絡まれました?
雪との話もそこそこに職員室へ行って休学の手続きを終わらせましょ。
道中もすれ違う人からヒソヒソと・・・
「なんであんなのが・・・」
「大公様の?」
「あんな子が行けるならわたくしでも・・・」
君ら、いくらなんでも失礼じゃないかな!?
外見だけで人を判断すると痛い目を見ますよ
王子とか王子とか王子とか・・・
雪の話によると
王子が舞踏会で運命の人宣言してから、令嬢の熱い視線の方向が王子からデューク様にシフトしたそうです
あれだけの大人数の前で宣言されては勝ち目は無いと
次はフリーの大公様!だとか。
ですが
舞踏会から程なくしてデューク様と私の婚約が明らかになり(実際はこの時に婚約を結んだ)
地味子シンデレラを知る人間からみれば、なんであんな子が!?となったようです
うーん、諸事情に諸事情が重なり
政略的、と言っていいのか判断に迷う所ですが
まあ政略的に助けて戴いた結果、恋愛に発展しました!
なーんて言えない、言っても信じてくれないです
周囲に対して何と言うかはデューク様とも話し合いを進め
学校は休学になるから気にしない
そして、唯一こうして登校した時・・・
「待ちなさい!シンデレラ・トゥラヴス伯爵令嬢!」
ほら来たー!
「はい?なんでしょうか・・・」
シンデレラが振り向くと、そこには金髪縦ロールでツリ目の如何にもな令嬢が立っていた
「来なさい、話があります」
「はあ・・・」
シンデレラの返事を聞くまでもなく、コツコツと先に歩いて行く令嬢
ミュリゼ・ニュクス公爵令嬢、王子の婚約者候補の中でも本命と言われていた人物
王家、大公家を除くと国1番の大貴族で、家格的に公爵令嬢の婚約者として相応しいのは王家と大公家しかなく
舞踏会までは大本命だった令嬢。
「初めましてシンデレラさん、私はミュリゼ・ニュクス公爵令嬢、聞きたい事があります」
「はあ」
「ロード様との婚約のお話聞きました、おめでとうございます」
にこりとした彼女はおめでとうと祝う様子では全然有りません
恐らく彼女の心境としては
舞踏会で王子に選ばれる筈が、当の王子は名も知らぬ娘に夢中になり
ならば大公家へと対象を替えては、実は婚約者が2年前から居ます。
と、公爵令嬢たる自分が蚊帳の外のまま売れ残りのような立場に突然なったのです
プライドの高い貴族、それも彼女のような一流の令嬢からしたら腹立たしい事この上ないと思われます。
だからと言って、王家にも大公家にも噛み付く事は出来ない、事前に密約などをしてミュリゼ様が婚約者の立場を手に入れている訳でもないですからね
はい、此処で弱小伯爵家から大公様と婚約を結んだ私です
情報を集めようとしても大して目立った話は無く
少し前に誘拐されてからは休んでいる
そんな私がノコノコと休学の手続きに学校へと現れました
分かりやすいですね、私はどんな人物なのか
可能なら私に身を引かせ、それが無理でも王子周りの話を聞けないか?
といった具合ですね。
「シンデレラさん、わたくし貴方に沢山聞きたい事があるの」
「はあ」
「どうやって貴女の様な方が大公様のお傍に?」
(弱小伯爵家如きが身の程を知りなさい)
うん、素晴らしい副音声です
「香水、ですかね・・・」
「こ、香水?」
イヤミをまるっと無視して返答されるとは思っていなかったのか、ミュリゼ公爵令嬢は少しだけ焦った様に聞き返して来ました。
「はい、デューク様は強い香りがお嫌いで・・・、ほら私は見ての通り、化粧っ気も何も有りませんから」
嗅いでみろとばかりに公爵令嬢の前に手を差し出します
「・・・そうね、香水の香りはしないわ」
「ええ、以前伯爵家の爵位のご相談でお城に御伺いを立てに行った時に、」
「君は、香水を付けてないのか?」
「と、お話する事がありました」
歳頃の令嬢も、夫人もですが、香水を付ける人が多いです
私は強い匂いを纏っていなかったので容姿とは裏腹に逆に目に留まりました
と言う設定。
「そうなの、香り・・・」
「因みに王子も香水はあまり・・・」
ピク
「そうなの?へえー、それは大公様から?」
うーん、意外と素直な子かも知れない
素っ気ない振りをしつつも次を促して来る公爵令嬢
「はい、デューク様にそう伺っています」
「そう、そう言えばシンデレラさん、貴女、城の方に顔を出しているそうね?
