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第一話 魔術の修行、魔女との邂逅

ここは人里離れた森の中。

そこには、今日も今日とて魔法の修行に励む『少女の姿』があった。それは金髪のロングヘアから長く尖った耳を覗かせた、エルフの見習い魔術師だ。名前はラルダと言う。


ラルダの眼前には体長3mはある巨大なイノシシ型の魔物、クレイズ・ボアーがいる。この森に住む魔物の中ではかなりの強敵だ。その証拠に、牙が血痕で黒ずんでいる。何人もの駆け出し狩人や冒険者が、狂える猪が持つ巨体と牙の前にその命を散らして行ったのだ。


森の強者にとって、華奢なエルフなど晩飯にしか映らない。だが一方で、ラルダにとっては越えるべき最初の試練。この森…否、『この世界』で生き抜くための第一歩であった。それは一万歩、十万歩ある内の小さな一歩かもしれない。それでもエルフは臆する事なく、飢えた獣の獰猛な視線に向き合った。


先に動いたのは猪の方だ。その巨体を生かした強烈な突進を繰り出す。体格の割には意外と素早い。胴体だけでなく、四肢まで強靭な筋肉が備わっている。まともにぶつかれば細身の少女なぞ、全身の骨という骨を粉砕されて即死は免れない。


「…!!」


だがラルダは冷静だ。彼女はクレイズ・ボアーの足にも注意を向けていた。動き出すタイミングと方向。それを見切ったラルダは瞬時に左へ跳躍し、攻撃を躱す。


そのまま魔物へ振り向き、右の手を前に突き出す。すると、少女の周囲に空気が集まってくる。風は緑色のオーラを纏い、最初は足元を駆け巡る。そして次第に上半身、そして右腕へと移動していく。


「風よ、我が元に集いて敵を切り裂け!《翡翠の風刃(エメラルド・ブレード)》!!」


凛とした詠唱が森に響き渡る。右手の手のひらに集めた風は魔力の刃となり、巨体のイノシシを斬りつける。


魔法は見事に命中した。クレイズ・ボアーは突進の勢いのまま敵に背を向けた状態で、背面を切り裂かれる。だが、まだ仕留めきれてない。背中の傷は深く出血もしているが、それでもまだ倒れない。猪は怒りを瞳に宿らせながら、咆哮をあげて再度突撃をかます。


先ほどより敵との距離はあるが、突進のスピードはさっきの倍近くある。底知れない体力だ。スタミナの差が歴然である以上、早々に決着をつけないとこちらが圧倒的に不利になる…

瞬時にそう判断したラルダは、魔法の狙いを魔物から地面へと移す。


「冷たき白銀よ、大地より現れ天を貫け!《敵穿つ銀世界の(ピーシング・アイシクル)!」


風の魔法から氷の魔法に切り替えて、地面から巨大で頑丈な氷柱を数本生やして障害物を設けた。猪が進路を変えない限り、そのまま氷柱の壁に激突するだろう。


だが、数多の狩人を屠ってきた魔物は冷静だった。後ろ足に脚力を集中させ、大地を蹴り跳躍する。なんと、ラルダが生やした氷柱の壁を跳び越えたのだ!そしてその勢いのまま、自身の巨体で押し潰す…そういうプランだろう。


(よし、こっちの誘いに乗ってきたな!)


心の中でほくそ笑むと、ラルダは地を駆る巨躯へ突撃する。跳躍したクレイズ・ボアーが氷柱のちょうど真上を通り過ぎる、その瞬間を狙ったのだ。


「吹き荒べ、《突風(ガスト)》!」


戦いの仕上げに、風の初級魔法を喰らわせる。

威力こそ弱いが、魔力消費も少ないので発動が容易な魔法だ。空中では踏ん張りが効かない魔物を、氷柱の真上に押し留めるにはそれで十分だ。

跳躍の勢いが切れ、更に突風で身体のバランスを崩した巨大イノシシ。奴は空中で身体を横たえながら落下し、地面に聳え立つ氷柱に貫かれた。断末魔を上げながら、その巨体は遂に生き絶えた。


「ハァ、ハァ…や、やった!勝てた!!」


はじめて強敵を撃ち倒し、見習い魔術師のラルダは歓喜の声を上げる。


「いや〜、中々良い感じに仕上がってるね!魔法を段々と、自分のモノに出来てるじゃないか!」


パチパチパチと称賛の拍手が空から響く。音がした方に目を向けると、宙に浮くステッキに腰掛けた少女がいた。紺色のとんがり帽…魔女の帽子を被り、漆黒のマントをはためかせる小柄な少女。水色でウェーブがかかったショートヘア、そしてラルダと同じく尖った耳を髪から覗かせるエルフの魔女。彼女…レイラはラルダの師匠であった。


「『氷の魔法だけじゃなくて、風の魔法も勉強したい!』ってキミが言い出した時、ボクは喜びに震えたね。キミが自分から、魔法の世界に更なる興味を持ってくれてさ!しかも、ちゃんとさっきの戦いで教えた魔法を使いこなしているんだもんな〜!」


「それでも…それでもやっぱりまだまだだよ。できれば風の魔法だけで勝利したかった。もっと言えば、最初の《翡翠の風刃(エメラルド・ブレード)》で倒すつもりだったんだ。でも、思った以上にあの魔物が頑丈だったからさ…まだ改善すべき部分があると思うんだ。」


「うーん、そればっかりは場数を増やすしか無いんだよねー。ま、その辺はおいおいやっていけば良いさ。兎にも角にも、君のお陰で『異世界人研究』が更に捗りそうだよ♪君を違う世界から召喚した甲斐があったってもんさ!」


満足気に微笑みながら、魔女は自分の弟子を『異世界人』と呼びながら労いと感謝の言葉を贈る。


『異世界人』…それはこの《剣と魔法の世界》とは異なる世界からやってきた者の総称。察しの良い者は、ラルダがその1人だと気づいているだろう。


(そう、かつての『俺』はごくありふれた社会人だった。現代社会で命を落とし、見知らぬ世界へ招かれて…)


ラルダは回想する。自分の身に起きた奇妙な体験を。目の前の魔女、レイラと邂逅した日の事を…

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