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第8話 異世界暮らしと守り神

「さぁ、早速だけど朝の日課をはじめよう。まずは井戸の水を汲むところからだね。」


「そっか、やっぱりファンタジー世界の水源は井戸なんだな。そりゃ水道なんてないから、当たり前か。」


早速、教わった通りに井戸の底に釣瓶を落としてみる。この井戸は滑車が付いているタイプなので、引き上げるのも幾らか楽だ。湧き水で満たされた鉄のバケツを、溢れないよう慎重に手繰り寄せる。


「一応他にも川から水を汲んだり、水の魔法を使ったり、都市部では雨水を溜めた貯水槽を使ったりもするけど…ここは田舎だし、何より『大地の恵みを』感じられるからね。」


バケツを受け取ったレイラは、水を運搬用のバケツに移し替える。そしてその水を、家の側にある1本の木へと運びだした。


「…これが、昨日食べさせてくれた『季節リンゴ』の木か。」


虹色の果実を沢山実らせた不思議な木を見て、俺は改めて『自分が異世界に転生した』事を実感させられる。


「この木に水をやるんだよな?」


「それだけじゃないよ。ほら、遠くにある巨大な樹木が見えるかい?」


レイラが指差した先には、一瞬山と見間違える程に巨大な木が聳え立っていた。


「なッ…、なんだあの馬鹿デカい木は!?」


「あれは『世界樹』と言って、この世界の『守り神』の1つさ。そしてこの国では毎朝、守り神たる世界樹に祈りを捧げる風習があるんだ。

まぁラルダが居た世界で言うと、食事前に『いただきます』って挨拶するぐらいの、フランクで文化的なモノなんだけどね。


祈りを捧げる手順は簡単。世界樹が見える角度で何らかの植物の根元に、手で水を掬ってかける。そして、手を合わせてお祈りをするんだ。」


そう言いながら、レイラはバケツの中の水を両手で掬い、季節リンゴの根にかけてみせた。

その後、彼女は目を瞑って手を合わせ、心の中で祈りを捧げる。その時の彼女は、いつもの明るい雰囲気ではなく、静寂さとお淑やかさを醸し出していた。この『朝の日課』に対しては、レイラはかなり真剣らしい。


「はい、今度はラルダの番。」


促された俺はレイラに倣って、異世界の守り神への祈りを捧げる。木の根元に水をかけ、両手を合わせて祈る。この世界での第二の人生が上手くいきますように、という願掛けもついでにやってみる。

そして祈りを終えた俺は、ふと気になった事を口にした。


「世界樹って、具体的にはどう言った神様なんだ?植物の神様って事は、『豊穣を司る神様』とかか?」


「ご明察。この国の野菜や果物が美味しいのは、全て世界樹の賜物なのさ。だから畑仕事や果樹園を営む農家は、神たる大樹への祈りと感謝を欠かさない。

そして…かつて魔王討伐に挑む『勇者』に、世界を救う力を貸した神の一柱さ。」


レイラはとても穏やかな口調で、されど真剣な眼差しで話してくれた。

勇者と魔王…如何にもファンタジー世界といった歴史じゃないか。


「とは言っても、800年も前の話さ。今じゃ歴史というより、半分御伽話みたいに語り継がれてるね。」


「その勇者って、どんな人なんだ?伝説の剣を、大岩から引き抜いたりしたのか?」


「ん〜、一言で言うなら…。

『彼の者は異邦の世界より来たりし』って所かな?どの文献にも、この一文は絶対入ってるね。」


え?

異邦の世界?


「勇者って異世界人だったの!?」


「ひょっとしたら、ラルダと面識がある人かもね〜。」


レイラは一瞬、普段の明るい口調に戻った。が、すぐに真面目な表情になる。


「この勇者伝説も、ボクが異世界を研究したいと思った一つの理由だね。

大体の人は、勇者自身の活躍とか栄光ばっかりに興味を持つ。でもボクは、勇者が故郷である異世界で、どういった生活をしてたのかに興味を持ったんだ。」


レイラはそう言って立ち上がる。


「よし、後は今朝使う分の水を改めて汲み直そう。顔を洗ったり、朝食に使う分の水だね。


そしてその後は…ラルダお待ちかねの『魔女の修行』だ!」


いつもの明るい口調に戻って、レイラはバケツを運び出す。


「待って、それは俺が運ぶよ。」


世話になってる身なので、手伝える事は手伝った方が良いだろう。


「お、ならお任せしよう!と言っても、どうせ追加で水を汲むから2人で運ぶ事になるけどね。」


「それでも良いよ。」


そのまま井戸に向かい、2人で水を運び出した。

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