第一話 魔無し
魔法都市エンデュミオン、魔法の研究が進み誰もが自身に合った属性魔法を使えるとして世界各地から人が集まり魔法を使えない者が居ないとされてきた。
だが、この国の第三王子マナイ・エンデュミオンは生まれ付き魔法の才が無く家族から疎ましく思われ貧困の一般市民と同等の食事は固いパン一食で兄弟は見せびらかす様に豪勢な料理を口にしている。
「今日も料理が美味いな〜マナイ?」
「え、うん……そうだね……」
第一王子のレンマ・エンデュミオンは肉厚のステーキ肉の汁を滴らせ口に運び美味しそうに食べている。
レンマ・エンデュミオン、魔力量は低いがそれを補うかの様に剣術、武術、槍術、斧術、弓術、投擲術、罠術に加え少しの魔力で武器の強化した戦術を得意としている。
「ふん、物好きな兄貴ぁとはだなオレはそいつが食事の場に居るだけで飯が不味くなるというのに」
「ご、ごめんマギ兄さん」
「喋る暇があるなら、とっとと食って俺の目の前から消え失せろ無能が」
マギ・エンデュミオン、あらゆる魔法全てを扱え火属性、水属性、風属性、地属性、氷属性、雷属性、木属性、光属性、闇属性と言った属性魔法の他にバフ、デバフ以外にも回復魔法まで使える魔法都市エンデュミオンの王候補となっている。
「ふー、食った食った」
「ごちそうさまくらいは言っておこうか」
家族は既に料理を食べ終え、俺は固いパンを少しずつ噛っていったが時間となり給仕係に取り上げられ空腹の状態が続く。
「あ、俺まだ食べてる途中」
「残念ですが、皆様は食事を終えておられます貴方はパン一つすら満足に食べ終えられないのですか? 嘆かわしい」
「早う片付けよ、マナイ貴様の存在は誰にも知られる訳にはいかん事は理解しておるな?」
「はい理解しています父上」
「ホント私達の子なのか疑わしい程に魔法の才能なんてこれっきしも無いなんてね、私の生涯で後悔したのはあんたを産んだ事だわ」
「まあそう言うな明日になれば10歳になりギフトを授かるのだ、それに期待しようではないか 使えぬギフトなぞ授かったらどうなるか分かるな? おい新入りマナイを例の部屋へ閉じ込めておくように」
「は、はい! 仰せのままに」
国王から俺を閉じ込める様に命令を受けたのは栗色の髪が肩まで伸びた蒼眼のメイドのミュラー・ハングストンと言う名の女性だ。
ミュラーは何時も俺を気に語りかけてくれるが、そのせいも合ってか他のメイドからは評判が悪く頭の上に生ゴミが乗っていたり脚に痣が出来ていたりする。
「マナイ様、大丈夫ですか?」
「コレくらい平気だよ、明日の儀式で良いギフト授かってこれ以上ミュラーに苦労はかけさせないから」
「お優しいのですね、マナイ様こそこの国の王に相応しいと私は思います」
「そんな事ないよ、俺は兄さん達の言う様に魔法の使えない無能だから」
「そんな事ありません! この国に必要なのは優しさです、今や貴族は国民から税金を搾取することばかり考え一般市民にはそこら辺を飛び回っている虫を食べさせているくらいですからなおさらマナイ様が国王になるべきです!!」
ミュラーは本気で俺が国王になった方が良いと思っているらしく目的の場所まで歩いて着くと声をあらげる。
「あんまり大声でそんな事叫ばない方が良いよ」
「そ、そうですよね……取り乱してごめんなさい」
「良いよ、いよいよ明日だ 十年も苦労したんだ、きっと神様は俺に最高の贈り物をしてくれるさ」
ドアを閉めようとした時、ミュラーが何かを取り出し俺に手渡す。
「これチョコレートです、お腹空いているでしょうからどうぞ」
「これ高かったんじゃないか?」
「マナイ様に食べて欲しいんです、私はお腹空いてませんし」
「そっか、有り難く食べさせてもらうよおやすみ」
「はい、おやすみなさいませマナイ様」
俺はドアを閉め狭く冷たい個室に横になりチョコレートを見つめる。
(ミュラーだって空腹のハズなのに、明日決まる……魔法系統のギフトなら父上だって考えを変えてくれるはずだ!)
