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短編小説集

短編小説④

作者: 943
掲載日:2022/10/07

【テーマ】やきもち

「なー、なんで怒ってんの?」


「怒ってないし」


「嘘、絶対怒ってんじゃん」


「だから怒ってないって」


 俺はお手本のようにそっぽを向いている彼女に気づかれないように、そっと息を吐いた。


 事件は数時間前。

 今日は一カ月ぶりのデートの日だった。

 浮かれまくっていた俺は待ち合わせ三十分前に着くと、そこにはすでに彼女が待っていた。

 その時から機嫌の悪いオーラが漂っていて、デートをしている最中ずっと何かやらかしたか、と自問自答したが答えは出なかった。

 ランチを目的に入ったお店で、俺は本人に直接聞くことにした。


 だが、当の本人は何も喋ってくれない。

 これはどうしたものか。態度には出さないが俺の頭の中では緊急会議が開かれ、参加者全員が頭を抱えていた。


 彼女は運ばれてきたメロンソーダを不機嫌そうに啜っている。

 今まで付き合ってきてそれなりになるけど、こんなことは今回が初めてだ。

 彼女は俺が何かやらかしてもいつも笑って許してくれた。そんな優しい彼女に甘えすぎていた自覚はある。もしかして、そのことなのだろうか。


「ねえ」


「お、おう」


 急な彼女からの問いかけにドキリと心臓が跳ね上がる。


「一週間前、何してたの?」


「一週間前?えーっと、バイトしてたよ」


 何で急にそんなこと聞くんだ?ここ一カ月はバイトのシフトを増やしてて、それで今まで忙しくて会えなかったのに。


「嘘。だって私、見たよ。君が女の人と一緒に歩いてるの」


「は?いやいや、そんなわけ」


「……」


 彼女は目を合わせず、じっとコップについた水滴を眺めている。


「いや、本当にそんなこと……あ」


「やっぱり、そうだったんだ」


「違う、違う!!あれはそういうんじゃなくてっ」


「いいから!」


 彼女は大きな声をあげて、俺の話を遮る。


「そういうの、いいから。本当のこと、言ってよ」


 彼女は俯き、肩を震わせていた。

 ここまでくれば鈍感な俺でもわかる。

 彼女は、俺が浮気をしたと思っているのだ。

 本当は当日まで秘密にしていたかったが、彼女をこんなにも不安にさせてしまったのだ。言うしかない。


「記念日、もうそろそろだったろ?だからそのプレゼント選んでたんだ」


「プレ、ゼント」


 彼女は目を丸くして俺を見る。一カ月ぶりに目が合った瞬間だった。


「うん、だからここ最近バイト増やしてたんだ」


「じゃあ、一緒に居た女の人は」


「姉さんだな。プレゼント選びのアドバイスを貰ってたんだ」


「そ、っか。そうだったんだ」


 俺の話を聞き終わると彼女は全身の力を脱力させ、ため息をついた。

 誤解が解けたみたいでよかった。俺も同じように息をつく。


「ごめんね。今日、感じ悪かったよね」


 彼女はぽつりとこぼすと、この一カ月のことを話してくれた。

 会えなかったのが寂しかったこと、そんな時に俺が女の人と一緒に歩いているのを見て不安になってしまったこと、俺のことを信じきれなかった罪悪感のこと。


 ひとしきり話し終えると、彼女はひどく落ち込みながら謝った。

 俺も寂しくさせてごめん、と謝って、二人して笑いあった。


 まるでいつもの俺たちと反対だ。

 これから先も、こんなことが何度もあるのだろう。

 許して、許されて。嫉妬して、泣きあって、笑いあって。

 この積み重ねが俺たちの仲をより強固にしていく。

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