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苦手な方はご注意ください。

ドラゴンゾンビVS高圧洗浄機の勇者

作者: 譚織 蚕

「おい、聞いたか? 最近あの山に……」


「あぁ、出るんだろう? でもまぁ大丈夫だろ。近々アイツが派遣されるらしいからな」


「え、それ本当か? アイツって……」


「恐らくお前が想像しているので合っているぜ」


冒険者ギルドに併設された酒場でひそひそ話をする2人の男たち。

彼らの話題は最近山に出没して人々を恐れさせる1匹の魔物と、それの討伐に駆り出されるという噂の1人の男に向いていた。


「でも確か一ヶ月前に隣国にデスパレードを討伐しに行ったって聞いたんだが。 移動時間とか考えると、キツいんじゃ……」


「いやー、そんなこと無かったですよ。デスパレードの討伐自体は【ワイド噴射】で1日と掛からなかったので」


唐突に会話へ3人目の声が混じる。


「誰だっ! って噂をすれば影か。おかえりセンジョー。Sランクレギオンのデスパレードを瞬殺なんて、だいぶ成長したな」


「ただいまビルさん。瞬殺は言い過ぎだけど……  まぁぼちぼちやってるよ」


「ははっ! あんなちっこかったガキが今では勇者様だもんな。この街に来た要件はやっぱアレだろ? 今回も頑張れよ!」


「うん! っと、もう行かないと! ドタバタごめんね」


「あぁ、終わったらまたここに来い。今度は1杯奢ってやるから」


「マジで!? っしゃ、頑張るぞー!」


会話に割って入ってきた青年はビルと呼ばれた男と少しだけ声を交わすと、再び席を離れてギルドの受付の方へと慌ただしく向かった。


「おい、あれって……?」


「あぁ、【高圧洗浄機の勇者】センジョーだ」


「知り合いだったのか?」


「まぁ昔ちょっとな」


ビルは遠い目でセンジョーが小さかった頃の事を思い出す。


「あれは10年前……」


「ん? ごめん聞いてなかったわ。それでなんだって?」


「あれは10n…… ちっ、やっぱなんでもねーよ」


―――――――――


一方その頃。

センジョーはギルドの受付でスキンヘッドの男と何やら話し込んでいた。


「えっ、特S依頼なのに報酬こんだけですか!?」


「あぁ、まぁ国定依頼だからな。国の税金から報酬が出る以上そんなもんだろ。その代わり素材は8割お前の好きにしていいって契約だ。最終的にはそっちのが儲かるんじゃねーか?」


