第一話 お願いします! 4
こんにちは。
第一話の「4」になります。
第一話は執筆が終了したんですが、現在こちらは執筆休止中です。
しかし、復帰は必ずいたしますので、ご安心下さい。
ただ、後書きに載せた目標は達成し続けられるかどうかは微妙なラインですけれども(苦笑)
これからもよろしくお願いします。
夏目ちゃんと合流して、もう一度潜入を試みる様な事を言われたけど、僕は全力で否定し、彼女と別れることにした。
「はぁ・・・」
あの時転んだからか、ブラウスもスカートも泥だらけ。
最近雨が降っていなかったおかげで、無惨な程汚れてはいないけど。それでも、何度払っても、綺麗にはなってくれない。
「痛っ!?」
膝のあたりを気にしつつ歩いていると、ズキンとした痛みに顔が歪む。
何事かと見てみると、そこから血が流れていた。
「あの時、転んだ拍子だ」
でも、なんで今になって痛みに気づいたんだろう。
暗くなり、街灯の下を歩きながら、痛みに涙が流れそうになる。
ダメだ。
私の取り柄は『笑顔』だったはずなのに、全然笑顔になれない。
怖さ、痛さ、不甲斐なさ。
そんな負のプレッシャーに押し潰されそうになりながら、ようやく自宅が見えてきた。
「ただいま」
「おっかえりー!!!」
パーン、パパーン
ホームパーティーで使う様なクラッカーが、リビング全体に響いた。
紙片や紙テープが舞い、僕の頭にその一部がはらり。
「天音ちゃぁーん、おっかえりー!!!」
今度は、お母さんが向かってきて、僕を思い切り抱きついてきた。
「お、お母さん」
戸惑う僕を尻目に、お母さんの頬が僕の頬にこすり付けてくる。
「天音ちゃんの肌、すべすべですっごくキレイねぇ」
お母さんそっくり。
そんな事を言いながら、お母さんの両腕に収まり続ける僕も、正直満更でもない。
でも・・・
「お母さん、汚れるよ」
「んー、良いの。お母さんがこうしたいんだから」
すりすり。
それがすごくこそばゆい。
五分ほど抱きしめられて離れると、制服の汚れにようやく気付いたお母さんは叫ぶようにその部位を指摘しだした。
「転んじゃった・・・」
「なんで? どうして!?」
「あ・・・えっと・・・」
あんな事言っても、信じてもらえないよね・・・
それに、寄り道したことも話してしまうと、何を言われるのかわからない。
スーパー、コンビニ、ショッピングモール。そういうのだとお母さんも多少は汲んでくれるんだけど、神社となると何を言われるか。
「ボーっと歩いてたら、出っ張りに足引っかけちゃって」
あはは、と乾いた笑いを見せるのが精一杯。
当のお母さんはそんな私を見てため息一つで済ませてくれた。
「ちゃんと前見ないとダメよ。大けがになったら大変なんだから」
「大丈夫だよ」
うん、絶対大丈夫って言いきれる自信が、ほんの少しだけあった。
あの時、何かに乗り移られていたかのような程、意識は半分以上飛んでいたかもしれない中、あれだけ走って転んでも、膝の傷だけで済んでるんだもん。
そう考えると、ちょっとやそっとで大けがなんてしない気がした。
「あらら、膝も擦りむいちゃって。絆創膏用意するから、着替えておいで」
「はーい」
お母さんが背を向けて遠くへ行くのを見送ってから、僕も自分の部屋へ向かった。
トントントン、と普段なら軽快に階段を上るんだけど、今日は膝の痛みがあってか、手すりを頼りにゆっくりと上る。
部屋に入り、ゆっくりと制服を脱いでいく。
スカートを下ろす時に、傷にスカートが当たらないか細心の注意を払いながら部屋着に替えていく。
「はぁ・・・」
あの時の出来事が全然頭から離れない。
何回も何回も頭から振り払おうと、ギュッと目を瞑ったり、別の事を考えたりするんだけど、一瞬の隙を作ったと思えば、その負の出来事がゆっくりと滲み出るように蘇ってくる。
「・・・・・・」
多分。ううん、絶対と言って良いくらい、この事を誰かに言っても信じてはくれない。
