24.ゲルゼさんは裁かれる。
「あっ、すっかり忘れてたね。彼女、ゲルゼ・ブラディオルなんちゃらさんだっけ?これはどうすんの?」
ぐるぐると簀巻き状態にされたゲルゼを見て今まで完全に彼女の事を忘れて雑談に興じていた事に気付いた川口くんは、間抜けな声を上げた。
「何故にそこまで覚えてて後スの一文字が出てこないんだよ。はぁ、…まあそこは俺達の管轄じゃないなんだからお任せするだけでしょう。」
『そうですね、高尾一子さんという懸念材料も無くなった事ですのでさっさと裁きを下してしまいましょうか。』
佐野さんがそこまで話して視線をパチンコの女神に向けると、パチンコの女神は徐にゲルゼに近付き右腕をゲルゼに向けて伸ばした。
すると伸ばされた右の掌が強い光を放ち、その光がゲルゼに向かって伸びていくと次第にその全身を包み込んでいった。
『まずは不当な手段を用いて手に入れたその力を全て没収します。』
『ッ!?』
パチンコの女神の通告に対して何か反論をしようとしていたゲルゼだったが、猿轡を噛まされた状況ではまともに言葉を紡ぐ事が出来ず、只々身体を捩りながらパチンコの女神を睨み付ける事しか出来ない。
「なあ、何かどんどん縮んでいってない?」
「ホントだね、縮んでるって言うかどっちかって言うと萎んでるって感じだね。特に胸とかお尻とかがさ。」
ゲルゼはパチンコの女神に溜め込んだ力を吸い取られていき、次第に元の姿へと戻っていく。
パチンコの女神の右手から光が消えた頃には、さっきまでの妖艶な姿とは打って変わって12、3歳くらいの華奢な女の子の姿になっていた。
ゲルゼの身体が一気に縮んだせいで先程までの豊満なボディーに支えられていた衣類達がストンっと外れて危うくスッポンポンになってしまいそうになったが、それを見た一子が慌ててさっきまで自分が借りていた佐野さんのスーツのジャケットをかけてあげようと近く。
『…礼は言わないからな。』
「別にそんなつもりでした訳じゃありませんから必要ありません。私自身のモラル的な問題ですから。」
『ふん。』
一子からジャケットを引ったくるように奪い、身体を包むゲルゼ。
身体小さくなったことでゲルゼの猿轡もとれてしまったので、態々ジャケットをかけてくれようとした一子に対してもゲルゼは不貞腐れた様子で悪態をつく。
一方、一子はそんなゲルゼの悪態を全く取り合うつもりがないようであっさりと切り捨てる。
かつての一手駒でしかなかった一子にすらそんな態度を取られてまなす術のないゲルゼはそっぽを向いて黙り込むのだった。
「川口くん、何かモラルの話をしてるっぽいよ。」
「いや、俺は性癖的には断然巨乳派だから別にツルペタ幼女をそういった目で見たりしないよ。キリッ。」
「別にキリッとした風の顔でそんなこと自信満々に言われても格好付かないよ。あと別にキリッっとか擬音を自分で発しなくても大丈夫だから。…でも、ここまで幼くなると高尾さんと顔付きが少し違ってくるね。」
改めて小さくなったゲルゼを見て、今までの姿とのギャップを感じながらしみじみと佐野さんが感想を述べる。
「確かに。年の離れた妹って感じだな。いや、ギリ娘でも通りそうだな。」
「いやですよ、未婚の母なんて。でも最初に出会った時はもう少し年上の感じでしたけど、今の姿が本当の姿なんですね。」
『そうです。この姿が邪神ゲルゼ・ブラディオルスの真の姿になります。』
『私は邪神じゃないわ!』
邪神という呼ばれ方が気に障ったのか、ゲルゼは条件反射のように立ち上がってパチンコの女神に抗議の声を上げる。
しかし、その抗議の言葉をパチンコの女神はバッサリと切り捨てる。
『いいえ、貴方は神々のルールを破り私利私欲の為に高尾さんを拉致して彼女とって尊厳を傷付けられるような不本意な労働を強いました。また邪な手段を用いてこの地の人間を拐かし、更なる力を得ようと画策していましたね。』
『ふん、神なんだから信者を集めて自分の力を高めようとすることの何が問題なのよ。貴女だって同じような事してるじゃない。何で私だけ罰を受けなきゃいけないのよ!』
パチンコの女神の断罪の言葉にまだまだ反抗的なゲルゼ。
