第一話 お願いします! 3
こんにちは。
第一話の「3」になります。
最近になって、この話の第一話が終了しました。
浅い推敲しかしていない状態での公開なので、誤字・脱字があるかと思います。
近日中に推敲を行う予定ではありますが、ストーリーや設定そのものを変更するつもりは無いので、ご安心下さい。
これからも、よろしくお願いします。
「この奥にあるのー」
「え・・・?」
僕が連れて来られたのは、高校から自宅へ行き来している最中に前を通る神社の奥。細道で、かつ獣道のような、全く整備されていない道。
日が全く当たらなかったからか、地面からの熱が無くて肌寒いくらいなんだけど。
「ここ?」
空を見上げようにも木々の葉が邪魔をして、隙間隙間からしか確認出来ない。
街灯も無ければ、懐中電灯も無い。
ただ足元を照らしてくれそうなのは、スマホだけ。
昼間なら、まだマシだったのかな。あまりの暗さに、どことなくおどろおどろしさを感じて、思わず夏目ちゃんの背中に触れる。
「どうしたのー?」
ここを何回も行き馴れているからなのか、彼女の調子は全く変わっていなかった。
「ここ、通るの?」
「うんー、この先だからねー」
「そ・・・そうなんだ・・・」
「それじゃ、行こー」
握りこぶしを天に掲げて、夏目ちゃんの足が動き始める。
ここで僕だけ帰るにしても、何かが出てきそうで怖くなってきたし。そう思うと、僕がとれる行動は一つしか無かった。
スマホを取りだして時間を確認する。
まだ大丈夫だけど、一応遅れる事だけはお母さんに連絡しておこう。
足元に細心の注意を払いながらスマホをいじる。
文字を打っていると、足の動きも遅くなる。
「送信っと・・・」
全ての作業を終えて顔を上げると、先へ進んだ夏目ちゃんの姿が無かった。
「あれ・・・?」
暗さのせいもあって、まるで闇の中に取り残された感覚。
風が吹き、木の葉がこすれる音が、僕の精神を少しずつ貪り続けている。
「やだ・・・」
神社に入る前に触れていた、夏目ちゃんの手の感触を思い出しながら辺りを見回す。
「やだよ・・・」
途中、スマホを弄ったのは僕のせいなのはわかってる。
でも、まさか姿が見えなくなる位まで置いて行かれるとは思わなかった。
「夏目ちゃーん!」
『元気』が取り柄の私だけど、怖いのは大嫌い。
ましてやこんな、周囲は木だらけの真っ暗な獣道なんて、何が出てくるかわかんない。
もう一度、さっきよりも大声で呼んだけど、やっぱり変化は無かった。
「怖いよ・・・」
次第に不安から涙が浮かび上がってくる。
ちょっと風が吹いて、自然の音が聞こえるだけで、両肩が跳ね上がる。
左から聞こえたら首が激しく動き、右から聞こえたと思ったら、一瞬で首が回る。
「うぅ・・・怖いよ・・・」
ガサッーーー
「ぃ・・・い・・・ぴ・・・」
後ろから聞こえた音で、とうとう恐怖心が限界を超えた。
「ピギャーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
ドドドドドドド、と。我を見失った僕は、ひたすら道無き道を進み続ける。
風か自分の足元の草を踏みつけているのか、進む度にさっきと似た様な音が耳に入ってくる。
左に曲がり、右に曲がり。獣道から少し外れてしまっても、ただひたすら突き進む。
やがて、足元の出っ張りに躓き盛大に転ぶと、ようやく自分を取り戻しつつあった僕の目の前に小さな祠の存在に気づいた。
「・・・もしかして、これのこと?」
でも、夏目ちゃんの姿は見当たらない。
そう察すると、再び恐怖心が募って行く。
「もう、なんでもいい! これにお願いして帰りたい」
この後、夏目ちゃんと合流して、今度こそ目的の場所に行こうって言われても、もう行けない。
怖い。
行くなら、昼間とかにしたい。
でも、ただ何もせずにここに来ちゃったのも何かの縁かもしれないし。
それよりも、近くまで来ておいてお祈りとかもせずに帰ると、祟られそうな気がして。
「お供え物、何も無くてごめんなさい」
祠に近づき、両手を合わせて目を瞑る。
さっき転んだせいか、膝が熱くて痛い。
それでも、僕は祈りを込めた。
(滝本先輩と仲良くなれますように・・・)
三度同じ願い事を祈り続けてから、祠を背にして来た道を帰ろうとした。
「あ・・・」
スマホが震えているのがスカートから伝わってくる。
きっと、夏目ちゃんだ。
急いでスマホを取りだし、通話ボタンをタップする。
「もしもしー」
「あ、もしもし・・・」
いつもの口調ながら、どことなく暗い雰囲気なのは、多分私とはぐれたからだと思う。
僕が自分勝手な行動をしたばっかりに。多分、それで機嫌を損ねちゃったんだと思う。
一部始終の説明と共に何度も何度も謝り続けて、なんとか夏目ちゃんからの許しを得た直後だった。
「・・・え?」
足元にゆらゆらと揺れている黒い影。
背後から、ものすごく気持ちの悪い空気を感じた。
殺気?
