042話 幸運のギャンブラー
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真夜中だと言うのにも関わらず俺は眠れずにいた。
隣にはベリーが寝ているという状況があまりにも不自然過ぎる。
最初は何とか意識しないようにして寝なければと思っていたが、次第にそれも諦めた。
「ちょっと外へ出るか」
散歩をして少し体を動かせば、その内疲れて眠くなるだろう。
そんな安直な考えで、こんな真夜中に外へ出た。
宿の扉を音が鳴らない様にゆっくりと開け、音に細心の注意を払う。
そして、一歩外へ出ると意外にも街は昼と変わらないくらいの活気がある。
こんな深夜にも影響している店があるのかと、辺りを見渡すが近辺の店はやはり明かりは付いていなかった。
代わりにこの街で1番目立つ施設は、昼間に見た時以上の輝きを見せ思わず足を運びたくなる。
ただ、明日の事を考えると夜更かしはしていられない。
軽く散歩するだけと決めたのだから、その意志は曲げないでいよう。
「お金少ないのに来てしまった・・・」
歩き始めて10分。
そのつもりは無かったが、気付けば俺も客の1人になり掛けていた。
所持金は1000円。
これだけでは余りにも軍資金として流石に少な過ぎる。
だから、諦めて帰ろう。
それ以外に選択肢はない。
「ようこそ、お越しいただきました。ここは夢と希望を掴む賭場"ゴールドクライシス"。ごゆっくりお楽しみください」
中へ入った途端に挨拶をしてくるスタッフの女性。
どうやら俺は、またしても気付けばゴールドクライシスの中へと入っていた様だ。
しかし、問題無いどうせ負けても1000円の損しかしない。
なら、一夜だけの遊びとして興じるのも悪くない話だろう。
それに俺には少しの秘策を持っている。
もしも、この秘策が上手く作用するのであれば、たった1日で億万長者も夢ではない。
まぁ、睡眠に関しては徹夜で起きてた事なんて夏休み中いくらでもあったし大丈夫だろう。
10時間後の自分に後は任せる事にした。
玄関ホールにいたピンクの髪に黒いスーツを着た女性のスタッフに連れられてエレベーターホールへ。
そして、そこから説明が始まった。
「お客様に当施設のご案内をさせていただきます。まず、この施設には大きく分けて3つの目的でご利用していた抱くことが出来ます。1つは飲食フロア。こちらは一階になりますのでエレベーターホールを出て、左に真っ直ぐ進んでいただくと到着いたします」
どうやら飲食店もこの中に含まれている様だ。
昼間の街にも人が少なかった理由も頷ける。
「2つ目はショッピングコーナーでございます。武器屋から魔導具、服や奴隷まで全てこちらで揃える事が可能です。ただし、ここでの買い物は全てゴールドをこの施設内だけの通貨"メタル"に交換していただきご利用していただきますのでご了承ください。尚、メタルは退館後にゴールドへ換金出来ますのでご安心ください。ただいま説明致しましたショッピングコーナーは2階となっております」
一度施設内でしか利用出来ない通貨に換金する辺りがきちんと考えられているのを感じさせる。
この世界の法律には詳しくないが何かしらの取り決めに違反しない様にしているのだろう。
それよりも気になる事が1つある。
買える物に含まれていた奴隷についてだ。
いくら日本の常識とは異なる異世界とは言え、奴隷制度が街で許されているのは非道徳的ではないだろうか。
「奴隷というのはどこへ行っても認められている物なのですか?」
「そんな事はありませんよ。多種多様な文化のあるので、一部の国では奴隷制度を嫌う場もあります。しかし、それも稀な例ですね。大半の国は奴隷制度を解禁していますよ」
言葉が出なかった。
彼女が言うには奴隷が許されていて、寧ろ当たり前らしい。
俺はアニメや漫画で登場する主人公に拾われて救われるタイプの主人公ばかり見ているが、恐らく実際はそんな甘い話はない。
生きている人の数だけ考え方がある。
奴隷を人間として扱ってくれる人もいれば、ただの物としてしか見ない人もいるだろう。
救われない奴隷がいると考えると胸が痛むばかりだ。
「そして、メインとなるのが賭博場ですね。こちらは説明するには多すぎ程の種類を用意しておりますので、実際に体験して頂くのが1番かと思います。ただ、コースが2つに分かれていまして、一発逆転・修羅の道コースと泰然自若・凪の道コースがございます」
「軽く説明してもらっても良いですか?」
「えぇ、もちろん。修羅の道コースは勝った時に得られるメタルは多いですが、その分負けた時に失うメタルも多いです。ただ、賭け金に上限も下限も無いのでいくらでもお好きな様に賭けていただければと思います。凪の道コースは倍率こそ低いものの賭け金以上リスクは一切無し。ただ、賭け金は最低100万Gからとなっておりますのでご注意を」
ここまでは一連の説明か。
賭場で遊びたいけれど、今の俺が選べるのは修羅の道コースだけだな。
ただ、話を聞いていると負ければ大きな借金を抱えそうで怖い。
軽い気持ちで行くには少し気が重い気がする。
いや、俺には秘策が残っているのだから、怖がる必要はない。
「修羅の道コースで」
「かしこまりました。それでは地下のご案内となりますので、エレベーターにお乗りください」
どうやら案内係は付いてくる訳ではなく、ここで見送り形らしい。
既に行き先の指定されたエレベーターに1人で乗り込む。
エレベーターが正常に動き出す。
誰もいない1人の時間が緊張を煽る。
1階降りるだけにしては長い移動が終わり扉が開くと、そこにはこの時間にも関わらず大勢の人で溢れ返っていた。
しかも、その殆どは格好から察するに貧困層の人間だろう。
「嫌だ!待ってくれ!俺はまだ戦える!」
「悪いがお前の借金は1億Gを超えた。言わなくても分かるが男に奴隷の需要はない。だから、ウチでの永久雇用が決まったんだ」
「嘘だ!俺はあの地獄へ行きたくない!誰か助けてくれ!100万、いや、10万Gで良い」
目の前で破産した男がスタッフに抱えられてどこかへ連れて行かれる。
口では必死に抵抗しているが、まともな食事を摂れず痩せ細った体では抵抗は意味が無かった。
そして、助けられた周りの人間もこれが当たり前の光景だと言わんばかりに素通りしていく。
いや、もしも見慣れていなかったとしても見ず知らずの人間に簡単にお金を渡せる程裕福な人間はここにはいないだろう。
俺は心の中で同情しながらも適当にゲームを選び始めた。
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