第二話 強化のギフト
翌朝、ミュラーのじいちゃんに小屋の近くにある洞窟まで案内され対面した状態で岩の上に座る。
「あの、特訓は?」
「もう始まっとるよ、安心せいこの洞窟内に居るだけで強くなれるのじゃからな その証拠にミュラーは入って来ておらんじゃろ?」
「いや待って!? 訳が分からないよ、ミュラーが入って来れない理由でもあるの?」
「そうじゃな、人には魔力を持っとる者と持っとらん者が居るじゃろ?」
「俺は後者だけど、それと何か関係あるの?」
「大有りじゃ、この洞窟は自然エネルギー“マナ”の濃度を限界まで高くしておるワシらの様に魔力を持たない者になら害は無いが魔力を持った者にとっては身体の中の魔力と外のマナの間に挟まれた様に圧迫されてしまうんじゃ」
「ミュラーにも魔力があるんだね」
一通り話をし終えると徐ろにじいちゃんは立ち上がり、腕立て伏せを一回、スクワットを一回、腹筋を一回ずつしたかと思えば再び岩の上へと座る。
「えと、今の何?」
「身体を鍛えていたんじゃよ、ワシも強化のギフトを授かっとるからの」
「え、一回ずつで良いの? 楽過ぎない!?」
「当然じゃ、強化のギフトは当たりも当たり、大当たりなのじゃからな! ただ、使い方を間違えておる輩の方が圧倒的に多いのが事実じゃがな」
「じゃあ俺もやろうかな」
腕立て伏せ、スクワット、腹筋をそれぞれ一回ずつ強化のギフトを使い済ませると今までそれ相応の筋力だったが、直ぐに筋肉質な身体になっている事に驚く。
「凄いよ! もうこんなに力が付いた!? この調子で強化をし続け」
「それは止めておいた方が賢明じゃよ」
「え、何で?」
「強化し続けると言うことはそれだけ身体に負担をかけると言うことになる つまり酷使し続けると身体を壊してしまうぞい」
「そっか、あっ! もしかして使い方を間違えてる人ってのは身体を酷使してるってこと!?」
「ほう、理解が早いの そうじゃ、戦闘中に肉体を強化し続けボロボロになってようやく勝利している者を数多く見てきたが中にはそのまま命を落とした者も存在しておる 強過ぎる力は過信する者が多く間違った解釈をされがちじゃからな、強化のギフトはこのくらいの筋トレくらいに使う方がええんじゃ 一週間もすればマナイ、お主は誰にも負けない程の力を得るじゃろう じゃがこれだけは忘れてはならんぞ、力には責任が伴うと言うことをな」
「うん、よく分からないけど分かったよ」
暫く洞窟内に居ると何やら光の胞子の様な物が見え始め、それを目で追う。
(なんか見えてきたけど、これがマナなのかな?)
「見えてきた様じゃな、さてそろそろ昼ごはんの時間じゃし小屋に戻るぞい」
「うん、ん? 何か良い匂いしてきた」
「この匂いは孫娘の作るビーフシチューの香りじゃな、一刻も速く戻るかの」
小屋に戻るとミュラーの作ったビーフシチューが並べられており一人知らない人物が居た、赤髪で頭には馬の耳が腰からは尻尾が生えており目つきの悪い男性が頬杖を付きながら生の人参を食べていた。
「この人は?」
「あ? 何言ってんの此処まで走ってやったってのに忘れたのかよ、まあ人間型の姿で会うのは初めてだからしゃーないか」
「馬車馬のシルバーじゃ」
「誰がシルバーだ! シルバーはてめえだろうが!! オレ様にはシュナイダー・エレクトリックて超絶カッコいい名前があんだよ!!」
「そんなことより、何マナイ様を差し置いて先に御飯食べてるのかしら?」
「あ、姉御? さっきも聴いたが子供を甘やかすのは為にならないぜ?」
「ふーん、そっかぁ……そんなにお仕置きされたいんだ〜」
「え、ちょ、やめ! 嫌だーお仕置きだけはー!!」
シュナイダーはミュラーに胸ぐらを掴まれズルズルと外へと連れ出されじいちゃんと二人きりになる。
「さ、冷めないうちに食べるとするかの」
「うん、そうだね……美味しい!」
一方で魔法都市エンデュミオンでは優れた魔力を持つ者達を勧誘し城内で魔法戦士としての訓練をしていた。
「脇が甘いぞ! 脇が!!」
木剣が弾き飛ばされ地面に転がる。
「くっそー、レンマ様は努力されているだけのことはありますね」
「ふん、当たり前だ! 俺は魔力が少ねえぶん多彩な武器が使える様になるまで血の滲む訓練をして来たんだ! そう簡単に負けるかよ!!」
「はは、まだやってたんだ無駄な事」
「何の様だマギ、遊びでやってんじゃねーぞ?」
レンマが兵士に武器の訓練の手伝いをしている所へマギが見下しに来たかの様に現れる。
「なに本気になっちゃってんの? そんな事しなくても僕の開発した魔導具で直ぐに解決出来るのに」
「ほら、これ付けてもう一度対戦してみなよ」
「で、ですが……」
「いいからいいから♪」
「俺は構わないぞ」
「はい……」
マギは兵士に腕輪を渡し装着させると木剣を持たせレンマと対峙させる。
「そんな玩具で俺に勝てると思うなよ?」
「それはどうかな?」
「本気でかかって来い!」
「はっ! では行かせていただきます」
勝負は一瞬だった、レンマは棒立ちすることしか出来ずに木剣は壁に突き刺さり時間差で手に痺れが走る。
「な、なんと言う力……先程までレンマ様の足元にも及ばなかったというのに」
「はは、これで分かったろ? 無駄なことをしてるってさ、でも好きなら続ければ、無駄な努力ってやつをさ、あ・に・う・え♪ あっはははは♪」
(くそ、まだ足りないのか……あんな楽ばかりする奴を俺は認めない!! 努力は報われるんだ!! 絶対に、俺が証明してやるんだ!!)
レンマは苦虫を噛み潰した様な表情で、その場を後にするマギと兵士を背に目標を立て何時か必ず努力による勝利を模索する為に身体に更なる負担をかけ稽古に励むのであった。
マギはエンデュミオン王へとレンマの努力を馬鹿にする話で盛り上がっていた。
「でさあ、父上〜僕の魔導具の力一つにすら及ばなかった訳よ」
「やはりマギは天才だな、努力が魔力に勝る訳が無いというのに何れ気付く日が来るだろう そんな事も分からぬ長男にはこの国を任せられんな」
「つまり、それって」
「マギ、この国の王位を継承するのは次男のお前しか居らん! やってくれるな?」
「勿論ですとも父上!」