第二話 混乱しています 3
こんにちは。
第二話の「3」になります。
この話を書き終えたのが、打ち明けると元日でした。
かなり切羽詰まっています(汗)
これから、なんとか無理しない程度に頑張っていきます。
「おはよー!」
夏目ちゃんの一声で、教室中の視線が一緒にいた僕の方にも向いた。
「お、おはよう」
普段よりも小さい声で存在を知らせたけど、みんなは僕の姿を見ても何も感じていなさそうだった。
どうして・・・
みんなからしたら、今目の前に見覚えの無い不審者がいるというのに。
「きり、どうした?」
「えっ!?」
教室の出入り口で立ち尽くしていた僕の後ろから、聞き覚えのある声が僕の心臓を跳ねさせた。
「なんだよ、そんなに驚く事無いだろ?」
「あ・・・えっと・・・」
いきなりそんな事を言われても、どう反応すればいいのか。
なんせ、同じクラスではあるものの、この一年ほとんど彼とは話してこなかった。
僕自身、人見知りが激しい方だから、自分から心を開くのが難しかったりするんだけど。特に男子相手には。
「それよりさ、ノート貸してくれよ」
「え・・・?」
教室内が賑やかになってきている中、目の前の男子が自分のノートを机の中から取りだし、僕に見せてきた。
一瞬だけ、そこに山口保の文字が見えたけど、すぐにそれが視界から消えたと思ったら、文字がびっしりと詰まった紙が何枚も現れた。
・・・けど、文字が雑過ぎて読めない。
なんていうか、黒いミミズが行一杯に敷き詰められている様な。
「な。宿題、出来てないだろ?」
「・・・・・・」
突っ込みどころ満載だ。
宿題出来てない事をドヤ顔で言えるのもおかしいし、ノートを見せた所で・・・
見せた所で・・・?
「あ・・・」
そこまで考えて、ようやくそれが自分の身にも降り掛かっていた事を思い出した。
「宿題、忘れた・・・」
「・・・は?」
一瞬だけ、目の前の世界がモノクロに変わる。
そうだ。昨日は色んな事がありすぎて、宿題どころじゃなかったんだった。
・・・というか、部活で作ってるあのトートバッグも仕上げるのを忘れていた。
「お前が忘れるなんて珍しいな」
「・・・・・・」
その前に、話した事も無い男子から普通に話しかけられている、この事態の方がずっと珍しい。
なんて言いだしたら、もうキリが無いからやめよう。
「しゃあねえ。他のにあたるか」
「うん、ごめん」
「良いって。他のにあたったら、俺のノート見せてやるから」
「あ・・・それはいいかな」
僕の事を思っての行為だとは思うけど、なんとなく結果が見えてるというか。
「僕は、他の人にあたるから」
そういうと、山口君は小さくため息を吐きながら僕の元から離れていった。
「はぁ・・・」
自分の机にカバンを置き、傍の椅子に座る。
ここまでしても誰も気付いてくれないってことは、やっぱり僕、男の子として普段の生活に馴染んでいるという事なのかもしれない。
女の子だった、桐原天音は、皆の記憶から消えてしまっている。
確証はまだ持てなかった———というか、持ちたくなかった———けど、十分とも言える今のこの状況が全てを物語っている。
今まで見た事無いはずの男子が、昨日まで女子の席だった場所に座っても、誰一人怪訝な様子で見てこない。
山口君も、夏目ちゃんも、僕の事を気にする素振りなんて全く無かった。
「・・・・・・」
教室の熱気が少しずつ上がってきた所で朝のチャイムが鳴った。
しばらくして先生もやってくる。
手にしていた物を教卓に置いて、僕ら生徒達を一瞥していたけど、やっぱり何も言ってこなかった。
「えー、それじゃ今日の予定だけど・・・」
奇怪な状況に陥っている僕を無視するかの様に話が進んでいく。
その言葉を一言一句全てを聞き入れる程、今の僕の中には余裕なんて物が存在しなかった。
公開は不定期になります。
基本的には以下の内容を目標に公開していく予定です。
・日曜公開
・18時公開
・週に一話〜半月に一話ペース




