同じ立場なら私だって同じ事をしたかも知れないと思えて来た。
「おい、レインズ」
「どうしたジジイ。俺は手が空いてないからワガママは聞かねーぜ?」
普段の振る舞いから想像出来ない程手際良く調理器具を扱うレインズが、料理をしながら背中越しに話を聞く。
「俺はもうすぐ死ぬ。明日か、長くても明後日か。だからな・・・「ちょっと待てや、ジジイ。何勝手なこと言ってんだよッ!どっかどう見ても元気そうじゃねーか」
唐突な師匠のカミングアウトに動揺が隠せないレインズ。
料理中の手をピタッと止めて、振り返る。
「いや、分かるんだよ」
「何が分かるんだよッ!知ってるか?ジジイが死にそうなのはリキテッドが毒を盛ってたせいなんだぜ?薬と言って渡されたのが毒だったんだ!だからよ、解毒薬!そうッ!解毒薬さえあれば、ジジイだって!」
「毒を盛られていたのは知ってる。俺が自ら飲んだからな」
「・・・はぁ?嘘だろ・・・、どうしてだよ。嘘だって言えよ・・・」
今まで助けようとしていた人物がまさか自ら毒を飲んでいるとは誰も思わない。
信じたくないという一心で強く肩を揺らす。
どれだけ強く否定しても事実は変わらない。
本人が1番理解しているはずだ。
「理由は言えん。でも、1つ言えるのは毒がどうこうは関係なしに遅かれ早かれ死んでたんだ俺は」
「意味が分かんねーよ!もっとちゃんと説明しろよ!」
「寿命だ。もう長くないんだよ。自分の体だから良く分かる」
「リキテッドか?アイツにそう言えって言われたのか?」
「違う。違うんだ、レインズ」
「何が違うのか分かんねぇーよッ!」
見るからに興奮状態だ。
事実を否定する以外に心を落ち着ける方法がない様子。
このセンシティブな問題を盗み見ている自分に罪悪感すら感じて来た。
ここまで見てしまったけれど、気配を消したまま立ち去るのが最善の選択な気かも知れない。
「死ぬって言ってんのよ。アンタの師匠は」
何故だろう。
先程まで隣にいたはずのミラが、小屋の中にまで入ってレインズに一言物申しているように見える。
ううん、勘違いだよね。そうだそうだと思いながら、ゆっくり横を見るとやはりミラの姿が無かった。
つまりは勘違いではないということになる。
弱気な一面を見せたと思ったら、今度は強心臓な一面も見せてくれるから彼女は面白い。
なんて馬鹿な事を考えていないで、大事になる前にミラを回収しなければ。
「なっ!?なんだよ!どこから湧いて出て来た!?」
師匠のカミングアウトとは別の驚き。
まさか他人に盗み聞きされているとは。
そして、盗み聞きしている奴が自ら姿を見せて、説教し出すとは。
どう考えてたっておかしい話だ。
「ちゃんとしないさいよ!明日、明後日もなんて事言ってる間に言いたい事言えなくなるかも知れないのよ!」
「だから、これは毒なんだって言ってんだろ!この俺が直接リキテッドから聞いたんだ。間違いないんだよ!」
ここまで来ると可哀想にも思えてくる。
心の拠り所がない辛さは私も分かってあげられるから。
・・・同情、なんてものは彼もされたくないだろう。
だけど、少しでも気が晴れたらと思い1つの提案をする。
「もしも毒だけなら治す方法はある」
「本当か!?本当なのか!?」
今度は私の肩を強く掴むレインズ。
治せるものなら治して欲しいという気持ちが強く、今のレインズには疑うという感情が湧いてこない。
藁にもすがる思いと言う言葉を形容するならまさにこんな状況だろうなと思う。
「・・・、これ」
大事に大事にしまっていたミレニアム草。
士郎から貰った大事な花。
人から貰った物を早速使ってしまうのは如何なものかと出すかどうか迷ったが、目の前にここまで困っている人間がいて出さない訳にもいかない。
それがいくら他人でも、あの顔を見せられたら尚更。
「そ、それはミレニアム草か?そんな高価な物、俺に使おうとするんじゃない!本当にどちらにせよ寿命で・・・」
「お願いだ、クソジジイを救ってくれ」
ミレニアム草を眺めて手放すのが惜しくなってしまう前に渡す。
そのままでは飲み込むのも辛いだろうから、作りかけの粥に混ぜて。
レインズの師匠もここまでされて食べない訳にはいかない。
黙ってひたすら粥を頬張った。
食事中、レインズの師匠も顔色が晴れる事はない。
「ありがとう、・・・本当にありがとうございます。俺、絶対にこの恩は忘れねぇーから」
これで助かると思っているレインズは額を地面に擦り付けて感謝を述べる。
だけど、レインズ以外の全員が思った。
毒というよりは年齢で衰え始めた体はそれなり年齢を意味している。
自らが言うように本当に寿命で死ぬ可能性は多いにあるだろう。
後はどれだけレインズが受け止められるかそれだけだ。
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