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 シュティはあんな勢いまがいの言葉でも約束を果たしたようで、その日のうちに現在の神殿の代表とも言うべき大神官がわざわざレイシアたちのもとを訪れた。

 儀式についての日程は後日手紙を介して決めることとなった。

 そして、悩みの種の一つ解決したその週末、ラナベルはレイシアとともにお忍びで街に出ていた。


 今日と明日は街が賑わいを見せる豊穣祭だ。

 所狭しと並ぶ露店からは豊穣を祝うためとばかりに料理が大盤振る舞いされていて、いい匂いがあたりに充満していた。

 大人が笑い、子どもたちが駆け回る広場を眺めながら、ラナベルの頬がふんわりと緩む。

 そして、ふと隣に立つレイシアを見た。


(急に誘われたときは驚いたけど、来て良かった……)


 護衛もいらないからと言われて二人で来てしまったが、本当に大丈夫だろうか。

 狩猟大会では明確に襲われたばかりだ。グオンはきっと影で見ているのだろうが、それでもなにかあったらと心配してしまう。


「なにか気になるものでもあったか?」

「いえ……子どもたちが元気だなと思いまして」

「今日と明日は祝い事だしな。これだけ派手に飾り付けられて大人も浮き足立っていると、子どもも浮かれるんだろう」


 そう言って子どもたちの姿を追うレイシアの目も、いつもより柔らかく見えた。

 二人で並んで露店を見て行くが、豊穣を祝うとあって食べ物が多い。

 たまたま通りかかった店主から味見用の串焼きを強引にいただいた。

 店主はほかにも道行く人に配って歩いて、あの勢いで渡していて利益は大丈夫なのかと勝手に心配してしまう。

 レイシアもいるため露店での飲食は控えるつもりだったが、わざわざ戻しに行くのも気が引ける。


(なにかあれば巻き戻りましょう)


 ラナベルは自分が毒味として先に一口食べてから「美味しいですよ」とレイシアに差しだした。

 こういったものに馴染みはないのか、レイシアは少し躊躇っていたようだが、そろそろとラナベルの差し出す串にかぶりつく。


「うまい」

「お肉が柔らかいですよね……野菜もほくほくしていて素材の味わいがいいです」


 気に入ったのなら一本買ってみましょうか?


 訊いてみると、レイシアの目がふと露店で焼かれている串を見た。その眼差しがどこかキラキラして見えて、ラナベルはクスクス笑いながら店主に声をかける。


「すみません。このお肉と野菜のものを一本ずついただけますか?」


 味見の小さい串の倍はある長いものが渡される。そうしてラナベルは、肉の刺さったほうをレイシアへ渡した。

 大きな口でもぐもぐ食べる姿がわんぱくで可愛らしい。

 微笑ましく見るラナベルの視線に、彼はこそばゆそうに唇をへの字にしてみせた。


「……こども扱いしてるだろ」

「そんなことありませんよ。レイは食べ盛りなんですからたくさん食べてください」


 と、目についた鮮やかな飴細工を見つけて「次はあそこに行ってみましょうか?」と声をかけると、こくりと頷きながら後ろをついてくる。


「どうぞ見て行ってください! ご要望をいただければその形をそのまま作ってご覧にいれます」


 細い棒の先についた小ぶりのものから、大きなケースに入った物までさまざまな色や形をした美しい飴たちがズラリと並んでいる。

 飴細工は繊細な職人技術によって成り立っている。その希少性もあり、ほかの露店に比べればだいぶ値が張るものだ。

 けれど、そんななかでも意外と手に取っていく人が多い。

 祭りということもあって奮発しているのかと思っていると、不意に店主が声をかけてきた。


「最近じゃ飴細工を神さまへの供物として捧げる方も多くてね。ありがたいことに結構人気なんですよ」


 なるほど。たしかにこれだけ美しいのだから供え物としてはピッタリだろう。


(お供え物、か……)


 ラナベルはふと花の形をした細工に目を落とした。

 半透明の花弁は外側に行くにつれて色を濃くして赤く染まっている。陽光の反射でキラキラと光る様子がまた美しい。


(……シエルが見たら喜んだでしょうね)


 きっとこの花に負けないほど輝いた目で見て深い笑みを現したはずだ。

 温かい気持ちでシエルを思い出せることに喜びと淋しさを感じつつ、ラナベルは店主を呼び止めた。


「これを一ついただけますか?」

「はい。ただいまお包みしますね」


 店主が作業する傍ら、ピタリと横に張りついたレイシアがこっそり訊ねてくる。


「買うのか?」

「はい。……妹が、喜びそうだと思いまして」

「……そうか」


 考えこむように黙ったレイシアも、不意にじっと見ていた一つの飴細工を指さして店主に包むように頼んだ。

 もしや……と、ラナベルが驚いていると、深紅の目が不意に柔らかい温かみを見せた。


「俺も兄上に買っていこうと思う。せっかくだしな」

「きっとお喜びになると思います」

「……お前の妹も、きっと喜ぶ」


 見つめ合って微笑み、二人はひどく穏やかな気持ちで店を後にした。

 昼を過ぎた通りはさらに人が増え、広場ではなにやら始まった催し物のせいで身動きが難しくなる。


「レイ、少し広場から離れましょうか? ――レイ?」


 ――殿下?


 口の中で呟いたラナベルが不審に思って振り返ると、そこに白髪の秀麗な男はいなかった。


「殿――レイ?」


 呼びかけてもそれらしい声は返ってこない。

 人混みをどうにか探し回るが、あの特徴的な容貌は全く見かけられない。いつの間にかはぐれてしまったようだ。

 不安になったラナベルがキョロキョロと見渡していると、ふと背後からだれかがぶつかったようで前のめりになった。

 上手く足が出せずに倒れ込みそうになったとき、不意にしっかりとした身体に抱き留められる。


「レイ、良かった――えっ」


 いつの日か階段で落ちかけたときのことを思いだし、ついレイシアだと思い込んで顔を上げたが、そのフードに隠れた男の顔に驚愕する。


「ナシアス殿下……?」


 レイシアよりもサラサラと流れる癖のない白金色の髪は今日も輝かしい。

 王妃と同じ色の瞳が、ラナベルと同じように驚きで瞬いた。


「ラナベル嬢……?」

 


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