その様は妖艶な美女の姿から打って変わり、その幼い姿となってしまった今ではもう只の駄々をこねている子供にしか見えない。
『貴女にはその権限が無いからです。貴女のような未成熟な神に世界を越える権限は与えられていません。只それだけの話です。神としての格の問題と言ってもいいでしょう。』
『大体何なのよ、格とか権限とかってさ。そもそも私は神なんかになりたくなかったのよ!ずっと虐げられながら生きてきてやっと死ねたと思ったら、今度は神として永遠に縛り付けられて、私が一体何をしたって言うのよ!』
『生前の不遇な境遇を嘆き被害者振るのは勝手ですが、それは今回の件とは全く関係がありません。何をしたか、でしたか?異世界から人一人拐ってきた挙句に一年も軟禁状態にしておいて何もしていないというのは筋が通らないのではないでしょうか?一年もの間、貴女の身勝手な都合に巻き込まれて不自由な思いをした高尾さんに対して、それでも貴女は自分が無実であると胸を張って主張することが出来るのですか?』
『グッ、』
パチンコの女神が一子を指し示しながらゲルゼの主張をキッパリと跳ね除ける。
その言葉を聞いてゲルゼは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、一子から視線を外して黙り込んだ。
その態度を否定的に受け取ったパチンコの女神は更に言葉を続けようと口を開く。
『そもそも、』
「まあまあ、女神様。あんまり小さな女の子が理詰めで追い込まれる所は見ていて楽しいものじゃないからその辺でいいんじゃないですかね?」
「あれ?佐野さん、ゲルゼ派?」
「いや、こんなとこに派閥とかないから。罪状認否はその辺にして不当に手に入れた力を奪って、それで裁きは終わりなんですか?」
何やら悲しい過去編を持っていそうなゲルゼを少し不憫に思った佐野さんは、パチンコの女神から追及に対して助け船を出してあげることにした。
ゲルゼはそれを体勢を変えることなく俯いたまま聞いていた。
『そうですね。高尾さん、貴女はどのような罰を与えるのが良いと思われますか?』
「えっ?」
パチンコの女神に突然話を振ってこられて戸惑いの声を上げる一子。
『今回の被害者は貴女ですから、意見を聞かせて下さい。』
「私が決めるんですか?」
『求刑は被害者側からの主張を最大限考慮させて頂きます。何もご希望がないようでしたらこちらのルールで裁きを下してしまいます。』
「私の希望ですか…」
一子は視線を少し下げ、パチンコの女神の言葉を反芻するように考え込むような形で俯く。
すると視線の先に同じように俯く小さな女の子の姿が目に入ってきた。
その俯いた姿は実際の姿形よりも小さく感じられ、気が付くと一子はゲルゼに話し掛けていた。
「そもそも、貴女は何がしたかったの?」
『………』
しかし、そんな一子の問いかけに対してゲルゼは何の反応も示さなかった。
でも、一子はこのままゲルゼの事を何も知らないまま裁きを下す事が出来なかった。
だからそこで呼び掛けることを止めず、言葉を続ける。
「貴女にだって何か望みはあるんでしょ?じゃなきゃルール違反をしてまでこんな事はしなかった筈でしょ?」
『…もう、どうでもいいのよ。』
一子の再度の呼び掛けに対して、ゲルゼは視線を合わせることなく俯いたまま吐き捨てるように答えた。
正直、一子にとってゲルゼという存在は忌むべき対象である事は間違いない。
このまま何をせずに消えてしまったとしても同情の余地はない筈なのだが、…人間の感情というものはそんなに単純には出来てはいないようだ。
「このままだと貴女は何も出来ずに消えてしまうかもしれないのよ。何か言いたい事とかはないの?」
『………』
ゲルゼは何も答えない。
しかしもう一子には、この自分の面影を持つ小さな女の子を放っておく事が出来なくなっていたのだった。
だから、諦めずに問いかけるのであった。
「確かに私に出来ることなんて何も無いかもしれないけど、でもそうじゃない可能性だってあると思うの。」
『………』
「貴女の話を聞かせてくれない?」
『っ…!?』
そう言うと一子はゲルゼの両肩に手を掛け、身体を自身に正対させるように促すとその眼をしっかりと見つめるのだった。
