大公家
「折れてはいませんが、当分安静にしないといけませんね。
恐らく捻った後も走り続けたので炎症が悪化しています、では。」
「ありがとうレピオス」
「ありがとうございます」
問答無用で大公様にお屋敷まで運ばれた
道中どうにもこうにも困っていると
「レディ、私はこのまま君を運ぶのを譲らないよ
どちらかと言えばしっかり掴まってくれた方が素早く移動出来るのだが・・・」
なんて言われてしまえば従う他なかった
諦めて大公様の首に手を回して自分の体重を少し支えると・・・
「いい子だ、そのままで」
ひゃー!耳元でイケボで囁くの止めてくれませんかね!?
前世と今世合わせて、交際経験無し歴40年を超える地味子ですよ私は
ゾクゾクしてしまいました。
そして、大公家にはお医者様も常駐しているらしい
手早く診断、薬草を巻いてガッチガチに左足首を固定された
お風呂は当分避けた方が良いらしい
擦りむいた膝も洗浄消毒してくれた。
治療後には他の侍女さん達が裸足で走り回って汚れた足裏を洗い、汗も拭いてくれた
しかも、
「靴は騎士団から回収して来たよ、コレで合ってるかな?」
「は、はい・・・」
「ああ、後トゥラヴス伯爵邸にも遣いを出しているから安心しなさい
当分は我が家で過ごすといい
此処には騎士団は入れないし、王子も、ね?」
なんか全て分かってるかの様な対応
至れり尽くせりで逆に恐ろしいのですが?
「あの大公様、何故助けてくれたんですか?」
「デューク」
「はい?」
「大公様ではなくデュークと呼んでくれ」
「デューク様?」
「様も要らない」
「いやあ、そんな失礼は・・・」
「失礼では無いからデュークと、私はレディの事をシンデレラと呼ぶから、ね?」
「あ、はあ、でも、デューク様と呼びます」
「・・・仕方ないな、うん、なんだいシンデレラ、何でも答えよう」
すっごいニコニコしてる
ここまで良くして貰える心当たりが無いんだけど
どういう事!?
「助けてくれた理由なんですが・・・」
「理由は確かにある、けどそれは今話すべきではないと思っているんだ。
話せる事と言えば、そうだな・・・
王子からは守ってあげよう、消えた姫君?」
「!!」
デューク様が仰った「消えた姫君」というのは
舞踏会で王子とダンスをして忽然と消えたシンデレラの事だ
名前も名乗らず、王子が運命の人と公言している謎の美女
今も騎士団を使って血眼になって探している存在
私は眼鏡を外してもいないし髪も染めたままなので
私=消えた姫君という事実を知っているのは家の皆以外は居ない、と思っていた。
「何故、私が消えた姫君だと?
公表されている特徴の姫君と私では全く違いますし
学校に王子様も来てガラスの靴を試していますが履けませんでした、人違いです。」
極めて冷静に努める
騎士団から助けてくれたと言っても、この人は大公様
王様の片腕にして、王子に最も近しい存在だ
城へ連れて行かれるかも知れないし、既に王子に連絡が行っている可能性もある
足は、動かせない・・・
完全に袋のネズミだ。
「ふ、くっくっく、」
笑ってる・・・、それはどういう笑いですかね?
抵抗は無意味だ諦めろ的なものでは無い事を祈ります。
「シンデレラ、貴女の歩き方には癖がある
普段の君の歩き方と姫君の歩き方が全く同じだった」
「?、私とデューク様の接点は舞踏会で精々遠くから見たくらいですよね?
その言い方では、以前から私の事を知っているかのような・・・」
「知っている」
「え?」
「君の事は知っているよ、数年前からね」
デューク様が言った意味が分からない
舞踏会以前に彼には会った事が無いはずなのに、あっちは知っていると言う
私は今確実に追い詰められている筈
でも今すぐに逃げなければという気持ちにはならなかった
デューク様の目がとても穏やかで親しい友人に話し掛けるかのような態度だったから。