第7話 ラルダの異世界生活
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窓から差し込む眩い朝日で、俺は目を覚ます。
昨晩、用意された寝室に案内された俺は疲れのあまり、さっさとベッドに横たわり眠ってしまっていた。
俺は仰向けに寝そべったまま、マットレスを軽く叩いてみる。改めて確かめるとマットレスの弾力も十分で、現代社会で販売されてるベッドと遜色ない寝心地だ。異世界と聞くと真っ先に中世ヨーロッパ時代風の世界が思い浮かぶが、生活水準は当時のヨーロッパより高いのかもしれない。
(さて、そろそろ起きるか。)
俺は上体を起こす。すると、双肩に掛かる重量が大幅に増した。原因は胸部ではち切れんばかりの大きさで実り、その柔らかさとハリのある弾力で激しく自己主張する乳房だ。
この世界にもちゃんと下着は存在しており、昨日レイラに(強制的に)着させられたブラもしたままだ。その支えが存在してもなお、十分過ぎる重みを感じさせるのだ。
(こ、これ…。改めて考えるとどれぐらいデカいんだ…?)
女性とは縁のない前世だったのでほぼ憶測だが、DやEカップでは収まらないだろう…。この胸部でたわわに実った2つの果実が、今後の異世界生活のお供になるのか…。乳房の下部を手で支えながら、そんな事を考えてしまった。
(いやいや、そんな事より身支度が優先だ!)
俺は「もっと自分の乳を揉みたい!」という欲望を強引に抑え込み、ベッドから立ち上がる。
その後、部屋中を見渡してみる。ベッドの他に用意されたのは机、椅子、本棚。机の上には小さなノートと万年筆。懐中時計に小さなランプ。それと、全身が映る鏡だ。そしてその姿見の側には、折り畳んだ洋服と紙が置かれていた。
『今日のお洋服です。きっとラルダちゃんに似合うと思うよ♪
それと、着替えたら階段を降りてきてください。『この世界での生活』について色々教えます。』
置き手紙を読み終えた後、用意された服を確認してみる。真っ黒で丈が短い、ノースリーブのワンピース。同じく真っ黒な魔女の帽子。それとご丁寧に薄紫色の、替えの下着まで用意してくれていた。
(こ、これを身に着けるのか…//)
今の自分はエルフの少女とはいえ、心は生前と変わらぬ男のままだ。抵抗感は拭えない…。
だが、下着を着用せずに服を着るなど論外だ。そのまま着ると服と肌が擦れて痛いだろうし、衛生的にも良くない。それに、パンツはまだしもブラジャーを付けない場合、肩への負担は増大するだろう。しかも聞いた話だと、サイズの合ってない物を着けたり、全く着けなかったりすると、次第に胸が垂れてくるらしい。想像するだけで痛ましい光景だ…。
意を決して今着ている服を全て脱ぎ、先ずは下着を身に付ける。パンツはすんなり履けるが…問題は上半身の下着だ。
「よっ…。マズい、首と手が攣る…!」
鏡に背中を向けつつ、身体を捻って背後を確認する。中々ホックが引っかからない。身体を捻るのはやめて、自分の直感に頼ることにした。
チックタックと懐中時計の針が時を刻む中、俺は延々と女性物の下着と格闘する。肩甲骨の中間部に両手を伸ばすなど、今まで経験した事がない。ホックをかける場所が、見つかりそうで見つからない。物凄くもどかしい…!
10分ぐらい経過した後、漸くホックが引っかかってくれた。費やした時間を少しでも取り戻すべく速やかにワンピースを着て、鏡で自分の姿を確認する。
「…これが、俺?」
鏡に映るのは、まるでゲームや絵本から出てきた『魔女』だった。身体を覆う真っ黒なワンピース。それとは対照的な、きめ細かで白く細い腕。裾からすらりと伸びる足もまた白く、魔女の黒い服と優雅なコントラストを演出していた。
否、手足だけでは無い。用意されたワンピースは、胸元の谷間が若干露出するタイプの代物だった。布の中に押し込められた発育良好な果実が、息苦しさを紛らわすように身を乗り出しているようだった。
「…」
鏡に映る金髪の少女は頬を紅潮させながら、ゴクリ、と唾を飲み込む。彼女の細くしなやかな指がゆっくりと、胸元で存在感を主張する魅惑の塊へと歩み寄っていく…。
「おっはよー、ラルダ!着替えは済んだかい!?」
ドアの向こうで、ノックの音と朗らかな少女の声色が響いた。
「ひゃああああッ!?」
来訪者の声に驚き、部屋中に悲鳴が木霊する。自分の口から反射的に出た少女の叫びで、自らの身体に誘惑されつつあった俺は我に返った。
魔女の帽子を手に取ってドアを引き、この家の主人を招き入れる。
「お…おはよう、レイラ!着替えまで用意してくれるなんて、本当に感謝感激だよ!」
朝の挨拶と、レイラの気遣いに対する感謝の言葉を述べる。取り繕うためにも、笑顔を作りなるべく明るい口調で。
「随分時間がかかったみたいだけど…まぁ、慣れない身体だし仕方ないか。何かトラブルがあったんじゃないかと少し心配したけど、服のサイズも合ってるし、特に体調不良もなさそうで良かった良かった♪」
そう言いながらレイラは部屋の外へ歩いていき、階段の手前で手招きする。俺は誘われるがままに階段を降りて、玄関から1度外へ出るのだった。