073話 余裕と慢心
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室内に用意された時計が残り5分でブロックの予選が始まることを示している頃、控室に立っているのはたった10人だけだった。
ここまで減った段階でようやく部屋の中は静かに。
床に転がった挑戦者達を尻目に食事をする者までいる。
まるで最初からこの10人だけしかいなかったかのようだ。
「後、5分かー!そろそろウォーミングアップを始めないとなー」
不健康な程に華奢な体、あり得ない程に長い手足、顔が隠れる長さの髪。
本当に戦えるのか不安になる男が見た目に反した陽気さで体を動かし始めた。
部屋に入った時にマークした3人の内の1人だ。
ふざけた感じを出しているが、馬鹿でも分かる強者のオーラを放っている。
周りを威嚇しているだけなのか、それとも誰にも負けないという自信家か。
どちらにせよ、無駄に争いたくはない相手だ。
「1、2、3、4、5、6、7、8、9。そんで俺も含めて10人かぁー。1対1の勝ち上がりだと、ちっとばっかし多いか」
指を指しながら残った人数を1人1人確認して、意味深な言葉を残す。
その場にいた何人かが武器を構える。
言いたいことが分からない程の馬鹿はいないようだ。
「おいおい、そんなに警戒するこたぁないだろー。2人だけ雑魚排除するってだけのことじゃねーか」
2人というのが誰を指しているのかは分からないが、簡単に言えば今から暴れるぞと言っている。
折角、落ち着いた雰囲気になりつつあったのに、またしても空気がひりつく。
「そこまでにしとけよ。ここが本番じゃあるまいし」
横に座っていたレインズが腰を上げて、止めに入る。
残り時間は3分でこの仲裁はこの場にいる全員にとって有り難かった。
もしかするとこの死神のような見た目の男の標的が自分であるかもしれないと恐怖で震える必要もなくなる。
「なんだぁ?もう勝者になったつもりか?随分と余裕があるもんだなー。ケッケッ」
「そうだけど?勝つのは俺って決まってる。だから、いちいちはしゃぐなって言ってんだよ、ガキじゃあるまいし。それともお前あれか?まだお母さんの乳でも飲んでんのか?」
「・・・コロス」
酒場でも見た人を的確に苛立たせる言葉選びに乗ってしまった死神男。
ブツブツと何かを唱え始めて攻撃をしようとしている。
だけど、明らかに詠唱が長すぎる。
レインズは疎かここにいる誰もがその詠唱を止められるだろう。
大口を叩いた割にその強さだったのかと内心驚く。
隙があるのに見す見す逃すはずもなく、顔面に向けてレインズの拳が飛んでいく。
「ふっ、お前がイキれる理由はこれか」
拳は最後まで届かない。
レインズと死神男の間に隔たる見えない壁がそこにはあった。
「スキル【結界】。その熟練度によって耐久性が増す。俺の【結界】はかなりのレベルだ!その調子に乗っている笑顔もいつまで続くか見物だな!」
無言で殴り続けるレインズ。
拳からは少しずつ血が出ている。
それでも殴り続ける光景は狂気を感じた。
硬い結界。
壊れる様子はまだない。
あのレインズの力を持ってしても、素手ではスキルに打ち勝てないか。
観衆がそう思った矢先、
「な、何ッ!無敵の【結界】が!たかが素手如きに!」
少しヒビが入った。
どうやらレインズは、人間の領域をとっくに超えているようだ。
死神男の余裕そうだった表情が崩れる。
ただ、詠唱はここで終わり。
後はレインズに目掛けてスキルを発動させるだけ。
「そこまで!」
スーツを着た女性が止めに入る。
恐らく彼女はこの闘技場のスタッフなのだろう。
しかし、そのスタッフの言葉を聞いてもまだ2人は止まらない。
「時間になりました。進行に問題が出るので、止まらないなら両者失格にしますよ」
「・・・、命救われたな」
「ケッ。こっちのセリフだ。後少しで俺の力で消し炭にしてやるところだったんだけどな」
こんな狭い部屋の中で激しいスキルのぶつかり合いが始まったら、この場にいる全員が確実に巻き込まれる。
そうなれば、試合に出場するどころか明日が来るかどうかも怪しい。
「Aブロックは10人ですか。2人組が5組ですね。10秒ほどお待ちください。現在Aブロックのトーナメント表を作成中です」
長い30分を耐え切った今、10秒なんていう時間はあってない様なものだ。
気付けば10秒は過ぎていて、待機室に設置されたモニターに電源が入る。
短い時間で決まったトーナメン表。
レインズとは順当に行けば、ブロックの決勝で当たる形になるようだ。
ブロックのトーナメントが終われば、次はブロック毎の優勝者が真の勝者を決める為にまたトーナメンと行う様だ。
そう考えるとレインズと同じブロックなのは運が悪い。
出来れば、最終トーナメントの決勝で当たるのが最も望ましかった。
その方が少しでも経験を積んだ状態で戦えたのに。
「それではAブロック1回戦を始めます。シロー、デスエピは案内に従って準備を始めてください」
デスエピという男は誰なのかと思っていたら、争いの渦中にいた死神男が前に出てきた。
心の中で1番嫌だと思っていた人物と当たるとは運がない。
同じブロックの人間から注目を浴びるのはまず間違いないだろう。
そうなれば、勝っても負けても損をしてしまう。
決められた対戦相手を変えることが出来る訳もなく、渋々移動を始めた。
横には明らかに機嫌の悪そうなデスエピ。
レインズとの争いをお預けされてしまったのだから仕方ない。
では、その苛立ちがどこにぶつけられるのか。
答えは1つ、今から対戦する俺だ。
手加減しろとは言わないが、初戦から120パーセントの力を出してくる敵が相手なのは骨が折れる。
「それでは両者位置について」
自然の土が敷かれているフィールドで、離れた位置で向かい合う。
盛り上がった観客席から聞こえる歓声が見られている事を強く認識させる。
「試合ッ!開始ーーー!!!」
初の試合はこうして始まった。
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