あのね、前世で何か悪いことしたのかな?
私は、転生者である。
ただ、記憶はおぼろげで、今世で役に立ったことなど何一つない。
何一つないが、前世の私よ、一体何をした!?
ハッキリ言って、いたれりつくせりの超勝ち組コースに、生まれているんですけど。
母親はいないけれど、父親がね、美中年の侯爵様。
貴族の生まれなのに父は、黄金の錬金術師と呼ばれるぐらい、商売の天才。まさに、無から有をうみだすがごとし、ザクザクお金をもうける。おかげで私は、贅沢三昧。
贅沢三昧、しないけど。
できないけど。
だって、前世は身の丈にあった生活をしていた一般人だったんだよ!?
ドレスや靴やお飾りが収納された広い部屋が、何十部屋もある生活なんて。
博物館に展示されているような、豪華絢爛な宝石を身につける生活なんて。
使用人に、頭の天辺から足の爪先まで世話されて、お尻のフキフキまでされる生活なんて。
やだよー。
息がつまるよー。
寝ている間も、護衛名目で使用人が、部屋の四隅に待機しているんだよ。
一人の時間がほしいよー。
心配症の父が、許さないけど。
うん、問題は父なんだよ。
侯爵家、超お金持ち、美少女な私。こわいぐらいの三拍子そろって、しかも、一人娘だから、縁談がくるくる。もう、山積み。その中から、父が選びに選んだ婚約者が、過去に10人。
ロイ様、キリアン様、ユーベルト様、ライアン様、ナイジェル様、セスク様、ジョナサン様、アリエス様、コリー様、アレックス様。
皆様、優秀で、お美しかった。
皆様、貴族社会から、キレイサッパリ消去されてしまったけれど。
どうして、浮気をするのかな!?
10人もいて、10人が全員、浮気をしたんだよ。なかには、媚薬をもられた人もいたけれど。
父曰く。
「貴族たる者、ハニートラップをかわせて当たり前」
とは言うものの、潰しあって、父のふるいにかけられて、最後は天罰が下って社会から抹殺、って貴族コワスギル。
天罰。
この世界では、神様は神殿にお住まいなのだ。
ものすごく、ものすごく高額だけれども、神様と契約もできる。
過去の婚約者たちは、全員、神殿で神前契約をした。
浮気はダメだよ、って。
神様の前で誓ったんだよ。
病める時も健やかなる時も、って結婚の誓いをしたのに、浮気が多発する前世の軽い誓いではないんだよ。
ガラガラピッシャーンって天罰が下る、重い、重い、重すぎる誓いを、皆様、理解していなかったのかな!?
父はホイホイしていたが、高額すぎて、100年に1人ぐらいしか神前契約をする人がいないから、って。皆、神罰を目にするのは、はじめてだったらしいけど、神罰体験ツアーではないんだよ、10人も、って。
神様の目は、ごまかせないんだよ。
父の目も。
父のお金の力は、プライベートを丸裸にできるんだから。何日の何時何分の行動まで、把握しているんだから。
「可愛い娘。今日の11時55分にくしゃみを2回しただろう?体が心配だ。はやく寝なさい」
帰ってきた父に、そう言われた時、私は飲んでいた紅茶をふきだしたわ。
「可愛い娘。便の色がすこし悪い。医者を呼ぼう」
そう言われた時の、私の気持ちがわかる!?
使用人は、みんな敵だ。
もしかすると、屋根裏にだってベッドの下にだって、潜んでいる可能性がある。たぶん、きっと、絶対にいる。
だって、ちょっとだけ家出をしようとしたこともあったけれど、屋敷から一歩すら出ることもできなかった。鉄壁の監視体制だった。
今日は、11人目の婚約者ができたけれど。
例のごとく、神殿に行って。
血色のいい神官たちが、揉み手をして、父に笑顔を向けていたわ。
上得意様だもの。
神殿も、年々豪華になっているし。
ああ、11人目様。
智に優れ、武に優れ、凛々しい容姿の11人目様。
父に、便の色まで管理され、神経を病んだ3人目のユーベルト様のように。
父に、下剤をもられ、パーティーで失敗してしまった5人目のナイジェル様のように。
父に、媚薬をもられ、男と部屋に放り込まれ、アーッとなってしまった7人目のジョナサン様のように。
どうか、どうか、父に負けないで。
せっかく美少女にうまれたからには、一度ぐらい恋愛をしてみたいのです。
と思っていたけれど。
この11人目様、ただ者ではない。今までの婚約者とは、ちがいすぎる。父と対等以上にやりあって、負けるどころか勝ってしまう。
ぐぬぬ、って父を唸らすなんて、魔王なの!?
だって、国王陛下ですら、ヘコヘコ頭を下げさせる父なのよ。
ちょっとだけ、バラ色の未来を想像したけれど。
ついに、恋愛ルートに突入って。
でも、でも、11人目様は、鬼畜ヤンデレ臭が・・・っ!
逃げ出せないように、手足を切り落とし、監禁エンドまっしぐらな予感が・・・っ!
何故、何故、具体的なイメージが頭にあるの!?
前世の私よ。一体何をしたの?
父は、問題だし。
11人目様は、もっと大問題だし。
私、勝ち組にうまれたはずなのに。
まだ、13歳なのに。
お先真っ暗だよう・・・ぴぇん。