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第5話 魔導書と異世界の晩餐

テーブルにできた水たまりを、魔女レイラは怪訝そうに眺めていた。


(確かに、リントは一度魔法を使えていた。だけど、作った氷はほぼ一瞬で溶けてしまった。

見習い魔術師でも、一度形にした魔法が瞬時に崩れる事はない。となると…そっか、身体に流れる魔力の問題だな!)


少女はクイズの答えが解けたかのような、明るい表情を浮かべた。原因に心当たりがあり、そしてこの魔女にはそれを解決する手段を持ち合わせている。だが、それは一旦後回しだ。


「まぁ、魔法は『慣れ』の問題もあるから気を落とす事はないよ。取り敢えず、晩御飯にしようか。キミも疲れているだろうし、お腹も空いているだろう?」


「あぁ…うん、そうするよ。って…何か奢ってくれるって事で良いの?」


「残念ながらここは街外れの森の中さ。一応近場の村には酒場程度ならあるけど…、外食する時間も体力もないし、家にあるもので何か作るよ。キミはテーブルに座って待ってておくれよ。あ、部屋の中にある本とかは好きに読んでくれていいからね♪」


そういうとレイラは、軽い足取りで部屋を去っていった。ドアの向こう側には台所があるらしい。お言葉に甘えて、俺は部屋で待つことにした。

辺りを見渡してみると、確かに部屋の一角には本棚があった。そちらへ歩いていき、背表紙を眺めてみる。本棚に陳列されているのは分厚い書物ばかりだ。『魔女が持つ本』…魔導書とか、薬草の図鑑とかだろうか?無造作に一冊取り出して、表紙を確認してみる。そこには大きく魔法陣が描かれており、中央部には紫色に光る石が嵌め込まれている。水晶、あるいは宝石だろうか?

次に表紙上部にある文字…本のタイトルを読んでみる。文字自体は全く見慣れない代物だ。アルファベットでもヒエログリフでもなさそうだ。だが、俺には『読める』。


「何々、『初級魔法指南書~駆け出し魔法使いが最初に見るべき入門書~』…。なんか、参考書みたいなタイトルだな。」


本当に不思議な感覚だが、表紙を構成する文字に見覚えがないが、書かれている『単語』や『文章』は解読できる。この読解能力も、召喚魔術がもつ『環境適応』の能力なのか…?つくづく、レイラという魔女はとんでもない魔法を行使したのだと思い知る。

そのまま俺は入門書のページをパラパラとめくってみる。この世界で『魔法』や『魔術』と呼ばれる力についての解説や、様々な初級魔法の解説が載っていた。


『魔力は空気中、水中などのあらゆる場所に存在しており、それらを用いた力を【魔術】や【魔法】という。一口に【魔法】といってもその種類は様々であり、人間によって適性が異なる。故にまずはこの魔導書で初級魔法に触れ、自分にあった魔法の属性や形式を探すべし。適した魔法が見つからない場合は、魔術師以外の道を模索するべし。剣を振るう道も、桑で土を耕す道も、魔術と同じく人が歩む一つの【道】である』


最初の数ページには魔術の解説が載っている。そして察するに、この入門書は魔術の適性を測る一種の手段として販売されているようだ。炎や風、水や氷、土・植物・あるいは雷といったあらゆる種類の基礎魔法が網羅されていた。そして、その中でスムーズに習得できる魔法が見つかれば、自分にはその魔法に【適正】があることが分かる。例えば氷の魔法がすんなり使えればそれを極めればよい、いずれは辺り一面を銀世界に変える程の魔術師に成長するかもしれない。あるいは氷の魔法が使えなくても、炎や風の魔法が使えるかもしれない。そういった魔法における『最初の一歩』を踏み出すための魔導書らしい。


しかし、最後のほうに書かれている文言が嫌な感じだ。要は「才能がない場合、さっさと諦めて他の技術を身につけろ」と言っているのだ。まあ確かに自分に合う魔法がないのなら、さっさと次の道を模索するのも手だろう。それは分かる、理解できる。

だが、せっかく異世界に来たのに魔法の一つも覚えられずに生活するのはやはり嫌だ。レイラは『慣れの問題もある』と言っていたが、さっきの氷魔法みたいな失敗が続くかもしれない。この入門書『だけ』を参考にするのも愚策だろうが、もし載っている初級魔法が全て使えなかったら…。剣と魔法の世界にいながら、『魔法とは無縁の生活』という味気ない第二の生を送ることになる。


いや、よく考えたら、それどころか『魔女レイラの助手』という役目にも支障が出るのではないか?具体的な業務内容はまだわからないが、魔女の研究を手伝う以上は魔法を使えたほうが望ましい筈だ。ここで『助手』という職を失えば、この異世界で頼れるものがなくなってしまう。それだけは避けなくては!


