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6. 佐野さんはチート能力を手に入れる。業務編

やや設定説明回気味です。


『では、まずは先程も少し触れましたがお二人が共有することになるシステムについてご説明させて頂きます。説明を始める前にスマホを出して頂いてもよろしいでしょうか?』


 パチンコの女神に促され、自身のスマホを取り出して改めて確認する2人。


「スマホですか?あっ、ホントにちゃんと電波入ってますね。」


「えっ?あっ本当だ。さっきここに着いた時には電波入ってなかったのに。佐野さん、どゆこと?」


 川口くんの反応を見て、パチンコの女神は佐野さんのスマホと同じ処置を施したという説明をした。

 その話を聞いて、もう既にそれだけで立派なチートなんじゃないかと思う川口くんであった。


『では、まずスマホのホーム画面に【ホールメイカー】というアプリがあることを確認して下さい。』


「【ホールメイカー】?えーっと、あっ、ありましたありました。川口くんはどう?」


「ちょっと待って…、ああ、あったあった。…あのー、そう言えばこれって他のゲームのアプリとかって出来るんですか?」


「あっ、やっぱそれ気になる?」


 自分達の今後に関わる大事なアプリの話よりも、ソシャゲのログインが途切れることが気になる残念な川口くん。

 そして、それに対するパチンコの女神からの回答は無慈悲なものであった。


『残念ながら、元の世界とのコンタクトが図れれる可能性のあるゲーム等のアプリケーションに関しては使用不可となっております。』


「マジですか!?いやでも、ゲーム内チャットとか無いゲームも結構ありますよ!」


 しかし、それでも引き下がれない川口くん。

 何故なら馬並みな美少女達のレースはまだまだこれから始まったばかりなのだから。

 でなければスタートダッシュで課金した意味が無くなってしまうのだ。


『プレイヤー名が設定出来る時点で何かしらのメッセージを送ることは可能になりますからね。ゲーム内でのフレンド欄やギルド系コンテンツ、スコアボード、ランキング表示、トレード等、可能性は挙げればキリが有りません。逆に完全オフラインのゲーム等なら使用可能です。買切りゲームなら引き続きお楽しみ頂いても構いません。』


「うわっ、それこの世界に転移したこと軽く後悔するレベルだわ。ストーリーの続きとかが気になる所の騒ぎじゃねーよ。」


 様々なソシャゲにどっぷりとのめり込んでいた川口くんとしては中々受け入れがたい事態であった。

 それ程ソシャゲには興味がない佐野さんは、項垂れている川口くんをスルーして別方面からの質問をする。


「音楽とか動画に関しては、どうなんですか?」


『そちらに関しては、既にダウンロード済みのものはこれまで通りに使用可能です。また新規にダウンロードすることも可能です。課金方法に関しては、また後でシステムの説明と纏めてご説明させて頂きます。無料で視聴できるコンテンツに関してもこれまで同様視聴のみ可能になります。但し、評価等やコメント等は勿論することは出来ません。』


「なるほど、ダウンロード済みのもの以外にも新規でダウンロード出来るのは助かりますね。」


 川口くんの落ち込み具合に対して、佐野さんは安堵の表情を浮かべる。

 佐野さんと音楽は切っても切り離せない存在なのだ。

 スマホに保存されている大量の楽曲が失われるどころか更に追加する事も可能と知って、心に余裕の出来た佐野さんは川口くんに一つアドバイスをするのだった。


「まあ、川口くん。ここは落ち込んでもどうにもならないんだから仕方ないっしょ。それに動画は見れるんだからプレイ動画とかでストーリー追えばいいじゃんか。」


「…あっ、そう言われてみればそうか。あれ?ということは、新規の動画とか音楽とかも随時更新されていくんですか?」


 佐野さんから齎されたアドバイスにガバッと擬音が聞こえて来そうな勢いで顔を上げる川口くん。


『はい、転移した時点からリアルタイムで日々更新されていきます。』


「ということは、アニメや漫画の続きも?」


『閲覧可能です。』


「ヒュゥゥー!!」


 パチンコの女神の回答に思わず色めき立つ川口くん。


「マジかっ、神ですか!?」


『はい、神です。』


「おお、そうだった。…すみません、何だか興奮してしまいました。」


 興奮の余り思わずパチンコの女神をハグしそうになる勢いだった川口くんは、何とか冷静さを取り戻す。

 それをまるで気にすることなく説明を再開するパチンコの女神。

 というか、脱線が多過ぎるなこの三人組。


『疑問が解消されたようなので話を戻しますが、この【ホールメイカー】というアプリの名前を見て頂いてわかる通りお二人にはこれからこの世界でパチンコ店の運営をしながらパチンコ、スロットの布教に勤めて貰いたいと思います。』


