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13話 狩人グランプリと世界樹の祠

アルフ村でのワイン作りから1週間後、いよいよ『豊穣祭』の当日である。

俺はレイラと共に、再びあの長閑な村にやってきた。

祭りに参加するため、そしてメインイベントの『狩人グランプリ』へのエントリーするためだ。

俺は屋外に設置されたテーブルで、参加用紙に名前を書いた。村単位の祭りだし、手続きも簡単だ。


「レイラは参加しないのか?」


「いや、ボクはただの付き人さ。今日はラルダの成長具合を再確認する目的もあるし。何よりこの天才魔女が参加したら、イベントが盛り上がらないだろ?」


「確かに、レイラの魔法ならどんな大物も一撃だな。」


「…さてと。時間はまだあるし、改めて『豊穣祭』について説明させて欲しいな。歩きながら話そうか。」


レイラは俺を何処かに案内してくれるようだ。

そういえば、具体的にどんな祭りかは聞いていなかった。


「まぁ、大体想像はつくけどな。俺が居た世界で言う『収穫祭』、今年一年の豊作に感謝しつつ来年の豊作を神様にお祈りする秋のお祭り…そんな所だろ?」


「ご明察。

では、ラルダ君に質問だ。

『ボクらが感謝と祈りを捧げる”神”とはどんな神か?』

さて、分かるかな?」


魔女は俺を試すような微笑みで質問を投げかける。


「当然、『世界樹』だろ?毎朝の日課で流石に覚えたよ。」


「その通り!キチンと知識を身につけたようで偉いぞ♪」


レイラは手を伸ばして俺の頭を撫でた。なんだか恥ずかしい様な、こそばゆい感じだ。


「そして、これがこの村を見守る『世界樹の祠』さ!」


レイラに案内されたのは、丘の上にある小さな木組みの祠だ。そこには青々とした葉を付けた、1本の枝が祀られていた。


「この枝…枯れていない?それどころか、生きているような…今も呼吸や光合成をしているのか…?」


信じ難い事だが、この枝からは僅かに空気の流れを感じる。丘の木と同じように、二酸化炭素を取り込み酸素を吐き出しているのが分かった。


「お、風魔法を修行した成果がバッチリ出てるじゃないか。

そう、この枝は特別でね。

『世界樹の枝』…守り神から授かった、神体の一部なのさ。」


「神様の身体の一部って事か!?」


それは驚きだ。でも、それってとても貴重で有り難い物じゃないのか?誰が授かったんだ?この小さな村に、とてつもなく信心深い人が居たと言う事か?


「おや、ご存知でなかったのですかな?

祠の枝は、『世界樹の民』であるレイラさんが儂等に譲ってくださった物ですぞ。」


俺とレイラが話していると、アルフ村の村長が丘の上にやって来た。


「『世界樹の民』?それは一体…?」


「まだキミには話して無かったね。

ボクはエルフはエルフでも、『ハイエルフ』という種族なんだ。世界樹の麓に住む一族…だから『世界樹の民』なんて呼ばれてるのさ。」


「つまり…守り神のすぐ側で生まれ育ったって事か!?」


めちゃくちゃ驚いた。だが、俺に朝の日課…『世界樹の見える方角で植物に水をやる事』を教えたのはレイラだ。その時の彼女は、とても真剣な表情だった。その理由も今なら分かる。ハイエルフの魔女は、異世界の神と共に暮らして来たのだ。


「ひょんな事からこの村を訪れたレイラさんじゃが…この祠を建ててくださったり、より良質な肥料やポーションの調合を伝授してくださったり…。お陰で村の作物は以前に増して、すくすくと育つようになった。儂等にとって、かけがえのない恩人じゃよ。」


この少女は、俺の想像以上にアルフ村を手助けしていたらしい。今日は驚かされてばっかりだ。


「ま、この枝はボクが持っているよりもアルフ村に預けておいた方が、沢山の人の助けになるだろうからね。肥料やポーションだって、所謂『魔女の気まぐれ』で焼いたお節介さ。」


レイラはあっけらかんと言ってのけた。


「さて、ラルダ。折角だから、この祠に必勝祈願でもしたらどうだい?」


確かに、折角参加するイベントだ。優勝できるに越したことはない。


「なら、お言葉に甘えて。」


俺は祠と向かい合い、手を合わせる。目を閉じて、良い成果が出せる事を祈ってみた。


「さて、戻る頃には良い時間になっているね。それじゃあ村長、また後でね。」


「私達はグランプリの受付に戻ります。色々教えてくださり、ありがとうございました。」


俺とレイラは村長に挨拶して、丘を下る。頬に当たる秋風が、とても心地よかった。


イベント開始を告げる笛の音が鳴り響き、いよいよ『狩人グランプリ』の幕開けだ。

参加者は20名程度。俺以外の全員がアルフ村狩猟団に所属している。しかし、リヒトも参加していたとは驚きだった。そしてカールからは、『リヒトが取ってくる獲物を楽しみにしとけよ!』と言われている。

…狩猟団のリーダーが何故あそこまでニヤついた顔をしてたのか、さっぱり分からないが。


さて、ルールは至ってシンプル。より大きな獲物や珍しい獲物を狩ってきた者が優勝。あくまで『狩猟』なので、茸や果物は対象外だ。早い話、その辺にトリュフが落ちていようと加点にはならない。


そして少し厄介なのが、『取ってくる獲物は1人1匹まで』というルールだ。

例えば、先に野ウサギや食用スライムを仕留めたとする。その後に鹿や猪といった大物を見つけても、それらを狩る事は出来ない。必要以上の殺生をしないためだ。参加者には予め不正防止の腕輪が付けられており、2匹以上の獲物を仕留めた場合、腕輪が赤く光る仕組みとなっている。反則者を炙り出すこの魔法アイテムは、やはりレイラお手製の代物らしい。彼女の技術力であれば、魔法を用いた玩具事業でガッポリ稼いでいてもおかしくないな。