せいぜい、神社の奥にそんな祠がある事くらいまで。
その祠から黒い炎が急に立ち上ってきて、なんて言ったら皆小馬鹿にしつつ大笑いされるのは火を見るより明か。
そう考えると、なんで夏目ちゃんとはぐれちゃったんだろう。
色んな事を考えてしまい、最終的に出てきたのは、大きな大きなため息だけだった。
「天音ちゃん、開けるわね」
部屋着に着替えた直後、部屋と廊下の間にある一枚の扉が、僕の答えを待つよりも早くに開く。
「絆創膏持ってきたわよー」
まるで僕が着替えを終えるのを見計らっていたかのようなタイミング。
とびきりの笑顔で渡してくれた絆創膏は、僕が思っていた以上に大きかった。
「お、お母さん。これ・・・」
「んー?」
「ちょっと、大きすぎるよ」
「いいの。大きい方が何かあったときでも大丈夫でしょ」
ほら、と絆創膏のテープをゆっくりと剥がし始めるお母さん。
「貼ってあげるから、そこに座って」
「い、いいよ。自分で貼れるから」
「気にしない、気にしない。親の真心はしっかりと受け止めておくのが子の努めというものよ」
肩にポンと手が置かれると、ゆっくりとベッドの傍へ誘導される。
肩から伝わるお母さんの手のひらが、すごく優しさに包まれていて心地よかったのは、言わないでおこう。
そんなお母さんを袖にするなんて事できない僕は、ゆっくりとベッドに腰を下ろした。
「ちょっとだけ、膝立ててくれない?」
「え?」
「お母さん、さっき腰やっちゃってね。ちょっとでも腰を曲げるだけで、ピキピキって来ちゃうのよ」
「え・・・えぇ・・・」
「ああ、でも大丈夫! いつもの事だから」
「いつもの事だから大丈夫なわけないよ!」
お母さん、時々腰を押さえながら食器とか持ち運んでいるのは、そのせいだったのかな。
ピキピキって、腰痛の中でも特に危険なんじゃないの。
そういうのには詳しくないからわからないけど、その音だけでなんだか変な気分になってしまう。
でも、それなら猶更僕が自分で貼れば良いんじゃないのかな・・・
それでも、チラッとお母さんの顔を上目で確認してみると、ンフフフフと聞こえてきそうな、興奮気味の顔があった。
聞かれない程度に吐息を一つ。
膝を立てると、お母さんが床に膝をつけて絆創膏を傷口にゆっくりと貼り付けた。
「痛くない?」
「うん、大丈夫」
逆に僕のほうが聞きたくなったのは内緒。
「ンフフフフフ・・・」
しかし、お母さんの笑みは消えないと同時に、だんだんと痛めているはずの腰を曲げ始めていた。
絆創膏はすでに貼り終えている。
それなら、何のためと考えていたけれど、お母さんの視線の先を追って、ようやくその笑みの理由がわかった。
「お母さん!?」
片膝を立てていた事で持ち上がっていたスカートを両手で抑える。
そんなことをした所為か御陰か。お母さんの表情が、下心のある笑みから、いつも見ているお母さんの笑顔に変わった。
「ダメよー。隠しちゃ」
「隠すよ! いくら家族でも、見せるのと見られるのとでは全然違うんだから」
「あらあら。でも、ご馳走様」
その一言で一気に顔が熱くなった。
そんな私を気にもとめず、足早に部屋から出ていくと、ゆっくりと扉を閉めて去っていった。
「・・・・・・」
時々やってくる、お母さんの悪ノリ。
ああいう時は大抵、今日一日で何か良いことがあった時がほとんど。
多分、それが何か聞いてほしいんだろうな。
ああいう時のお母さんは、いつもそれでご機嫌度が三割増しになるから。
でも・・・
「ありがとう、お母さん」
ちょっとだけ不安が拭えた気がする。
最後のアレは僕にとっては不必要だったけど、少しでも平常心に戻れたから、今回は不問ということにして。
両膝に手をついては立ち上がり、僕はゆっくりとお母さんが居てるだろう台所へ、晩御飯の準備のお手伝いに向かった。
公開は不定期になります。
基本的には以下の内容を目標に公開していく予定です。
・日曜公開
・18時公開
・週に一話〜半月に一話ペース