「パチンコ店の運営ですか?」


「俺達、店舗経営の経験とかないですけど大丈夫ですか?」


 何やら思っていた異世界ファンタジーとは感じが違うことに不安とまではいかないが幾分か訝しげな表情を浮かべる佐野さんと川口くん。


『お二人が不安を感じるのは、恐らく貴方達の世界で店舗経営をすることをベースに物事を想定しているからだと思います。確かに、日本でパチンコ店を開店して経営を軌道に乗せる為には物件探しに始まり、資金調達、施設整備、広報活動、人材育成など様々な準備が必要になります。』


「そうですよね。」


「1から見知らぬ土地で店舗運営とか正直無理ゲーじゃね?」


 やっぱり不安が勝つなと顔を見合わせる2人。


『通常ならばそうでしょう。ですが、今回は神からの依頼です。人材、広報、運営費以外の初期投資に関わるほぼ全てのリソースはこちらで準備しております。勿論、当面の運営資金等も含めてです。』


「それは、随時と大盤振る舞いですね。」


 想像よりも遥かに手厚い待遇に二人は目を見張る。

 そんなことは反応の変化は意に返さず、パチンコの女神はさも当然とばかり話を進めていく。


『私としてはパチンコ、スロットが世の中に浸透しさえすればいいのです。それに神にとって即物的な要素を用意することなどは容易いものです。極論ですが物資的に解決する問題ならば如何様にも出来ます。』


「如何様にも、ですか。」


「はー、そりゃすげーな。流石神様。」


 二人は神様という超常の存在のスケールのデカさを実感して改めて溜息が出る。


『しかし、人々の心情や文化、流行などの人の営みの中で産み出されていく価値観というものは、神々の力が及ぶところではないのです。勿論神託のように直接言葉を伝えることも出来なくはないですが、結局それをどう受け取るのかは受け取る側の価値観に左右されることになりますから。』


「なるほど、だから実際に神の意思を正しく汲んで実行する人間が必要だった訳ですね。」


「神託を受ける聖職者的な役割って事だな。」


「聖職者というには煩悩に塗れ過ぎだけどな。」


「違いねー。」


 ふざけながらもようやく今回の依頼の概要が掴めてきた二人に対して、パチンコの女神は満足気に頷く。


『そうです。そして、その依頼を果たす為のツールがこの【ホールメイカー】アプリとなります。先ずは、アプリを立ち上げて下さい。』


 その指示に従って二人はアプリを立ち上げる。

 トップ画面に表示されていたのは、



 ブランクになっている店舗名、

 ブランクになっている支店名、

 総パチカス数、

 本日の排出パチカス数、

 本日の消費パチカス数、

 パチカス交換一覧



 というものだった。

 各項目をタップすると次のページに詳細な項目の羅列がされていた。


 パチカスとは何だろう?とても心に突き刺さるものがあるんだが、まさか俺達の蔑称を指す単語なのだろうか?

 一瞬そう考えた佐野さんだったが、そうなると総パチカス数とか排出と消費の意味がよくわからない。

 川口くんも同じ考えに至ったようで二人はアイコンタクトを交わすとパチンコの女神に話を切り出した。


「このパチ()カスって言うのは、佐野さんの事ですか?」


「別に否定はしないけど、それなら川口くんはパチ()カスゴミクズクソニート野郎だな。」


「わーい、一個の悪口が4倍位になって返ってきたのに全く否定出来ないとか、軽く死にたくなってきたわ。」


 悪口の豪速球を受けて、項垂れるように崩れ落ちる川口くん。

 そしてもう二人のやり取りに慣れたのか、そんな川口くんを気にする事なくパチンコの女神は説明を開始した。


『ああ、そちらの説明がまだでしたね。パチカスというのはこの地域の通貨の単位です。折角パチンコ、スロットを広く世に広めるのだからちょっと洒落をきかせてみました。数ある世界の通貨の中から結構探したんですよ。お気に召しませんでしたか?』


