表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/40

新治の提案

お読みいただき、ありがとうございます!

「わたしの能力(スキル)、【星眼の巫女(ステラ・シーカー)】って言ってね。ちょっと特殊みたいなんだ」


 猟師小屋で水を飲んで落ち着くと、新治はぽつぽつと話し出した。破れたブラウスの上からは、ピンクのカーディガンを羽織っている。なかなか用意のいいことである。

 零仁もまた小屋の隅に座り、無言の相槌で先を促す。


等級(ランク)最下位級(ローエンド)だったんだけど……。転移者の人がいる場所、頭の中で分かるの。異世界の人とか魔物も、ぼんやりと」


「えっ、それ……結構ヤバい能力(ヤツ)じゃ……?」


 バルサザール曰く、零仁たちが降り立ったこのハイエルラント王国は現在、内乱の真っ只中らしい。その上でバルサザールが出してきた提案が、衣食住と引き換えに転移者としての能力を生かして戦場に立つこと――すなわち傭兵だったのだ。

 今の言葉を信じるならば、新治は厄介な転移者や伏兵、暗殺者をノーリスクで検知できるレーダー役になれる。これが中世レベルの戦乱においてどれほどの影響を及ぼすかは、なんとなく想像がつく。


「バルサザールさんもそう思ったのかもね。祓川くんが追放された後にやった能力(スキル)の実演測定の後、わたしだけ砦の部屋に呼ばれたの」


 新治はそこで言葉を切ると、わずかに顔をうつむけた。


「バルサザールさん、最初は貴女の力は我が軍を救う、とか言ってたんだけど。お酒飲んでるうちに、いきなり身体を触ってきてね。もうっ、なんでわたしなんか……」


新治(こいつ)……。自分が男からどう見られるか、自覚ねえんだろうなあ)


 先ほどわずかに見えた、豊かな双丘を思い起こす。分厚い丸眼鏡のおかげで目立たないが、よく見ると顔立ちも整っている部類だ。

 考えている間に、新治は続けて口を開いた。


「気づいたらお酒の瓶で殴り倒しちゃってて……マズい、って思ってさ。食料とか水とか地図とか持てるだけ持って、夜明け前に出入りする商人さんたちに紛れて逃げてきたの」


「……新治って、結構アクティブなのな」


「しっ、仕方ないじゃないっ! 本気で嫌だったんだからっ! ……けど能力(スキル)で追手が来るの分かっても、わたし運動音痴だから。なんとかあそこまで逃げてきたんだけど捕まって、さっきの通り」


「その運動音痴でもここまで来れる、ってことは……。ここ、あの砦からあまり離れてないのか?」


 零仁の質問に、新治はきょとんとした表情を向けた。


「えっ……。多分だけど、ダリア砦から2、3kmくらいの場所だよ……?」


「マ、マジか……」


 新治の言葉に、思わず天を仰いだ。

 結構な距離を歩いたと思ったのだが、大して歩いていなかったらしい。日暮れ時や森という地形も相まってのことだろうが、昨日の自分がどれほど追い詰められていたか、改めて実感する。

 新治は革水筒の水をもう一口飲むと、零仁をひたと見つめた。


「さっきと同じ質問しちゃうけど……あの変な紋様、なに? 祓川(ふつがわ)くん、能力(スキル)使えないんじゃなかったの?」


「多分だけど、俺の能力(スキル)だ。どうやら、死にそうになった転移者を吸収できるらしい。それも能力(スキル)ごと」


「ええっ⁉ 宍戸くんの【影潜り(シャドウ・ダイバー)】は使ってるの見たけど……。本橋くんの【目眩の閃光(デイズ・フラッシュ)】も?」


「まだ使ってないけど、多分な。なんか変な映像も一瞬見えたから、記憶も少しだけ見れるんだと思う」


「なんか祓川くんのほうが、よっぽどすごくない……? ていうか今から砦に戻って、そのこと話せばいいんじゃ……」


「……そのつもりはねえよ。あのハゲは元より、もう級友(あいつら)を同じ人間だとは思えねえ。なんなら能力(こいつ)を使って、一発かましてやりたいくらいだ」


 新治の言葉を喰って、きっぱりと言い放つ。あれだけの屈辱と絶望を味合わせてくれた相手に媚を売る気など、さらさらない。

 新治は一瞬、どぎまぎしていた様子だった。が、やがて意を決した表情で口を開く。


「じゃあさ……。わたしと一緒に、行かない?」


 無言で見返すと、新治は焦ったように言葉を続ける。


「ほ、ほらっ、わたし水も食料も地図も持ってるよ! さっきみたいな事があった以上、クラスのみんなだって信用できないし。わたし、本当に運動できないからさ。追手が来ても、祓川くんが守ってくれれば安心だから……」


「俺ひとりなら、追手なんぞ来ないわけだが? ってか……」


 頬を紅潮させて言い募る新治を、力を込めて見つめる。


「俺の能力(スキル)の話を聞いて……俺に殺される、とは思わないのか?」


 実際、先ほどから考えていた選択肢だった。

 新治とて昨日、黙って見ていた者たちの一人である。殺すことに躊躇はない。能力(スキル)は便利だが、【遺灰喰らい(アッシズ・イーター)】で吸収してしまえばいい話だ。なにより二人より一人のほうが、食い物が少なくて済む。

 新治は目を伏せてため息をつくと、ふたたび零仁を見た。


「それも考えた。だからね、もうひとつ取引材料があるの」


「材料……?」


「そう! クラスみんなと、バルサザールさんの部下たちの能力(スキル)の情報! 昨日の実演ずっと見てたから能力(スキル)の名前はもちろん、効果もぜ~んぶ覚えてるよ」


「……ほう」


「さすがにこれは吸収できないでしょ? 【星眼の巫女(ステラ・シーカー)】は能力(スキル)の名前しか分からないんだけど、わたしなら誰が来るか一発で分かるっ!」


「ふむ……」


「はい、ここで問題です。貴重な能力を持った女の子が逃げました。追手をかけましたが戻ってきません。さて、追手をかけた側は次に何をするでしょう?」


 得意げな新治の顔から目を逸らして、考える。

 問いの答えは簡単だ。まず間違いなく、次の追手を差し向ける。それも体よくコキ使える傭兵である、知った顔の級友(だれか)を。

 先ほど新治は、宍戸と本橋の能力(スキル)を淀みなく答えてみせた。効果まで覚えているというのも、嘘ではないのだろう。


(追手の級友(やつら)を狩れば、俺はさらに強くなれる。新治(こいつ)能力(スキル)と知識は欲しいし、手元に置いておけば結果的にあのハゲへの意趣返しにもなる……。悪くねえな。裏切ると感じたら、その時に吸収しちまえばいいだけの話だ)


 逸らしていた目を、新治に向けた。


「いいだろう。その提案、乗ろう」


「……ありがとう! よろしくね」


「ただし、絶対に嘘はつくな。もし俺をハメたら……敵より先に、お前を殺す」


 新治は少しだけ緊張した表情を見せたが、すぐにしっかりと頷いた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

お気に召しましたら、続きもぜひ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