休学ではないのかしら?」
「あ、あの・・・、私、」
休学の筈なのに城を彷徨いている、まあ不思議ですよね
シンデレラは俯き、ギュっと身を守るように縮こまらせる
察しの言い公爵令嬢なら、こう思う
攫われた事で酷い目に遭い思い出した
そして城には行っていても学校に来ないのは、その事に関係しているのだと
「あ、ご、ごめんなさい、無理しなくて良いわ」
「いえ、大丈夫です、あの日からデューク様が御心配為さって、ずっと傍に居ろと・・・」
「まあ!なんてお優しいの」
「はい、それでずっと執務室の方に置いて頂いてます」
「ずっと?なら陛下や殿下にも・・・」
「はい、何度か・・・」
「そうなの、そう言えば最近気になる噂が流れているけど本当なのかしら?」
「あ、それって、彼の消えた姫君の捜索期間について?」
「そうそう、姫君は見付からず、かと言って王子殿下のお歳を考えると・・・」
噂とは、王子の探している消えた姫君の捜索期間を
国王陛下が半年と区切った事です
姫君が見付からない、出て来ない、で
国王陛下も王子にそろそろ諦めろとやんわり伝えているとか
これは本当
「やはりね、では改めてお妃候補を探すのかしら?」
白々しく言う公爵令嬢、どうなの?そこら辺何か知らないの?
まあわたくし以外に相応しい令嬢も居ないでしょうけど?
ですかね、これは。
「さあ、デューク様もそういった事はお話にならないので・・・、ですが」
「なに?」
「やはり陛下は王子に相応しい家格の令嬢をと考えている、とはデューク様が仰っていました」
「そう!そうなの!」
ぱぁーっと明るくなる公爵令嬢ミュリゼ様
彼女がここで喜ぶのには理由があります
舞踏会は爵位順で数日令嬢が招かれていましたが
後の方の日程では裕福な商人やそれなりにドレスコードを守れるのであれば庶民の参加も許されていたのです
つまり、国王陛下は出自に限らず王子が望んだならば妃に据えると言ったようなものです
これに焦ったのは貴族、特に上の爵位の貴族であればあるほど庶民が自分達の上に頂かれては堪らないと焦ります。
ミュリゼ公爵令嬢もその1人
今の話は結局庶民は認めず、貴族の血筋を以て候補者を選ぶという意図です
元々の大本命ミュリゼ様は自分の有利を悟り喜んだ、という事ですね。
謎の存在な私を排除して大公様の妻になるか
それとも改めて王妃の席が空いた王子の隣に並ぶか
大公様の婚約者をいちいち排するとなると、私は兎も角大公様の怒りを買うかもしれない
王子の隣は空席
王子と大公は幼馴染で旧友なので、どっちの立場が上か下かという争いにはならない
元の爵位を考えると、自分が王妃になれば大公の妻になる私の頭を抑えられる
なんて、そんな計算が公爵令嬢の頭の中でされているでしょうね
残念ながら私が次期王妃と絡む予定はございません
と言うのもそう言った権力立場争いに国王の妻と大公の妻がやり合っては少なからず夫の国王と大公に影響を与えます。
国の為に仕事をする彼らの障害になりかねない事を、少なくとも大公家は良しとしませんので社交界でのお付き合いも最低限になります。
意外と、王家も大公家もそこら辺ドライなんですよ公爵令嬢様?