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1.プロローグ


「ふぃー、今日も良い天気だなぁ。」



 白いワイシャツに黒ベスト、黒のスラックスに革靴といった所謂レストラン等のボーイのような出立ちをした男が太陽の光を浴びながら両腕を頭上に伸ばし、小鳥の囀りを心地よく楽しみながら軽いストレッチをしている。

 その姿はパッと見、日光浴の様にも見受けられるがよくよく男の表情を観察してみると何か見たくない現実から目を逸らしているようにも見受けられる。

 そう、それは正に現実逃避というものであった。


 何故なら男の爽やかな昼下がりを演出する小鳥の囀りを掻き消すかのように、背後からは()()()()()()や金属製の玉が()()()()()()とぶつかり合う音、果てには怨嗟のような怒号が彼方此方から響いて来ている。

 そんな遠くを見つめている男の背後から同じように何処か遠い目をした同僚の男が声を掛けてきた。


「佐野さん、何たら公国の公爵とか名乗ってる人が大負けした支払いを馬鹿デカい宝石の付いたアクセサリーでお願いしたいとか言ってるんだけど、どうしよう?そんでもってその公爵の後ろでお付きっぽい人が『国宝が、国宝が、』って言ってるし、何か俺もう怖いんだけど!?」


 佐野さんと呼ばれた男は、その内容を吟味して一瞬無視しようかとも考えたが、…考えたが結局は避けては通れない道である事をよく理解しているので諦めて声を掛けてきた同僚の男に振り返る。

 そして、何か指示をしようとした矢先に今度は別の女性の同僚がその場に駆け込んで来た。


「あのっ、ドワーフ国の国王が聖剣を質に入れたいって言ってるんですけど…、どうしたらいいですか?」


「なっ!?あのおっさん、またそんな事言ってんのかよ。だから、あれ程のめり込み過ぎには注意だって言ったのに。てゆーか、国王が気軽にそんな頻繁に来るなよなぁ。」


 新たに持ち込まれた報告に頭を抱える佐野さん。

 しかし、厄介事はまだまだそれだけでは終わらなかった。


「あっ、今いいですか?エルフ帝国の宰相が何か内々に話があるとか言って来てるんですけど…」


「それと魔道国の元老院からもお手紙が来てまして…」


「あとすみません、ドラゴンさんがまた持ち金全部擦ったってホールで暴れてます…」


「だぁー!もう何なんだよ!何でそんな国賓級のVIPばっかなんだよ!てゆーか、最後のドラゴンが暴れてるって何だよ、ここはあれか?この世の終わりか何かなのか!?」


 次々と持ち込まれるトラブルに佐野さんは頭を抱えながら大声で悪態をつく。

 そんな佐野さんの心中を知ってか知らずか、同僚の男が佐野さんの肩に軽く手を乗せて慰めるように微笑み掛ける。


「乙w」


「いや、乙wじゃ済まされねーわ。ねぇ川口くん、どれか一つでもいいから俺の代わりに対処してよぉ。俺一人じゃ処理しきれないよぉ…」


 同僚の男こと川口くんから揶揄うように乗せられた手を不貞腐れた表情を浮かべながら肩から払い退け、佐野さんは愚痴をこぼす。

 何でこんな事になってんだ?

 もっとお気楽ワクワクのファンタジー異世界ライフが待ってた筈だったのに、どうしてこんな異世界オーバーワーク社畜に転生する事になっちまったんだよ。

 

「そりゃあ、肩書き上は一応佐野さんがこの国の国王だからじゃない?」


「…、あれ?声に出てた?俺の心の叫び?」


「うん、丸聞こえだったよ。まあ、仕方なかったとはいえ国が出来ちゃってるだからもう後戻りは出来んわな。大人しく諦めなよ。」


「だよなぁ…、はぁ…」



 そう、俺は異世界転移をして来たこの世界で国王になったのだった。

 …只、パチンコ屋を開いただけなのに。

 


お読み頂いてありがとうございました。

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