「なるほど、直接的な誹謗中傷かと思いましたよ。」


 やり切ったような笑顔を浮かべるパチンコの女神に、何故ベストを尽くしたのかと問いかけたかったが、佐野さんは諦めてスルーすることにした。

 実際ちょっと面白いなと思ってしまったのも事実だった。


「だとすれば、総パチカス数というのは総資産のことで消費パチカス数もそのままのことだと思うんですけど、排出パチカス数って一体何なんですか?」


『そう、その排出パチカス数というのがお二人にとっても今回の依頼にとっても最重要ポイントになります。』


 パチンコの女神の言葉にどうやらここからが本題のようだと二人は話を聞く姿勢を正す。


『今回の依頼の達成度を測る上で何を基準とすればいいのか検討重ねた結果、総出玉数で評価を下すことにしました。』


「「総出玉数?」」


『来店者数や稼働率、店舗の売上高など色々な評価基準を考えてみました。しかし、来店したからといって遊技自体が短い時間の場合はどうするのかとか、稼働率といっても平均値を取る以上は例えば一つの台が一日中稼働していればそれで平均値が大きく上がってしまうので普及率と考えるとどうなのかとか。売上高に関しても高レートで数人の大負けがいればそれである一定の水準は賄えてしまうとか等ね。』


「なるほど、それで何故総出玉数ということになったんですか?」


 一つパチンコを広めるだけといっても女神様は色々考えているのだなっと佐野さんは感心するのであった。


『一番シンプルにパチンコ、スロットが稼働していることを表す状況は、パチンコであればヘソ(筐体の中央下にある穴のことでそこに玉が入ると抽選が始まる)に玉が入賞して出玉が排出されること。スロットであれば役(三つの図柄が揃うこと)が揃うことでメダルが排出されることと判断しました。』


「確かにそれは確実な数値としてわかりやすいですかね。」


『排出されたパチンコの出玉一個を1パチカス、メダル一枚を5パチカスと換算して計算します。稼いだパチカスはパチカス交換一覧で様々な商品と交換出来ることになります。レートとしては1パチカスを日本円で1円換算して(要するに1円パチンコ5円スロット換算)、それを日本と同じレートで商品と交換する形になります。』


 ルールは納得して理解した佐野さんであったが、一つの疑問が湧いてくる。


「それだと客の方がぼろ儲けしないとパチカスが沢山稼げないことになりませんか?それで店舗の経営が赤字になってしまったりしたらどうなるんですか?やっぱりペナルティーとかってあるんですかね?」


『何を持って赤字になると考えているのですか?』


 佐野さんの質問に対して、何か含みがあるような返しをするパチンコの女神。

 そのともすれば相手から道理のわからない子供を相手にしているような雰囲気を感じて佐野さんの口調が少し強くなる。


「いや、だからですね。出玉が沢山出る程こちらはそれに見合う景品を出さなければならないんだから、必然的に勝つ人間が増える程赤字になるじゃないですか?」


『そもそも、出玉に見合う景品というのはどう判断するのですか?』


「それは、このパチカス交換一覧に沿ってじゃないですか?」


『それはあくまで出玉と交換する景品のレートの、つまりはシステム上の話ではないですか?何を景品として出すかは、店舗経営者次第だと思うのですが。』


 パチンコの女神は自分で何かに気づかせようとしているか、持って回ったような言い回しを続ける。

 ちなみに川口くんは大分前から会話に入れそうにないと自覚しているので黙っている。


「パチカス交換一覧から景品を出すことには変わらないじゃないですか。」


『では、切り口を変えましょうか。この世界は中世ヨーロッパ程度の文化レベルだと先程お伝えしましたよね。』


「それが何か?」


『砂糖などの精製技術が確立されておらず、甘味に乏しい世界観で現代日本で生産された完成度の高いお菓子が果たして額面通りの価値なのでしょうか?』


「あっ!」


 やっとパチンコの女神の言いたいことが理解出来て、思わず間抜けな声が出てしまった佐野さんであった。

 その様子を見て川口くんが説明を求める。


「んっ?つまり、どういうこと?」


「簡単にいうと砂漠で水が貴重なのと同じように甘いものが貴重なこの世界では、一箱100円のチョコレートが金塊にも変わるって話だよ。」


「マジかよ!?何だよその錬金術。」


「これで俺達も国家錬金術師の仲間入りって訳さ。二つ名はパチンコ玉から連想して鉄。鉄の錬金術師だ。金を失うと書いて鉄だ!」


「何か、俺達にピッタリ過ぎて泣けてくるな。」


『さて、この話はここまでにしてこれ以上はご自身達で試行錯誤してみて下さいね。』


「ええ、ありがとうございます。色々考えて試してみますよ。」


 佐野さんと川口くんは、ようやく依頼攻略の糸口が少し見えてホッと一息つくのであった。



お読み頂いてありがとうございました。

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