「8割、ですか?」


「あぁ。龍角、龍核、頭蓋骨は勿論爪までお前のもんだ。こっちは肋骨数本でいい」


「……それは確かに美味しいですね」


「あぁ、上だって討伐を急ぎてぇんだ。今回の依頼は純粋な害獣駆除だからな」


スキンヘッドの男は、この町のギルドマスター。彼らは今回の依頼について細部を詰めていた。


ことの発端は3日前。定期的に行われているゴブリン駆除に参加したパーティーが山頂にある魔物の姿を見かけたことに始まる。

生物に有害な瘴気を発するその魔物の存在は国の一大事であり、即座に勇者が派遣されることが決定された。

そこで呼ばれたのがこの町に縁深く、かつ今回のターゲットに有効な【勇者武器】を持つ【高圧洗浄機】の勇者、センジョーだった。


「分かりました、行きますよ」


「あぁ、頼んだぞ」


依頼を引き受けたセンジョーはそのまま足早にギルドを発った。

今回の依頼は、1分1秒を争う。ターゲットから出た腐肉が街へつながる川にでも落ちたりすれば、被害者の数は想像を絶するだろう。


「【ジェット噴射】……確か山頂はこっち側」


もともと暮らしていたこともある町だ。その裏山の地形だって詳細に記憶している。

武器を起動しその上に乗った彼は恐ろしい勢いで山を登った。


そしてものの数分後。


彼は山頂に横たわる今回のターゲットを発見した。


ソレは死してなお自然の王として君臨しようとした憐れな龍の死骸。

眠ることも食べることも忘れ、身は腐り果て、周囲に害を及ぼすだけの災害。


ドラゴンゾンビと呼ばれる特S級の魔物がそこにはいた。


「お前、もう寝なくていいだろ。起きろよ」


「……グオラァァァ!」


センジョーが掛けた声で敵を発見したドラゴンゾンビは、腐った声帯をめいっぱい振るわせて咆哮を放った。


「くっ…… っぱり特Sは迫力が違う。が、勝たせてもらう。 【ワイド噴射】!!」


多少よろめいたセンジョーだったが、即座に武器を構えた。

そして詠唱するのはひと月前にもS級の魔物の群れを駆逐したセンジョーの切り札。

【高圧洗浄機の勇者】がゾンビに特に強いと言われる所以となった技である。


センジョーの魔力を吸って起動した武器から、超高圧の水が発射される。

広範囲に渡って発射されたその水はドラゴンゾンビに突き刺さり、その身を覆う腐肉を洗い流していった。


「瘴気の原因はその腐った肉だろ? まずはそこからキレイキレイしてやるよ」


センジョーはドラゴンゾンビの攻撃をかわしながら懐に潜り込み、敵の体全体に水を噴射していく。

そして数分後。ここまでの移動にも使用した【ジェット噴射】を回避に使いつつ攻防を繰り広げたセンジョーは、見事にドラゴンゾンビから腐肉を洗い流すことに成功した。


「ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」


声帯を失ったドラゴンゾンビ、いやドラゴンスケルトンにはもう声を発するすべもない。


「仕上げだ。頭の中の核ぶち抜いてやる。【ジェット噴射】」


だからこそ、とどめを刺しにかかったセンジョーは【ワイド噴射】よりも細く強力な【ジェット噴射】を使用する。


が、ドラゴンスケルトンはその時を待っていた。回避に使われる中で知っていた。

【ジェット噴射】(それ)は自らの骨を貫くには力不足だと。


噴射された水に対して真正面から、ドラゴンスケルトンは突っ込む。

頭蓋は水をはじき、その直前上に体を置いた憎き討伐者にむかって襲い掛かる。


「アッ!! グッ!!!」


センジョーはとっさに地面から足を離すことで噴射の勢いを利用して後ろに回避したものの、一瞬遅い。

龍の角は勇者の腹に浅くはない傷を残した。


「いっってぇ……! 【ジェット噴射】で威力不足ってマジか」


【高圧洗浄機の勇者】であるセンジョーは、基本【ワイド噴射】と【ジェット噴射】のツーウェポンである。

より高圧かつ高威力の【ジェット噴射】が効かなかった今、彼になすすべは……


「ったく、高いから使いたくなかったんだけど」


一つしかなかった。


「【ジェット噴射】っと。そんでもって……」


馬鹿の一つ覚えのように同じ技を使用する敵に向かって、ドラゴンスケルトンは再度突進を決行する。

それに対しセンジョーはポケットから取り出した小袋の中身を自らの武器の噴射口に振りかけた。


次の瞬間、勝負は決した。


「ぁぁぁぁぁぁ、ぁ?」


先ほどと同じように硬い頭蓋で水を受け止めた瞬間。

先ほどとは違い、水が頭蓋を突き抜けその中に収められた核を貫いた。

そしてそのまま、訳も分からぬままドラゴンスケルトンは地に崩れ落ち。

その2度目の生をあっけなく終わらせた。


「【ダイヤパウダージェット】ってな」


小袋の中身は、宝石の粉。粉は、水の威力を増し硬い硬い頭蓋を貫いた。


「あっぶなかった…… これ半ばスケルトンの討伐依頼じゃん。はー、早く帰ってビルさんに奢ってもらおっと」


そう呟いて、ドラゴンスケルトンの死骸を魔法の袋に入れたセンジョーは山頂を後にした。


もちろん、【ジェット噴射】の高圧洗浄機に乗って。

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