狂気?
それとも・・・
「きりー、どうしたのー?」
電話の向こうで夏目ちゃんが僕を呼んでいる。
押し潰されそうな僕を呼び戻そうとしている。
けど、後ろを、祠を確認せざるをえなかった。
その気持ち悪さを、あたかも何事も無かったようにここを離れるなんて、そんな心のゆとりなんて僕には持っていなかった。
「え・・・え・・・?」
祠から黒い炎のような物が揺れている。
大きく、祠全てがそれに呑み込まれている。
「あ・・・あ・・・」
逃げなきゃ。
逃げて、ここから遠くへ離れなきゃ。
けど、足が動かない。
自分の中では、地面を蹴り上げて前へ進もうとするんだけど、体が一向に言う事を聞いてくれない。
「きりー? 聞こえてるー?」
まるで、金縛りに遭った気分。
夏目ちゃんは、僕を気にかけてくれているのか、ずっと呼び続けているんだけど、もうすれすらも耳に入って来ない程に、余裕が無くなってしまっている。
でも、不思議な事に涙は流れて来ない。
多分、そんな事してる余裕も無い程、体が危険信号を送っているのかもしれない。
「・・・・・・」
禍々しくも激しく燃えていた黒い炎が、少しずつ勢いを衰えていっている。
雨が降っている訳でも無いし、周りには木や草ばかりで、むしろ激しさを増してもいい筈なのに、だんだんと小さくなっていくソレ。
恐怖心はとうに頂点を通り過ぎたくらいだけど、すぐ傍に居た僕にすら危害を及ぼさない黒い炎は、やがて何事も無かったように消えていった。
「・・・・・・」
「きりー?」
なんでだろう。
あんなに怖かったのに、それが薄くなってきているのが不思議で仕方が無い。
「あ・・・うん・・・大丈夫」
「どこー?」
「えっと・・・祠があるんだけど・・・」
「ほこらー? どこそれー?」
「わかんないけど・・・」
「んーと、それじゃ神社の傍で一旦合流するー?」
「で、でも・・・時間が・・・」
部活が終わった時点でもう五時を過ぎていた。
スマホで時間を確認するまでもなく、もう家に帰らないといけないのはわかっていた。
でも・・・
「本当に祠があるの。どこかわからない?」
「うんー? どうやってそこまで行ったのー?」
「わかんないよ・・・一人になったのが怖くて、道じゃないとこを走ったかもだし、途中で何かに躓いて・・・」
とりあえず一歩二歩と歩くけど、風景は全く変わらない。
曖昧な記憶を辿りながら来た道を引き返そうとする。おそらく躓いたであろう石の出っ張りを見つけたけど、それから先へ行く事が出来ない。
「余計に迷ったらどうしよ」
「それじゃ、私も探すよー」
すごく嬉しいし、いち早く合流したい。
でも、一つだけ疑問が湧いた。
「ねぇ・・・僕の叫び声、聞こえてなかった?」
「うんー? 叫んでたー?」
「叫んでたよ。すごい大声で・・・」
もう、見つけてくれるなら恥も外聞もいらない。
とにかくここから抜け出したい。
抜け出して、明日も学校に行かないと、せっかくお願いしたのに滝本先輩と会えなくなっちゃう。
一歩ずつ足を動かす度に枯れ草の乾いた音が伝わってくる。
「怖くない、怖くない・・・」
「うんー? なにー?」
「あ・・・ううん。なんでもないよ」
何度も何度も、呪文を唱えるように、それでも夏目ちゃんに聞かれないように自己暗示を続ける。
少し進んだら右に曲がって、また少し進んだら左に曲がって。
それらを続けている内に、見覚えは無いにしても、ようやく多少舗装されている道に辿り着いた。
それだけで大きな安心感が生まれる。
休む間もなく夏目ちゃんに報告して、神社の鳥居の前で待ち合わせする旨で折り合いがついた。
「良かった・・・良かったよぉ・・・」
あの時の光景が蘇ってきた。
元々、僕が叫んで走った先にあったものだし、走り始めたのも僕の恐怖心から。
根源は全部僕にあるんだけど、それでも、やっぱりそういう場面になったら、怖くてどうしたらいいかわからなくなる。
それに、あの祠で見た黒い炎。
炎だったら、普通はオレンジとか黄色っぽいとか。それなのに、あそこで見たのは真っ黒だった。
辺りが暗くなっていたからなんて理由は通用しない。
あの炎は、絶対に普通じゃなかった。
「・・・・・・」
考えていても仕方が無い。
まずは、ここからの脱出が第一。
スマホを両手で握りしめながら、僕はかけ足で夏目ちゃんと一緒に居た神社の出入り口へ急いで行った。
公開は不定期になります。
基本的には以下の内容を目標に公開していく予定です。
・日曜公開
・18時公開
・週に一話〜半月に一話ペース