その一子の力強く、且つ優しさを秘めた眼差しにゲルゼは思わず口を開き掛ける。
…が、その口から言葉が紡がれる事は無くゲルゼは視線を振り切りまた顔を伏せてしまうのであった。
一同に沈黙が流れる。
「うーん、話が聞けないならこっちからはどうする事も出来ないよな。」
「あれ?川口くん、意外とドライだね。」
「ドライって言うか、こう頑なになられるとこれ以上問いかけるのも悪手って言うかね。意固地になって余計に話さなくなっちゃうんじゃない?」
「ああ、それはあるな。…女神様は何か良い手段とか持ってませんか?」
どうにも重くなってしまった空気を紛らわそうとたわいもない話を始めた佐野さんと川口くんであったが、やはり状況を好転させるアイデアなど簡単には出てこなかった。
佐野さんがとりあえず特に意味も無く、何となく会話の流れでパチンコの女神に話を振ってみたところ話が動き始める。
「いや、佐野さん。その判断はどうだろうね。女神様もそんな事を尋ねられてもさあ、」
『幾つか方法はございますよ。』
「あるんだってさ、流っ石神様だぜ。」
「綺麗な手のひら返しだったね。それでどんな方法があるんですか?」
『そうですね…。ここはやはり彼女の記憶をご覧になるのが一番分かりやすいかもしれませんね。』
『なっ!?』
パチンコの女神の口から飛び出した言葉を聞いてゲルゼは勢いよく顔を上げる。
そして、その勢いのまま立ち上がるとパチンコの女神に対して抗議の言葉を口にするのだったが、突然目の前出現した異物に驚いて中断させられてしまう。
『何の権利があって私の、ってこれは一体何なのよ!?』
「佐野さん、何か急にスゲーデカいテレビとかスゲー高級そうなソファーが現れたんだけど。ってか森の中の地面に直置きの応接セットってめっちゃシュールだな。」
『皆様に寛いでご鑑賞頂けるようにと少しばかりの心尽しで御座います。』
ゲルゼの抗議など全く意に介せず、自身満々に自らが用意した品々を佐野さん達一同に説明するパチンコの女神。
「うーん、グランピング的な感じで捉えるとあんまり違和感ない、…訳ないな。…おっ、川口くん、このソファーめっちゃ座り心地いいよ。」
「おっ、ホントだ。これマジでいいな。ほら、いちごちゃんもこっちおいでよ。」
突然目の前に現れた高級家具や家電に最初は面食らっていた佐野さんと川口くんであったが次第に調子を取り戻していく。
佐野さんに促されてソファーに腰掛けた川口くんも一子に呼び掛けながら、既に満足気にその座り心地を確かめている。
「え?ええ、あのー、さっきまでの私達のシリアス目なやり取りとかは…。いえ、何でもありません。」
「あっ、今からこのデカいテレビで何か観るんでしょ?だったら飲み物とか軽く摘める物があった方が良くない?ちょっと待ってね。えーと佐野さん、お茶かジュースどっちがいい?それともコーヒーとか?ああ、アルコールでも悪くないな。」
川口くんがスマホを取り出してパチカス交換一覧を見ながら、佐野さんに問いかける。
「いや、重い話だった時の事を考えてアルコールはやめとこうぜ。じゃあ、俺はアイスコーヒーにしようかな。」
「なるへそね。じゃあ、俺もコーヒーでいいか。眠くなるといけないし。いちごちゃんはどうする?」
「えっ?私ですか?…じゃあ、アイスカフェオレで。あっ、ガムシロは二つ下さい。」
「おい川口、妾は甘いものを頼んだぞ。ほれ、お主もそんなところで突っ立っておらんとさっさと座らぬか。観難いであろうが。」
いつの間にかソファーに腰掛けて興味津々といった感じでテレビなどの家電を観察しながら、リンがソファーで寛いでいた。
そして、状況についていけずテレビの前で呆然としていたゲルゼを自分の横に無理矢理引っ張ってきて座らせる。
『いや、私は、』
「ゲルゼたんもリンと一緒でココアでいいかな?」
『ゲルゼたん!?』
『では、過去篇スタートです。』
『ちょっ、ちょっと、ちゃんと私の話を聞きなさいよ!!』
という訳でゲルゼの過去篇に続く。
…ゲルゼ本人の意思は無関係に。
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