俺は必死に魔導書のページをめくる。

(何か簡単そうな魔法はないだろうか…。レイラは『魔法はイメージ』だって言っていたな…。なら、『イメージしやすい』魔法ってなんだ?炎や雷は、感覚がイメージしにくい。雷に打たれたこともないし、炎の熱さや火傷には良いイメージがない…。もっと身近なものならイメージしやすい筈だ。例えば…毎日飲んでいる『水』や、いつも呼吸や肌で感じている『風』のほうが簡単かもしれない!)


そう考えた俺は、風属性の基礎魔法が載っているページを探す。あった!風の初級魔法、≪突風ガスト≫の解説ページだ!早速読んでみよう!


「お~い、晩御飯できたよ。」

そういいながら、レイラはお盆に乗せた料理を、テーブルまで持ってきてくれた。読書は一旦中止して、魔導書を本棚に戻す。献立はパンケーキとスクランブルエッグ、あとはサラダだ。タンパク質に野菜、炭水化物が摂取できるとてもバランスの良い食事だ。しかも、とてもおいしそうな仕上がりだ。


「あれ?1人分しかないけど…これ、俺が食べるって事で大丈夫なんだよね?」


「うん。ボクは君が目覚める前に、軽食を済ませてあるからね。それと、そのパンケーキにはこの『季節リンゴのジャム』を塗ると更に美味しくなるよ。」


俺は差し出された小瓶を開けて、中のジャムをパンケーキに塗ってみる。先程の季節リンゴは白桃の味だった。だが、このジャムは黄緑だ。色と匂いから察するに、このジャムはメロンの味だろう。


「メロンってどちらかというと野菜の仲間なのに…味のレパートリー広すぎないか!?」


「確かにメロンは蔓の植物だけど、このリンゴは『樹木以外に実る果物』まで網羅しているんだ。さぁさぁ、早速ご賞味あれ♪」


「なら遠慮なく…いただきます!」


食前の挨拶を済ませた後、パンケーキを一切れ口に運ぶ。

美味い。

パンケーキ特有のフワフワな食感、そこに果実由来の甘味と舌触りが絶妙にマッチしている。何よりこの甘さはジャム特有の、『砂糖を大量に使っている甘さ』とは全く違うものだ。季節リンゴは元々味が濃厚だから、砂糖が全く不要なのだろう。それ故に味にしつこさがなく、食欲が増進される。切り分けるナイフも、口へと運ぶフォークの動きも止まらなくなってしまう。


だが、甘いものが続くと塩気が欲しくなる。俺は次に、スクランブルエッグを食べてみる。こちらもとてもおいしかった。ケチャップなどは使われていない、味付けは塩だけという一見寂しい味付けだ。だが、違う。『塩だけで十分』だったのだ。スクランブルエッグの味を引き立たせるには、最低限の味で十分だったのだ。もっとも、この世界にケチャップが存在するかは分からないが…。それにしても、この卵を産んだ鶏はさぞ大事に育てられていたのだろう。卵に含まれている旨みがとてつもない。あるいは、魔法等を用いた異世界由来の酪農技術だろうか?

そんなことを考えながらも、食事の手は止まらなかった。


「そうそう、食事が終わったらボクの部屋に来てくれないかな?」


「いいけど…。ちょっと待って、レイラの自室ってこと?」


「うん、君が食べている間に『準備』しておくからさ。」


「準備って、何があるのさ!?」


「それは『来てからのお楽しみ』だよ♪あ、急いで食べる必要はないからね。どうぞ、ごゆっくり~。」


そのままレイラは、バタンッとドアを閉めて行ってしまった。


(女の子の部屋…。まずい、生前は全く縁がなかった場所だから、緊張してきた…。)


否、他にも緊張の理由はある。金属ポッドから目覚めた直後に行った、レイラとの問答だ。あの少女は、『何故、このホムンクルスの身体が美少女の姿なのか?』という問いになんと答えていただろうか?


『男の身体を弄ってもつまらない』

『ボク自身の好みが反映された身体』


…つまりは『そういうこと』だ。

いや、決めつけはよくない。まだそうだと決まったわけではないのだから。

…部屋に行く前に、風呂とか入ったほうがよいだろうか?

俺は自分の身体を嗅いでみる。ほとんど匂っていなかった。取り敢えず、入浴の必要はなさそうだ。まあ、目覚める前だとこの身体は薬液の中だったし、そもそも風呂の場所も、異世界の入浴文化も俺は知らない。もしかしたら、風呂にあまり入らない世界なのかもしれない。


ひとまず考えをまとめた俺は、目の前に出された食事を食べきることにした。


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