翌日、空腹な腹を擦りながら儀式の祭壇へと向かい水晶玉へと歩を進めた。
「その水晶玉へ手を掲げよ」
水晶玉へと手を掲げると眩い光が放たれ頭の中へとギフト名が流れ込んで来る、そしてスキル名を呟いた。
「スキル名……“強化”……?」
「ぷっ、はははは! 強化だってよ残念ハズレだ!!」
「やはりな、そんな気はしていたぜ!」
「マナイ、お前は我がエンデュミオンに相応しくない! 早々に国から出て行くがいい!!」
国王の目は明らかに親としての者では無く自分を邪魔者として見下ろし悲壮を感じさせてはいなかった。
「分かりました……」
「それからミュラー貴様もクビだ、我が王城で汚らしい恰好をするだけでなくそこのカスに型入れし仕事をサボる様な奴は要らん! 何処へなりとも行くが良い!!」
「そうですね、私は何があろうとマナイ様に着いて行きます。 マナイ様に在って国王陛下達には無い優しさを持っていますから」
「ふん、優しさなど何の価値も無い! 世の中に必要なのは厳しさだ、見を持って知るが良いだろう、理解したなら荷物を纏めて出て行け無能共が!!」
俺とミュラーは荷物を纏めて城から出て数歩歩いた所で立ち止まる。
「ごめんミュラーまで仕事無くさせちゃって」
「何言ってるのですか、マナイ様に着いて行くと私は決めてますから謝る必要はありませんよ? それに行くところもありませんし私の家に来ますか?」
「良いの?」
「はい、マナイ様の欲しがってた情報が沢山ありますから♪」
(俺の欲しい情報? 何だろ)
ミュラーは俺と手を繋ぎ自分の家まで案内し、その場所に着くと古びた屋敷が在った。
「ミュラーて貴族だったの?」
「昔はね、今は没落して屋敷だけ残ってる形になってるのよね さ、遠慮は要らないから入って入って♪」
屋敷に入ると所々穴が空いていたり床の底が抜けそうなくらい軋む音がする。
「じいちゃん、ただいま!」
「おや、仕事はどうしたのかの?」
「クビになった」
「何じゃと!? あの愚王め、ワシの可愛い孫をクビにするとは許せん!! ところで、その子は?」
「第三王子のマナイ、ついさっき城を追い出されたの」
「なるほどのぅ、あやつならやりかねんか そうじゃ、今からワシの取っておきの場所へと連れて行ってやろうかの」
「取っておきの場所?」
「着いて来るといい」
ミュラーのお爺さんに着いて行くと馬車が用意されており、それに乗り暫く走らせた所に小屋と洞窟が見えてきた。
「着いたぞい、まずは腹拵えからじゃな」
「この小屋、思ってたより中綺麗だね」
「なんでも“自然エネルギー”を循環させてるらしいわ、私にはさっぱりだけど」
「さて、食事と言えばやっぱり肉じゃな」
じいちゃんは大きな骨付き肉を取り出し何かしら念じたと思えば肉から湯気が出た物を俺とミュラーにも渡す。
「何今の? 魔法……にしては詠唱時の光が見えなかったような」
「魔術じゃな」
「魔術?」
「魔術は魔法と違い自然エネルギーを使う事で魔力の無い者でも魔法の様な技を使えるのじゃよ」
「俺にも出来るかな?」
「無論じゃ、その為にお主を此処へ連れて来たのじゃからな」
「よろしくお願いします!」
「よい返事じゃ、明日から訓練を始めるとしようかの」
(あの愚王の鼻っ柱を折る絶好の機会じゃわい、自分の子を道具としか見ておらん奴からすればマナイの才能を見抜けなかったマヌケを貶めて国民全員の意思で元第三王子をエンデュミオンの国王に押し上げてやろうじゃないか)
「おじいちゃん、何か悪巧みしてる顔になってるわね」
こうして俺はミュラーのじいちゃんから魔術の特訓をしてもらう事になった。
最近あまり気力が無く投稿も遅くなってしまい申し訳ありません。
頭に浮かんだ物が直ぐに消えては新しく書いては何か違う様に思えて書き直しを余儀なくされてます。