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 泣き出したアメリーを落ち着けようとラナベルは手を伸ばした。しかし、それをすり抜けるようにしてアメリーはレイシアの足元で膝をつく。


「お願いします殿下! お嬢様はなにも罪など犯してはいません!」

「アメリー様、殿下から離れてください」

「昔から心の優しい方です! 規律を破ったのも全て私のせいなのです! 罰ならば私に与えてください!」


 すかさず間に入ったグオンが窘める。が、アメリーは治まらない。

 致し方ないとグオンが彼女の身体を押しやろうとするのを咄嗟にレイシアが止めた。しかし、なんて声をかけたらいいか迷った様子で、彼は助けを求めるようにラナベルを見る。

 アメリーの叫びで固まっていたラナベルは、そこでようやく正気に返った。


「アメリー落ち着いてちょうだい」


 そっとアメリーの肩を支えて引き下がらせる。すると、涙に濡れた瞳が今度はラナベルへと向けられた。


「申し訳ありませんお嬢様……私が未熟だったから……全て私のせいでこんなことになってしまって……!」


 すみません、すみません――もうそれしか言えなくなったアメリーの膝から力が抜け、支えていたラナベルも引きずられるように一緒に膝をつく。


「せっかくお嬢様が幸せになれるのに……愚かだった私のせいで……!」


 謝罪の合間に聞こえた言葉が。自分へと向けられる幸福への祈りが、ラナベルの心を激しく衝いた。嬉しさで胸が震え、一方で騙している罪悪感で締めつけられる。

 ラナベルの膝に顔をうずめるようにして頭を下げたアメリーの背中を、ラナベルは泣きそうになるのを堪えながらなで続けた。


 ◆ ◆ ◆


 やっと涙も落ち着いた頃、ひくひくとしゃくり上げながらアメリーが顔を上げた。


「も、申し訳ありません……こんなふうに取り乱して……」

「いいのよアメリー。むしろ、そんなふうにずっと気にしてくれていたなんて気づかずごめんなさい。あなたのせいだなんてことは絶対にないから落ち着いて」


 そうっと優しく言うと、それが沁みたのかアメリーの瞳が再び潤み始めた。

 これはいけない、と慌てる。咄嗟に周囲を見渡し、扉の隙間から窺っていたリリーたちを見つけた。きっとアメリーの声で心配してやって来たのだろう。


「リリー、水場まで付き添ってあげてくれる?」

「は、はい、お嬢様! ――アメリーさん、行きましょう」

「テトたちはカップの片付けをお願い」

「はい!」


 アメリーを託して彼女たちの背中を見送ると、室内の三人はやっと人心地ついた。


「申し訳ありません。殿下の前であのような失態をお見せしまして……」

「いや、頭を下げることはない。彼女がラナベルを思うがゆえだろう……咎めることじゃない」

「ありがとうございます」


 言いながら向かいのソファに再び腰を下ろす。

 部屋にはどこか重い沈黙が横たわっていた。レイシアの後ろで控えるグオンの目が、気にしたようにレイシアとラナベルを見比べた。


(……説明をしないといけないわよね)


 あれだけのアメリーの動揺を見せ、そして現に神殿に行けずに異例の対応をされて迷惑をかけている。

 説明責任があるのは十分に理解していたが、あの雨の日の出来事を思い出すだけで胸が塞がれるような思いになる。

 口を開いたが、声を忘れてしまったように息しか漏れない。

 そうして躊躇っているうちに、レイシアがおずおずと訊ねてきた。


「……過去に一体なにがあったんだ? 貴族たちはみんな口を揃えて言う。聖女とまで言われた奇跡の少女が、私欲に走って家族も祝福も失ったと」


 赤い瞳がラナベルをチラリと見た。


「協力を持ちかける前に、もちろんセインルージュ家のことは調べた。けれど、ある日お前が治療の役目を放棄したとしか分からなかった。その後すぐに妹が死に、ラナベル――お前は権能を失ったとされている」


 レイシアは、ラナベルがなんの理由もなく放棄するとは考えにくいと、そう言ってくれた。そして、その原因がアメリーなのかと問いかけられたとき、それまで身を固くしていたラナベルは反射的に強く首を振る。


「アメリーのせいではありません! ……あれは、私が自分自身で決めて実行したことです」

「では、神殿での役目を放棄したのは本当なのか?」


 疑うような赤い目に、ラナベルは渇いた口でどうにか「はい」と頷いて答えた。

 そして、ふと深い碧眼の瞳が思い出すように遠くを見た。ゆっくりと瞼が落ち、震えた睫毛の影が白い頬に影を落とす。

 閉じた瞼の裏で、ラナベルは過去に思いを馳せた。

 治療に――誰かを救うことに生きがいを感じていたあの頃。

 子ども心に責任感と誇りを持っていた輝かしい日々のこと。そして、ある日アメリーからもたらされた告発。

 まず思い出されるのは、人目を忍んでラナベルの寝室を訪れたアメリーが、深く頭を下げて懇願する姿だった。


 ――お願いしますお嬢様。家族を助けてください。


 耳の奥に蘇る哀願の声を聞き届け、ラナベルはそろりと開いた瞳でレイシアを見返した。


「全てお話しします。あの日、なぜ私はあんなことをしたのか……なぜ、神さまに見放されたのか」



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