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これは私たちが出会った日のこと。

4月から就職という22歳の3月だった。



衝撃を受けた時に人はよく、雷が落ちたと表現することがある。

けど、それは、


星が降ってきた


ように私は感じた。



そろそろ春が訪れるが、夜はまだ冷え込む。

3月の夜、薄手の上着で家を出たらひんやりとした空気が体を震わす。

しかし帰る気も起きず、公園で空を見上げた。


すると星が降ってきた。


いや、正確にはジャングルジムから、ひらりと男が舞い降りてきた。

しかしその人は夜なのに、まるで星のように輝いていた。


「こんな夜中に一人で公園は危ないぞ」

私の目の前に降りた彼はへらへらと笑う。


月を背後に立っているので、影になっていて顔はよく見えない。

しかしスラリと伸びた手足はモデルのようだ。

そして何より月の光でも分かる明るいハイトーンカラーの髪がキラキラして星みたいなのだ。


「あなたみたいなのに絡まれますもんね」

しょうもないことが原因だが、やさぐれている最中だったので、思わず強気に返してしまった。


しかし本当にやばい奴だったらどうしよう。

刺されたり、殴られたりしないよね?

少し不安になって、じりじりと後ずさる。


すると彼は突然大声で笑い出した。

「ははっ!この俺を捕まえて不審者扱いか!」

そこでぐっと顔を近づけて

「俺に会えただけで涙する人が大勢いるんだぞ」


間近で見た彼の顔は恐ろしく整っていた。

白い肌にすっと通った鼻筋、切れ長の美しい瞳。

というか、この顔どっかで…


「ラキ?」

ぽろりと言葉が溢れ、慌てて、さんとつける。


「なんだ、知ってんじゃん」

まぁ俺のこと知らない女子いないだろうけどと自信満々に付け足す。

その言葉に反射的に眉を顰めてしまったが、たしかに事実だろう。


この人は今をときめくアイドルグループ、Heavenの圧倒的センター。

天野羅希なのだから。


アイドルよりバンド派で、あんまり興味がない私でも、その名と顔は知っているくらいあちこちの雑誌やポスター、CM、ドラマ、音楽番組、バラエティーに引っ張りだこだ。


そんな超人気アイドルで多忙を極める彼がなぜこんな公園に。


「もっと驚けよ、膝から崩れ落ちろよ」

羅希は舌打ちすると地面から何か拾い上げる。そして、それをん、と私に突き出す。

「あ」

慌ててケータイを見ると、そこに付いているはずのキーホルダーがない。


そして目の前に突き出されたものが、まさしくそれだ。

「ありがとうございます、落としたんですね」

手を差し出し、受け取ろうとする。


しかしその手を彼は引っ込める。

は?という顔で彼を見上げてしまう。

「そう、上から見てたら、落ちるのが見えたから」

「はい、それは親切にどうも」

もう一回手を差し出すと


「freakのファンなのか?」

キーホルダーを見つめ、彼が言う。

それは私の大好きなバンドのライブキーホルダーである。

黒地に白でバンド名が書かれたシンプルなものだ。


「そうです」

「ふーん、俺、こないだ音楽番組で共演した」

「あ、見ました!」

正確にはfreakのところだけを見た。

けど出演者欄にHeavenも載っていた気がする。


「お前気にくわねぇな。freakだとテンション上がるのかよ」

「なんか、すいません」

もちろん羅希に会ったことは驚きだが、freakに会っていたらこの比ではないレベルの驚きで気絶していたかもしれない。


「あ、サインもらってもいいですか?それか写真か。自慢になると思うので」

お願いしますと頭を下げると、

「おっまえ、おちょくってんのか!失礼だろ!」

睨まれて小さくなる。


たしかにミーハーで失礼だっかも。

「すいません、じゃあ網膜に焼き付けておきます」

「許せねぇ、俺をコケにしやがって」

コケにしたつもりはなかったのだが、彼の肩がブルブルと震えている。


「お前、俺に会ったこと誰にも言うなよ。この公園までファンにはられたらたまんねー」

「それもそうですね。わかりました、心に留めておきます」

素直にそう言うと、羅希は顔をしかめた。


「くそ、胸くそ悪いな。俺と会話できた奇跡に感謝しろ」

そう言い捨てると、キーホルダーを私に向かって放り投げる。


必死で手を伸ばしそれを掴む。

「大事なもんなら、もう落とすんじゃねぇぞ」

最後につぶやくと、彼は去って行った。



今思えば、顔バレの危険もあるのに、私の落とし物をわざわざ拾ってくれた彼は偉そうにしながらも間違いなく優しい男だった。


その2ヶ月後、仕事で彼と再会することになったのである。



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