095話 白司録神奈という女
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私は今まで頭が良いと言われて来た。
確かに全国共通テストは上位だったし、高校1年の時点で高校3年分の勉強は終わっていた。
だけど、自分自身を頭が良いとは思わない。
常に満点を取り続ける訳ではないし、私にだって知らないこともある。
勿論知らないことへの探究心が人より強いのは確かだが、それ以上でもそれ以下でもないと思う。
だけど、周りからすれば気に食わないらしい。
「白司録さんって何考えてるか分からないよね」
偶然忘れ物をした私が教室へ取りに戻ると、同じクラスの女子生徒が放課後に残って会話をしていた。
最初は可愛らしい愚痴から始まり、次第に悪口へ。
本人が聞いていないと思って好き放題言ってくれる。
聞くに耐えなくなった私は、そのまま忘れ物を回収することすらせずに逃げ出した。
後日、40代の女性である担任に相談すると面倒事を持って来たなと嫌な顔。
頼れる大人が多くなかった私は一抹の不安を抱えながらも相談を続ける。
最後まで聞いた担任はため息混じりに答えた。
「確かに悪口を言うのは悪いことだけど、見えない所で言った訳だから配慮はしてたと思うわよー。それにねぇー。・・・そのー、担任だからすごく言いづらいんだけどね」
外から見ても分かるくらい度の強い眼鏡の位置を無駄に直しながら、歯切れが悪くも続けて話し始めた。
「愛想がないのよ、白司録さん。笑顔もないし、返して来る言葉も短い。それに白司録さんから話を振って来る訳でもないんでしょ?それじゃあ仕方ないわよ」
仕方がない。
そんな言葉で片付けて良いものか。
傷付いたのに、何故か責めらているのは私だ。
・・・私がいけないのかな。大勢の人がそう言うならそうなのかも知れない。
・・・きっとそうなんだ。
ただ私は運が良い方だった。
妬み嫉みの対象にこそなったが、誰も近寄ろうとはしない。
イジメられることもなかった。
みんな空気の一部の様に私を扱うだけ。・・・それだけ。
最初は心が痛む程辛かったが、徐々にその痛みさえも感じなくなってしまった。
元々、1人だったのだと思えば良い。
学校なんて狭い世界で1人だからと言って気にする必要はない。
きっといつか広い世界に出て、私という存在を理解してくれる人が現れるから。
───
「カンナ?どうしたの?ぼーっとしてたけど」
「大丈夫、少し考え事してた」
「疲れているなら言ってね。頼りにしているんだから倒れられたら困るよ」
ミラが優しく声を掛けてくれる。
昔の忘れたい記憶を思い出している暇はない。
今は私の役割に集中すべきだ。
大役も大役を任させれている。
失敗すれば今後の計画に大きな支障が来たす。
それだけは避けなければならない。
「安心して必ず成功させる」
目の前には奴隷を売っている店がある。
ここで隷属の首輪を入手するのが私に任された最大のミッションだ。
失敗してはいけないという緊張感もあるが先に進まないと話にならない。
1歩前へ進んで頑丈に閉ざされた鉄の扉を両手で持ち、目一杯力を入れながら開ける。
中は埃の舞っている不衛生な環境で、所々に置いてある蝋燭の薄明かりだけが辺りを照らしていた。
不気味といえば不気味なのだがこの程度では驚かなくなってしまった自分の順応性が恐ろしい。
歩くたびに見える檻の数々。
中には人間族だけではなく、獣人族、亜人族、エルフ族と多種多様な種族がいた。
これだけの種族を奴隷にするのは流石にまずいのではないだろうか。
あの戦争の引き金を引いてしまう可能性だって十分にある。
「おやおや、お客様ですか?最近は奴隷を持つ者も増え来て来ましたねぇー」
アニメの様な三日月型の髭が特徴的な中年男性がニヤニヤという気持ち悪い笑みを浮かべて奥からやって来た。
女性2人でやって来たから鼻の下を伸ばしているのだろう。
「欲しいのは奴隷ではなくて、隷属の首輪。奴隷商なら持っているはず」
隷属の首輪という言葉を聞いて、男は一瞬表情を曇らせる。
しかし、相手も商売のプロだ。
金になる話かも知れないと踏んでまだ態度は崩さないでいる。
「隷属の首輪など持っているはずもありませんよー」
「面倒な駆け引きはなし。単刀直入にいくら欲しいか言って」
「・・・面白いですね。確かに隷属の首輪は持っていますが、売り物じゃないんですよ。これは奴隷商の暗黙の了解で、隷属の首輪は打ってはいけないっていう決まりがあるからなんです」
「暗黙の了解ということはダメと言われている訳ではないってこと。いくらで売ってくれるの」
「ふむふむ、強気の交渉ですか」
髭を触りながら考える素振りを見せているが、実際に考えているかは怪しい。
隷属の首輪が欲しい人間なんて山程いるはずだ。
実際、頼みに来た人間だっていると思う。
それも1人、2人ではなく何人も。
「1億ゴールド、それだけあればお渡ししてあげましょう」
なるほど、最初は無理な金額から提示するらしい。
これでスッと払えるのは余程の金持ちしかいないのは、相手も分かっているはず。
払えなければそのまま帰るだけなのか。
いや、違うはずだ。
相手だってお金は欲しい。
ここで簡単に金蔓を逃すのか。
「無理なら帰ってもらっても構わないですよ」
「カンナ、どうするの?ここに隷属の首輪があるのは分かったんだから多少強引にでも」
「いや、任せて」
男は余裕な笑みで椅子に腰を据えて、返答を待っていた。
渡す価値があるならそれで良し、ないなら帰ってもらうだけ。
完全に主権を握っているのは彼だ。
「出せる金額は100万ゴールド。それだけ」
「ふっ、話になりませんね。そんな端金をもらっても何も嬉しくないですよ」
確かに1億ゴールドと100万ゴールドでは比較にはならない。
彼が話にならないというのも頷ける。
ただ、まだ私には切れるカードがある。
私の1番の武器をここで。
「勿論、それだけじゃない。億を簡単に稼げる私の知識をあげる」
「ほぉー、面白い。この私を唸らせることが出来たら、隷属の首輪をあげましょう」
私の探究心は今この瞬間の為にあった。
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