求むるは”人”
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村の防衛を終えた後に零仁たちを待っていたのは、戦の後始末だった。
旧王派の援兵たちの手も借りて諸々を終えた頃には、はや太陽は天頂にあった。
カークスに呼ばれた零仁と新治が領主館に戻ると、ちょうどカークスが糸目眼鏡たちと顔を合わせている。
「お初にお目にかかります。グランス公爵麾下、光護隊所属……クルト・クロイツァーです。参じるのが遅くなりましたこと、ご容赦ください」
そう言って糸目眼鏡もとい、クルトが右の拳を胸に当てる形の礼式を取る。
このハイエルラント王国における、武家の正当な礼式らしい。
「同じく、ミルメイアです。メイアとお呼びください」
そう言って進み出たのは、クルトの後ろに控えていた女性だった。
年頃はクルトと同じくらいだろう。長い栗色の髪をポニーテールにした美人である。クルトと同じく鈍色の軍服らしき服だが、弓兵用の胸当をしているところが違っている。
(この女……。あのすげえ矢の弓兵か)
「アウザーグ領主、【燐光の抗剣】、カークス・ヴァン・フュッテラーである。援兵、心より感謝する」
カークスも二人の礼に合わせて、右の拳を胸に当てて返礼した。
「しかし、まさかあの光護隊が来てくれるとは。グランス公の直属部隊ではないか」
「いやぁ~……本当を言うと、我々しか動ける者がいなかったんです」
カークスの言葉に、クルトはバツが悪そうに頭を掻く。
「偵察その他諸々を兼ねて、もう少しまとまった人数で来たかったんですけどねぇ。なにぶん急だったのと、前線が忙しいのとで……」
クルトはそう言うと、零仁たちを見た。
その表情は、話題を変えるのにちょうど良いと言わんばかりだ。
「……で、そちらの方々は? 転移者のようでしたけど」
「【遺灰喰らい】、レイジ・フツガワ」
能力の名を二つ名とする慣例に合わせて、軽く頭を下げる。
指名手配犯が堂々と挨拶するのもどうかと思ったが、すでに顔を見られている以上、気にしたところで意味がない。
「テラ・ニイハル……。【星眼の巫女】、です」
隣の新治も、すぐに前に出てぺこりと頭を下げた。
それを見たクルトは、糸目はそのままに微笑む。
「ご丁寧にどうも……といっても、お二人のことは手配書で知ってましたけどね。まさかこんな街道沿いの村にいるとは思いませんでしたけど」
「……ッ!」
「ああ、売り飛ばすような真似はしないのでご安心を」
身構えた零仁を見ると、クルトはわざとらしく両手を振ってみせた。
「バルサザールとは敵対関係ですし、我が主も『あのハゲダイショウがこんな法外な金積んで探すヤツらなら、オレの軍に欲しいわっ!』って言ってましたから」
クルトはくつくつと笑った後、カークスのほうに向きなおる。
「で、今後のことなんですが……。領主殿におかれましては、どのようになさるおつもりで?」
「貴殿らのおかげで、敵方の先手を討つことができた。こうなったからにはバルサザールが一枚噛んでいるとしても、そう易々と介入はできないと思うが」
クルトの言葉に、カークスが怪訝そうな顔で答える。
事が始まる前の見立てでは、村を占拠した野盗もとい傭兵たちを討つ名目で、他の領主が介入してくる予想だった。
その野盗役を討った以上、他の領主は介入できないはずだ。
「……残念ながら、それはないでしょう」
しかしクルトは笑みを絶やさぬまま、首を横に振った。
「なぜだ?」
「昨今、バルサザールはある探し物をしているようでしてねぇ。自身の領地の外にも、手勢を送って捜索しています。……ねえ、星眼の巫女さん?」
クルトの糸目で見つめられた新治が、びくりと身体を震わせる。
「わたしのせい、ですか……?」
「はい。逃げ散った傭兵から話は伝わるでしょうし、探し物を匿っていたとなればタダでは置かないでしょうね」
「ってことは俺たちが出ていけば、この村は安全なのか?」
「どうでしょう……この村、街道近くで行軍の補給地にはうってつけですから。ついでに接収するくらいのことは考えていたであろうと、我が主は仰せでした」
「それを見越していたところに、私からの文が届いたというわけか」
「はい。ですが我々が来た理由は、この村ではありません」
「なんだと? 新王派の勢力圏に、足場を作るためではないのか?」
「トリーシャ河上流のボレア砦が、新王派に奪られてますから。危険を冒してまで、トリーシャ以東に足場を作る必要はない……というのが、我が主のお考えです」
「この村に戦略的な価値を見出していないなら、なぜ公爵は貴殿らを遣わしたのか? 今は戦時、昔の誼や人情だけで兵を動かすことはできまい」
カークスはますます意図を汲み取りかねる、といった体だ。
そんなカークスに対して、クルトはふたたび例の礼式を取った。
「我が主が求めるのは、”地”ではなく”人”……。カークス殿、あなた様に旗主として馳せ参じていただけることを望んでおられます」
「なっ……! そんな……っ!」
その言葉を聞いた瞬間、カークスが不意を打たれた表情になった。
「もちろん、村の方々もご一緒に。島西部の開拓で人手が足りてませんで……。ここほど豊かではないですが、食いっぱぐれはないと思いますよ」
「公爵はこの村を……我らが皆で拓き育ててきた、この村をッ! 棄てろと申されるのかッ!」
「バルサザールは王都の貴族たちと通じています。指名手配犯を匿った科で反逆者の烙印を押すなど、造作もないはず。もしそうなれば、嬉々として手勢を送り込んでくるでしょう」
珍しく激したカークスを前に、クルトは表情を変えずに言葉を返す。
「私とメイアの手勢が合わせて二十。精兵ではありますが、強行軍のための軽装です。正規の騎士団を相手取って戦うには、いささか無理があります。門があの状態では立て籠もることもできませんし、物資も保ちますまい」
「それは、そうだが……」
逡巡するカークスの顔を見て、零仁はわずかに思考を巡らせた後に口を開いた。
「カークスさん、村を棄ててもいいんじゃないすか?」
「レイジくん、君まで……!」
「俺たちが出てって解決するなら、すぐにでも出ていきます。けど今の話だと、どのみち奴らは来るんですよね。そうなったら村の人たちはどうなります?」
「……ッ」
「そのグランスって人……カークスさんと村の人たちを助けるために、この人たちを寄越したんでしょ? だったら手伝いますよ。旧王派に貸しを作れるなら、俺としても渡りに船だ」
すると、隣で沈黙を保っていた新治も進み出る。
「わたしは、自分の能力が嫌いです。けど……お世話になった方々を守れるなら、お手伝いします」
「テラくん……」
脇でやり取りを見ていたクルトとメイアが、ここぞとばかりに恭しく跪いた。
「”民あっての国家、民あっての我ら”。これを伝えればカークス殿は必ず動いてくださると、我が主は仰せでした。これだけの村、無闇に打ち壊すことはしないでしょう。どうか、ご決断を」
カークスは口惜し気な表情で目を伏せていたが、意を決したように顔を上げた。
「……分かった、村を棄てる。明日の払暁とともに発とう」
「カークスさん……!」
「レイジくん、村の者たちを領主館前に集めてくれ。私から話す」
「はいっ!」
零仁はカークスの言葉を村の者たちに伝えるべく、領主館を飛び出した。




