王子の目撃
「・・・だそうだ」
「え、そうなんですか?」
「ああ、今度2人で行こう」
「はい、楽しみにしてます」
中庭のベンチで仲睦まじく寄り添う男女
同じ歳の幼馴染デュークと、その婚約者・・・、名前はなんだったか覚えていないが
2人はピタリと肩を合わせ、手は指を組んで握り合っている
所謂恋人繋ぎだった。
「あ、」
「良いだろ?」
「ダメです、デューク様は火が着くと止まれないんですから」
「少しだけ・・・」
「ん、・・」
そっと唇を重ねる2人、直ぐに離れるが
デュークは笑顔で、婚約者の女は顔を真っ赤にしている
「な、少しだけだろう?」
「うん・・・」
「もう1回」
「ダメです、2度目は本当にダメ!」
「何故だ、1度も2度も変わらない」
「もう、そう言ってこの間止まらなかった癖に・・・」
「ははは、すまん」
「・・・」
ぽんとデュークの胸に寄りかかる女
デュークも穏やかな顔でされるがまま
そこからは小声で会話していて聞こえなかったが、時折クスクスと笑い合う声が耳に届いていた
「・・・何故俺が隠れねばならん」
王子は生け垣を盾にデューク達から見えないように身を隠していた
デュークに用があって探していたが、声を掛けようとした瞬間に女も居ることに気付く
デュークの婚約者、何故かあの女の前では平常で居られない
見ているとムカムカとして、大事な幼馴染の婚約者だと言うのにどうしても紳士的に振る舞えなかった
しかしデュークもデュークだ、俺の姫が見付からないのに執務室へ女を連れ込んで、くそっ!
どこかで見た事がある様な気もするが、あんな暗い髪色で顔も見えないメガネの女なんて1度会っていたら忘れない
多分気のせいだ。
いや、そもそも俺と会うような人間であんな地味で飾り気の無い女は居ない
デュークには悪いが、あんな地味な女のどこが良いのか分からない
話は今度でいいか、と中庭を立ち去る王子。
「デューク、居るか?」
執務室に入った王子は姿の見えないデュークを探す
護衛騎士はデュークは居ると言っていたが見当たらなかった
「————!」
「————?」
奥のキッチンから声が聴こえてきた、そっと覗き込む王子
「難しいな」
「慣れたら出来ますよ、ほら、こうやって」
驚く事にデュークが包丁を持って芋の皮を剥いている
女は手馴れた様子で皮をスルスルと1本繋いだままひとつ剥きあげた
「上手いな」
「デューク様も上手ですよ、私は最初そこまでは出来ませんでしたから」
「そうか」
「はい」
「あとは煮込めばおしまいです」
「シンデレラ・・・」
「きゃっ、なんですか?」
エプロンドレス姿の女に後ろから抱き着くデューク
胸の下、お腹に手を回している
女はいつも猫背で分からなかったがデュークの腕に乗る胸はかなり大きい
「っ、」
何考えてるんだ俺は、デュークの婚約者だぞ!?
それにあんな女、俺の趣味とは真反対だ
俺が望むのは消えた姫君だ
光り輝く金の髪に、深みのある碧の瞳、唇は真っ赤に熟れた果実のようで肌は透き通るように白く
顔の造形は神が作りたもうたとさえ言っても良いだろう美しさ
身体は細いのにむっちりと出る所は出ていて、なんとも言い表せない甘い香りを纏う姫。
決してあんな女は趣味ではない!
やはりイチャつく2人に腹を立てて王子は何も言わずに執務室を出て行った。