070話 高過ぎる壁の登り方
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場所をギルドに併設されている訓練場に移した。
両者淡々と進められいく準備。
相手が元S級という称号があるからなのか空気がいつも以上にひりついている。
仲間がこの戦いを見守る中、ミラの合図で静かに始まった。
エアトラルは戦闘になった途端、隠していた威圧感を全面に押し出す。
今までにも何度か肌で感じた強者特有の相手を萎縮させる空気。
これは確かにS級と言われて頷けるが、彼女からしてみれば本気の1%にも満たないものだろう。
瞬きをするのも躊躇う程、油断出来ない。
1つのミスや驕りが命取りになるのは観戦しているみんなでさえ気付いている。
ハンデはいらないと思っていたが、想像よりも遥かに高い壁にぶち当たっているようだ。
だけど、弱音を吐く暇はない。
確実にたった一撃を当てる為、死力を尽くさなければ。
「どうした?最初の威勢だけは立派だけど、全然攻めてこないね。こんな老ぼれに恐れをなしたのかい?そんなんじゃいつまで経っても剣は届かないよ」
攻撃が来ないと思ったエアトラルは呑気に2本目のタバコを吸い始めた。
指先から小さな炎を生み出してタバコに火を付けようとしている。
この油断しているタイミングが攻めどきだ。
ここを逃せば後はない。
身体能力が上昇している事を肌で感じながら白転黒爆を振りかざす。
「相手の見せた隙に反応するのは良い事だが、こんなあからさまなのは罠に決まってるだろ。知恵が足りないね、知恵が」
攻撃が届く範囲内。
確実に捉えたと思った。
だが、それは勘違いに過ぎない。
エアトラルはたった2本の指で白転黒爆を受け止めた。
こちらがどれだけ力を込めようともビクともしない。
たった2本の指でそんなことが出来るのか。
ふーっとタバコの煙を吹き掛けられ、視界が奪われた。
ここは一旦、武器を手放して、距離を離し魔法で。
「考えてることが丸わかりだ。剣に入れている力が弱くなってことは武器を捨てて距離を取る選択を選ぶつもりだね」
完全に読まれている。
読まれてはいるが、だからと言ってどうにか出来る訳でもあるまい。
距離が取れたら、また体勢を立て直して仕切り直しだ。
白転黒爆を失ったとしても、予備の短剣と銃が残っている。
スキルもある事を考えると攻めようはいくらでも。
一歩引いた瞬間、エアトラルも動き出す。
彼女は吸っていたタバコを投げる。
狙いが逸れる事なく一直線で俺の額に。
タバコ自体は怖くないが、ここは異世界だ。
どんな攻撃に派生するか分からない。
防ごうにもまだ武器はどちらも腰に付けたホルダーの中。
取るにしても僅かな隙が生まれる。
たった1秒、2秒でも致命的だというのは言うまでもない。
ならば魔法スキルでタバコも吹き飛ばして、攻撃にも転じる。
一石二鳥の案があるじゃないか。
「【光魔法】"ライトニング・・・」
「魔法スキルを使う時、発動する魔法を見過ぎだね。そうしないと魔力を一点に集中させられないなら、そこも改善点だよ」
速いッ!懐に潜り込まれた!
今まで速い敵は何人も見て来たが、エアトラルは動く事すら悟らせない。
気付けばもう目の前にいる。
この距離は流石に手も足も出ない。
だけど、最後に足掻くくらいは。
「やめときな。その腰に付けた武器ではアタシに攻撃は当たらないよ」
「それはやってみないと分からない!」
銃を取り出して、最速で引き金を引く。
放たれる衝撃波。
毎回威力が強過ぎてのけぞるのが弱点だが、今はそんな事を気にしている暇はない。
どうか当たっていてくれと願うがエアトラルの言葉の通り、攻撃は軽く躱される。
「参りました」
エアトラルが指を突き付ける。
これ以上は無意味な足掻きだ。
そんな事をするよりも今の戦いで浮き彫りとなった改善点を、どうにかする方が優先度は高い。
「言いたいことが分かったかい?その力はアンタでは持て余している。どこでそんな力を手に入れたのかは分からないけど、力に頼り切った戦い方は身を滅ぼすことになる」
「耳が痛い話です。大きくなったつもりでしたが、気付かない間に慢心していたのかもしれません」
「そこまで卑下することはない。今でも十分戦えてはいるからね。それ以上に強くなれるポテンシャルがあるってだけの話だよ」
「フォローまで欠かさないとはかなりの人徳者ですね」
「褒めても稽古は楽にならないよ」
手合わせを終えるとここから先は本格的な訓練になる。
ただ、エアトラルは1人しかいない為、どうやって全員に稽古を付けるのか懐疑的だった。
一人一人の課題は違うので、まとめて指導というのも難しいだろう。
だからと言って、1人1人見て回るとなるとで効率が悪くなるのは言うまでもない。
「じゃあ始めるよ。【分身】」
そんな懸念は意味が無かったようでエアトラルが5人に増えた。
それぞれ分身したエアトラルに連れられて散らばって訓練が始まる。
「で、俺はまず何から始めたら良いですか?」
早く特訓がしたくて堪らない俺は率先して内容を聞く。
「それじゃあ、これを積んでもらおうかな」
見せられたのは何の変哲もない小石。
見ただけでも100個ぐらいはありそうだ。
「え?本当にこれを積むだけですか?」
もっと直接的な稽古を付けてくれるのかと思っていたので拍子抜けしてしまう。
こんなことで強くなれるのか。
疑いたい気持ちもあるがエアトラルの実力が本物なだけあって、信じるしかないのが辛いとことだ。
「積むだけとは簡単に言うね。100個積むには相当な集中力が必要なのよ」
「これで何が鍛えられるのかだけでも聞いて良いですか?」
「それを考えるのも特訓の内よ」
この内容ならわざわざ分身を付ける必要性はない。
それにそもそもこんな内容が達成出来るはずもないだろ。
物理の法則を無視でもしない限りは、こんな規則性のない形をした大小バラバラの石を積み上げるのは不可能なのだから。
ここまでは文句ばかり出て来たが、これ以上文句を言っても終わりは来ない。
こちらから指導を頼んでいる立場ということもあって大人しく石を積み始めた。
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