さて、開始からそろそろ1時間が経過する頃だ。

…俺はある問題に直面していた。


「…獲物が、食べられそうな魔物が居ねえ!」


そう、ターゲットを見つけられずにいたのだ。ここまで何人かの参加者とすれ違ったが、皆獲物を仕留めて村に持ち帰る所だった。つまり、ここらの動物は粗方狩られたと思って良い。

冷静に考えたらターゲットの探知探索は、狩猟を生業にする他の参加者の方が得意分野であろう。彼らは足跡やら草葉の食いかけやらから、動物を探し当てる知識は当然身につけていると思われる。一方此方は魔法の修行を積んだばかりの駆け出し魔女。探知系の魔法など当然身につけてないし、そういう類の魔法があるのかさえ知らない。


つまり…経験的なアドバンテージで大幅な遅れを取っている。このままでは手ぶらだ。釣りで言うところのボウズ…ツルッパゲだ。

どうする?何らかの方で誘き出すか?交戦的な魔物であれば、魔法で大きな音を立てれば寄ってくるかもしれない。が、流石にちょっと危険だ。それに、大半の獲物は音に驚いて逃げるだろう。

なら、木に登るなり草むらに隠れるなりして待つか?だが、その手の方法は他の狩人がやってそうだし…。

そして、参加者ではなく『付き添い』であるレイラの手を借りる事もできない…。


あれ、詰んだ?

…いや、もう少し粘って見よう。


足音を立てないようにして、木の陰に身を潜める。獲物が通り過ぎればそれでよし。そうでなくとも、息を潜めて耳を澄ませれば、鳴き声から何か見つけられるかもしれない。


だが、俺の耳に届いたのは…


「うわあああああ!!」


参加者と思しき若者の叫び声だった。


(遡ること十数分前…)


アルフ村のリヒトはとても張り切っていた。何故なら一週間前、彼は運命の出逢いを果たしたからだ。


彼女は朝日の様に輝く金髪と、宝石の様に輝く水色と翠色の瞳を携えた、とても美しいエルフの少女だった。


彼女の魅力は見た目だけでは無い。見ず知らずの村人である自分に歩み寄ってくれる優しさ、村の特産品や手料理に舌鼓を打つ時の無邪気な微笑み、そして皆で酒と料理を皆で分かち合うという暖かく朗らかな心。そして、その日の宴会で彼女が自分の腕に抱きついた際に感じた、全てを優しく包み込んでくれる様な柔らかい感触…。


大怪我をして狩人としての自信を喪失していた、失意の暗闇にいた自分を彼女は救い出してくれたのだ。正に彼女は天使だ、神の御使そのものだ。

そして男に生まれた以上、『運命の人』に出逢えた奇跡を無駄には出来なかった。


(俺は…今日、ラルダに…愛の告白する!)


この一週間、ひたすらに弓のリハビリを重ねた。そして驚く事に、狩猟団の皆も特訓に付き合ってくれたのだ。

ずっと仕事に出ていなかった以上、村の皆に陰口を言われたり後ろ指を指される事も覚悟していた。だが実際は俺が獲物を仕留め、ラルダに想いを告げる事を手助けしてくれていた。

純粋な優しさもあるだろうが…どうやら皆、俺の告白の行く末を酒の肴にするつもりらしい。成就すれば祝い酒、フラれたなら慰みの宴と言ったところだ。

まぁ、それ自体に文句は無い。暫く塞ぎ込んで引き篭もっていたのだ、酒の肴にされるぐらい安い物だ。


だが、願わくば…彼女と結ばれたい。

そして、そんな俺の想いに天は味方してくれた。

先程仕留めた兎を縄で縛りながら、そう確信した。

これはただの兎ではない。黄金のツノを生やした『コンジキウサギ』だ。別名、幸運のウサギ。滅多にお目にかかれないレア物で、味は普通の兎より何倍も上質だ。


狩人の甲斐性を見せるなら、鹿や猪といった大きな獣を狩るのがベストなのだろう。だが、これは幸運の予兆だ。出会って間もない以上、告白の成功率が低い事は俺でも分かる。だがもし珍味の兎を彼女に食べさせれば、俺の事を…素敵な狩人として見てくれる可能性も上がるだろう…。


…………

……


だが、俺は人生の運を使い切ったらしい。


森の木の間から、巨大な魔物が顔を見せた。

それは本来、池や湖に棲む怪物。

冬眠前の餌を求めて陸地に這い上がった、全長15メートル程の巨大なワニ、『ラウンドダイル』。

村を離れ奥の方までノコノコやってきた狩人は、ヤツの目には手頃なオヤツに見えているだろう。

コンジキウサギを追うのに夢中になっていた俺は、ラウンドダイルの存在に気づくのが遅れていた。


俺は必死に走った。

仕留めたコンジキウサギを背負いながら、懸命に。死に物狂いで。

弓矢での攻撃は無駄だ。ワニの鱗は硬く、しかもあの大きさだ。10人以上が一斉に弓矢を放ち、漸く傷を付けられるかと言った所だ。俺が1人で、残り少ない矢で戦うよりは逃げた方がまだ望みはあった。

だが標的を俺に定めた巨大ワニは、その強靭な四肢をフル稼働させて迫り来る。


「うわああああああ!!」


叫びは無意識のうちに出ていた。助けが来る可能性など、殆どない事が分かっていながら…。

狩人リヒトの運命やいかに…?

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